Herec 2nd~一度音楽をやめた奴らが結成した『社会人バンド』がMVを作る事になった話~

勝哉道花@みちなり文庫

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2章 父と娘と一触触発

2-12

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 ダンッ! と綺麗に合わせられた音で、全パートの演奏が一斉に止まる。

 勢いよく始まった出だしと同じように、力強い勢いで締められた終わり。途端、それまで狭いスタジオ内を奔流していた音の渦が消え、1ミリの余韻も残す事なく静寂が場を支配した。

 が、それもほんの一瞬のこと。
 次の瞬間には、「すごーいっ!」というきらりちゃんの大声がスタジオ内に響いていた。

「すごい、すごい、すごーい! かっこいいー! パパも透くんもみんなかっこいいー!」

「楽器がね、ジャーンッてなって、バーンッて音がして、ビューンッてすっごい音が飛んできたー!」ときらりちゃんが、両手両足をバタつかせながら椅子の上で言葉を続ける。

 おうおうおうおう、擬音語がむちゃくちゃに多い感想だぜ。
 でも、言いたい事はなんとなくで伝わってくるし、伝えたいであろう事もなんとなくでわかる。「そんなにカッコよかった?」と尋ねれば、「カッコよかったー!」と、これまた無邪気な言葉が返された。なんともまぁ、演奏者冥利につきる言葉だ。

「そっかー」と頷き返しつつ、ニヤニヤと口角があがるのが止まらない。
 実はちょっと失敗しちゃったんだよね、とかそういう野暮な話は、今だけは後回しである。

 拓弥の方を見ると、ホッと息をついている姿が目についた。無事に娘を喜ばせる事ができて安心したのだろう。

 優作とたかのっぽくんの方にも顔を向ければ、満足げに口の片端を持ち上げて笑う優作と、小さく口元をほころばせているたかのっぽくんの姿が目につく。
 笑い方は違うけど、2人とも嬉しそうだ。
 きらりちゃんの言葉が、この場に居る誰もの心に大きく響いてるのは確かだろう。

(そういえば俺達って、こうやって誰かから感想を貰った事って、今までないんじゃない?)

 確かに動画投稿はしてるけど、いつも反応は微妙だし、感想らしい感想がコメント欄についた事だってない。こうやって直に感想を言って貰えたのは、これが初めてと言っても過言ではないだろう。

 バンドをよく知らない子どもだからとか、相手の好きな曲を演奏したからだとか、もちろんそういった要因もあると思う。

 でもそれでも、今こうして言葉をもらった事、それ自体は確かな事実だ。
「かっこいい」「凄い」そうした言葉や、この目の前の笑顔を引き出したきっかけが、確かに自分達の演奏にあるのだ。

 そう自覚した途端、カーッと胸が熱くなった。
 嬉しい。本当に、純粋に。ただただ嬉しい。
 その言葉で胸がいっぱいになる。

 その時、ふいに頭の中に、数刻前にシオリちゃんに言われた言葉がよみがえってきた。

 ――『誰かの目に触れた途端、作品というのはそれを聴いてくれた人、見てくれた人、そうした人達ためのものにもなるんです』
 ――『誰かに見てもらいたいなら、貴方達だけが楽しくちゃ意味がないんですよ』

(……誰かのための音楽、か)

 俺達の楽曲を聴いてくれる人の、見てくれる人のための音楽。
 あの時シオリちゃんにそれを言われた時は、『誰かのために楽曲を作る』といった意味なのだとばかり思っていたけど……。

(本当に、それだけなんだろうか)

 アレンジも何もない単調なカバーで、お世辞にも上手いとは言い切れない演奏で、それでもこうやって楽しんでくれた人がいる。

 ならば、これもまた1つの『誰かのため』という形になり得るのではないのだろうか。
 無邪気にはしゃぎ続けるきらりちゃんの姿に、そんな考えが頭の中に浮かんだ。

「ひとまず」と、拓弥が場をまとめるように口を開いた。
 そうしてギタリストからパパの顔へ戻ったかと思うと、自分の娘の下に向かい、その横に立って、ぽんと軽く娘の背中を叩いた。

「楽しんでくれたようでなによりです。それじゃほら、きらり、演奏してくれた皆にお礼は?」
「あっ‼」

 拓弥の言葉にハッとしたように、きらりちゃんが椅子から飛び降りた。

 そうして、俺、優作、たかのっぽくんに向かって大きく頭をさげると、これまた大声で「"えんそう"してくれて、ありがとうございました!」と続けた。

「どういたしましてー」「おう、どういたしまして」と俺・優作で口々に返す。
 たかのっぽくんの方も、少し戸惑いがちにではあるが、「どういたしまして」と俺達に続く形でペコりときらりちゃんに頭をさげ返している。

 顔をあげたきらりちゃんが、「うひひひ」と笑った。

「きらり、パパがこんなかっこいいことしてるなんて知らなかった! こんど、クラスのみんなにじまんしちゃお~」

「きらりのパパ、『不滅のつるぎ』ひけるんだって、みんなにじまんする~」ときらりちゃんが、ぴょこぴょことその場で小さくジャンプをする。

 あ~、わかるわかる。自分のパパが皆の好きなアニメの曲をギターで弾けるなんてさ、そりゃあ自慢したくなるよね~。

 俺も小さい頃は、親に好きなゲームを買ってもらえただけで自慢してた記憶あるわ。
 親がしてくれた事って、それだけでなんかこうよくわからない優越感があって、誰彼にも自慢したくなっちゃうんだよな。あれってなんでなんだろうね。

 まぁ、拓弥自慢される側としては恥ずかしさで胸いっぱいなんだろうけど。だからといって、気分が悪くなるものではないはずだ。

 嬉しさ半分、旧友へのからかい半分。
 そんなノリで、「いいじゃん。自慢しちゃいなよ」と、きらりちゃんに同意しようとした時だった。

「ダメだよ」

 ――拓弥がキッパリとした声で、そう返してきた。
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