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2章 父と娘と一触触発
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スタジオ内に重ねて置いてあった丸椅子を1つ拝借し、壁際に簡易的な観客席を作りあげる。そこにきらりちゃんを座らせた後、俺達4人もそれぞれの配置についた。
いつもはお互いの音を聞きやすいように、円を描いてそれぞれが向かい合う形の配置について練習をするんだけど、今日はカワイイお客さんがいるので、そちらに全員が向き合うように立つ。
後列にドラム、前列左にギター、真ん中にボーカル、右にベースと各々並び各自演奏準備をしていく。
立ち位置だけ見ると、本当にちゃんとしたライブのそれだ。動画撮影の時だって、ここまでしっかり並んだ事はない。
まぁ、これに関しては、俺の顔がカメラに映り込まないように配置を考えないといけない事が原因なわけですが。
毎度お手数おかけいたします。へへ……。
(それにしても、)
ぐるりと、軽く周囲を見回す。
(この並び、あのライブ以来だな)
頭の中に、かつての記憶がよみがえる。
バンドでビッグになりたかった。そんなかつての自分達が憧れ、一度だけ立ったことがあるステージ。
俺・優作・拓弥の3人が、一度音楽をやめ、バンドから離れるきっかけとなったライブ――、そのステージ上での光景が、はっきりとよみがえってくる。
(ステージの上でなければ、観客も1人だし、なんならメンバーだってあの時と違う)
ちらりと、かつてのメンバーが立っていた位置へ目を向ける。
そこにはベースを片手に、足元に置いてあるエフェクターの配置を確認しているたかのっぽくんの姿があった。俺の視線に気がついたのか、不思議そうに顔をあげてきたたかのっぽくんと目が合う。
「? どうかしましたか」
問いかけてきたたかのっぽくんに、「ううん、なんでもない」と苦笑を返した。
(そうだ、あの時とは違う)
そうわかっているのに……。
バクバクと嫌な音をたてて鳴る心臓と共に、あの日見た光景が頭の中で次々と再生されてしまう。
いくつものスポットライトに照らされた眩い世界。
その向こうに広がる薄暗い世界。広すぎず狭すぎずの四角い薄暗闇の中に押し込められた、幾人もの人達。
本来なら向けられるはずの眼差しのほとんどがこちらに向けられず、得られる拍手もまばらで、歌えば歌うほどに喉が、腹が、心臓が締め付けられていく感覚に襲われる。
いつもはまっすぐに、うるさいほどに遠くに向かって出ていくはずの自分の大きな声。
それが見えない冷たい刃で切り刻まれたかのように、すぐ目の前で散り散りになってかき消えていく。
自分達が自信を持って作り上げたものが、ガラガラと音をたてて崩れていくのが、手に取るようにわかる感覚。忘れがたいあの感覚が、俺の胸中を襲う。
(思った以上にトラウマになってるな、俺)
動画投稿の時は、特にそんな意識しなかったんだけどなぁ。実際に人目があるかないかの差なのかな。思わず苦笑がこぼれ落ちる。
拓弥と優作はどうだろうか。己の横と後ろで準備をしている、当時からの仲間達に目を向ける。
すると、どこか固い表情で楽器をいじる2人の姿が目についた。
どうやら、2人も同じ心地になっているらしい。きっと言い出しっぺの優作あたりは、なんであんな事言っちまったんだ、とでも後悔してたりしそうだ。
それでも誰もやめようとは言わないのは、きっと、目の前で俺達の演奏を楽しみにしている子がいるから。
キラキラと輝く瞳とわくわくした笑顔で、俺達の演奏を心待ちにする無邪気な観客。
彼女を前にして、やっぱりやめようなんて、大人げない事を言う奴はここにはいない。
(とにもかくにも、今はきらりちゃんを楽しませる事が最優先だ)
よしっ、と緊張を振り払うように、パシッと軽く頬を叩いた。
そうして、目の前に置かれているマイクスタンドを、グッと力強く握る。
ここまで来たらもう、やってやれ、だ。
ダメな時はダメだし、上手くいく時は上手くいく! 緊張なんてしてる余裕はないぞ、俺っ。
改めて皆を見回すと、準備が整ったのか、誰もが俺と目を合わせてくる。
演奏開始の了承を確認するように、皆と無言でうなずきあった後、「そんじゃ、いきまーす」と俺は声をはりあげた。
――次の瞬間、強烈な疾風がスタジオ内に吹き荒れた。
力強いドラムの音で始まる出だし。
疾走感のある鋭く細かいリズムが、荒れ狂う風のように響き渡ったかと思った瞬間、その勢いに乗っかるようにギターが加わる。ドラムが叩くリズムに意気投合するように、同じリズムの旋律がかき鳴らされる。
かと思えば、次の瞬間にはベースが加わり、2つの音とは異なる旋律を奏で出す。
細かい音を鳴らす2パートを支えるように、気がつけばバラバラの演奏をし始めた仲間達の間を繋ぎ止めるように、低く分厚い音が1音1音深くしっかりと鳴らされる。
次から次へと繰り広げる音の展開。それは、たとえるなら大きな物語か何かのようだ。
目まぐるしく展開されていく物語。
定められた道筋に誘われるように、それこそがまるで運命だとでもいうように、
「 」
整えられた物語の舞台に、主人公が足を踏み入れる――。
いつもはお互いの音を聞きやすいように、円を描いてそれぞれが向かい合う形の配置について練習をするんだけど、今日はカワイイお客さんがいるので、そちらに全員が向き合うように立つ。
後列にドラム、前列左にギター、真ん中にボーカル、右にベースと各々並び各自演奏準備をしていく。
立ち位置だけ見ると、本当にちゃんとしたライブのそれだ。動画撮影の時だって、ここまでしっかり並んだ事はない。
まぁ、これに関しては、俺の顔がカメラに映り込まないように配置を考えないといけない事が原因なわけですが。
毎度お手数おかけいたします。へへ……。
(それにしても、)
ぐるりと、軽く周囲を見回す。
(この並び、あのライブ以来だな)
頭の中に、かつての記憶がよみがえる。
バンドでビッグになりたかった。そんなかつての自分達が憧れ、一度だけ立ったことがあるステージ。
俺・優作・拓弥の3人が、一度音楽をやめ、バンドから離れるきっかけとなったライブ――、そのステージ上での光景が、はっきりとよみがえってくる。
(ステージの上でなければ、観客も1人だし、なんならメンバーだってあの時と違う)
ちらりと、かつてのメンバーが立っていた位置へ目を向ける。
そこにはベースを片手に、足元に置いてあるエフェクターの配置を確認しているたかのっぽくんの姿があった。俺の視線に気がついたのか、不思議そうに顔をあげてきたたかのっぽくんと目が合う。
「? どうかしましたか」
問いかけてきたたかのっぽくんに、「ううん、なんでもない」と苦笑を返した。
(そうだ、あの時とは違う)
そうわかっているのに……。
バクバクと嫌な音をたてて鳴る心臓と共に、あの日見た光景が頭の中で次々と再生されてしまう。
いくつものスポットライトに照らされた眩い世界。
その向こうに広がる薄暗い世界。広すぎず狭すぎずの四角い薄暗闇の中に押し込められた、幾人もの人達。
本来なら向けられるはずの眼差しのほとんどがこちらに向けられず、得られる拍手もまばらで、歌えば歌うほどに喉が、腹が、心臓が締め付けられていく感覚に襲われる。
いつもはまっすぐに、うるさいほどに遠くに向かって出ていくはずの自分の大きな声。
それが見えない冷たい刃で切り刻まれたかのように、すぐ目の前で散り散りになってかき消えていく。
自分達が自信を持って作り上げたものが、ガラガラと音をたてて崩れていくのが、手に取るようにわかる感覚。忘れがたいあの感覚が、俺の胸中を襲う。
(思った以上にトラウマになってるな、俺)
動画投稿の時は、特にそんな意識しなかったんだけどなぁ。実際に人目があるかないかの差なのかな。思わず苦笑がこぼれ落ちる。
拓弥と優作はどうだろうか。己の横と後ろで準備をしている、当時からの仲間達に目を向ける。
すると、どこか固い表情で楽器をいじる2人の姿が目についた。
どうやら、2人も同じ心地になっているらしい。きっと言い出しっぺの優作あたりは、なんであんな事言っちまったんだ、とでも後悔してたりしそうだ。
それでも誰もやめようとは言わないのは、きっと、目の前で俺達の演奏を楽しみにしている子がいるから。
キラキラと輝く瞳とわくわくした笑顔で、俺達の演奏を心待ちにする無邪気な観客。
彼女を前にして、やっぱりやめようなんて、大人げない事を言う奴はここにはいない。
(とにもかくにも、今はきらりちゃんを楽しませる事が最優先だ)
よしっ、と緊張を振り払うように、パシッと軽く頬を叩いた。
そうして、目の前に置かれているマイクスタンドを、グッと力強く握る。
ここまで来たらもう、やってやれ、だ。
ダメな時はダメだし、上手くいく時は上手くいく! 緊張なんてしてる余裕はないぞ、俺っ。
改めて皆を見回すと、準備が整ったのか、誰もが俺と目を合わせてくる。
演奏開始の了承を確認するように、皆と無言でうなずきあった後、「そんじゃ、いきまーす」と俺は声をはりあげた。
――次の瞬間、強烈な疾風がスタジオ内に吹き荒れた。
力強いドラムの音で始まる出だし。
疾走感のある鋭く細かいリズムが、荒れ狂う風のように響き渡ったかと思った瞬間、その勢いに乗っかるようにギターが加わる。ドラムが叩くリズムに意気投合するように、同じリズムの旋律がかき鳴らされる。
かと思えば、次の瞬間にはベースが加わり、2つの音とは異なる旋律を奏で出す。
細かい音を鳴らす2パートを支えるように、気がつけばバラバラの演奏をし始めた仲間達の間を繋ぎ止めるように、低く分厚い音が1音1音深くしっかりと鳴らされる。
次から次へと繰り広げる音の展開。それは、たとえるなら大きな物語か何かのようだ。
目まぐるしく展開されていく物語。
定められた道筋に誘われるように、それこそがまるで運命だとでもいうように、
「 」
整えられた物語の舞台に、主人公が足を踏み入れる――。
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