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2章 父と娘と一触触発
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ダンッ! と綺麗に合わせられた音で、全パートの演奏が一斉に止まる。
勢いよく始まった出だしと同じように、力強い勢いで締められた終わり。途端、それまで狭いスタジオ内を奔流していた音の渦が消え、1ミリの余韻も残す事なく静寂が場を支配した。
が、それもほんの一瞬のこと。
次の瞬間には、「すごーいっ!」というきらりちゃんの大声がスタジオ内に響いていた。
「すごい、すごい、すごーい! かっこいいー! パパも透くんもみんなかっこいいー!」
「楽器がね、ジャーンッてなって、バーンッて音がして、ビューンッてすっごい音が飛んできたー!」ときらりちゃんが、両手両足をバタつかせながら椅子の上で言葉を続ける。
おうおうおうおう、擬音語がむちゃくちゃに多い感想だぜ。
でも、言いたい事はなんとなくで伝わってくるし、伝えたいであろう事もなんとなくでわかる。「そんなにカッコよかった?」と尋ねれば、「カッコよかったー!」と、これまた無邪気な言葉が返された。なんともまぁ、演奏者冥利につきる言葉だ。
「そっかー」と頷き返しつつ、ニヤニヤと口角があがるのが止まらない。
実はちょっと失敗しちゃったんだよね、とかそういう野暮な話は、今だけは後回しである。
拓弥の方を見ると、ホッと息をついている姿が目についた。無事に娘を喜ばせる事ができて安心したのだろう。
優作とたかのっぽくんの方にも顔を向ければ、満足げに口の片端を持ち上げて笑う優作と、小さく口元をほころばせているたかのっぽくんの姿が目につく。
笑い方は違うけど、2人とも嬉しそうだ。
きらりちゃんの言葉が、この場に居る誰もの心に大きく響いてるのは確かだろう。
(そういえば俺達って、こうやって誰かから感想を貰った事って、今までないんじゃない?)
確かに動画投稿はしてるけど、いつも反応は微妙だし、感想らしい感想がコメント欄についた事だってない。こうやって直に感想を言って貰えたのは、これが初めてと言っても過言ではないだろう。
バンドをよく知らない子どもだからとか、相手の好きな曲を演奏したからだとか、もちろんそういった要因もあると思う。
でもそれでも、今こうして言葉をもらった事、それ自体は確かな事実だ。
「かっこいい」「凄い」そうした言葉や、この目の前の笑顔を引き出したきっかけが、確かに自分達の演奏にあるのだ。
そう自覚した途端、カーッと胸が熱くなった。
嬉しい。本当に、純粋に。ただただ嬉しい。
その言葉で胸がいっぱいになる。
その時、ふいに頭の中に、数刻前にシオリちゃんに言われた言葉がよみがえってきた。
――『誰かの目に触れた途端、作品というのはそれを聴いてくれた人、見てくれた人、そうした人達ためのものにもなるんです』
――『誰かに見てもらいたいなら、貴方達だけが楽しくちゃ意味がないんですよ』
(……誰かのための音楽、か)
俺達の楽曲を聴いてくれる人の、見てくれる人のための音楽。
あの時シオリちゃんにそれを言われた時は、『誰かのために楽曲を作る』といった意味なのだとばかり思っていたけど……。
(本当に、それだけなんだろうか)
アレンジも何もない単調なカバーで、お世辞にも上手いとは言い切れない演奏で、それでもこうやって楽しんでくれた人がいる。
ならば、これもまた1つの『誰かのため』という形になり得るのではないのだろうか。
無邪気にはしゃぎ続けるきらりちゃんの姿に、そんな考えが頭の中に浮かんだ。
「ひとまず」と、拓弥が場をまとめるように口を開いた。
そうしてギタリストからパパの顔へ戻ったかと思うと、自分の娘の下に向かい、その横に立って、ぽんと軽く娘の背中を叩いた。
「楽しんでくれたようでなによりです。それじゃほら、きらり、演奏してくれた皆にお礼は?」
「あっ‼」
拓弥の言葉にハッとしたように、きらりちゃんが椅子から飛び降りた。
そうして、俺、優作、たかのっぽくんに向かって大きく頭をさげると、これまた大声で「"えんそう"してくれて、ありがとうございました!」と続けた。
「どういたしましてー」「おう、どういたしまして」と俺・優作で口々に返す。
たかのっぽくんの方も、少し戸惑いがちにではあるが、「どういたしまして」と俺達に続く形でペコりときらりちゃんに頭をさげ返している。
顔をあげたきらりちゃんが、「うひひひ」と笑った。
「きらり、パパがこんなかっこいいことしてるなんて知らなかった! こんど、クラスのみんなにじまんしちゃお~」
「きらりのパパ、『不滅のつるぎ』ひけるんだって、みんなにじまんする~」ときらりちゃんが、ぴょこぴょことその場で小さくジャンプをする。
あ~、わかるわかる。自分のパパが皆の好きなアニメの曲をギターで弾けるなんてさ、そりゃあ自慢したくなるよね~。
俺も小さい頃は、親に好きなゲームを買ってもらえただけで自慢してた記憶あるわ。
親がしてくれた事って、それだけでなんかこうよくわからない優越感があって、誰彼にも自慢したくなっちゃうんだよな。あれってなんでなんだろうね。
まぁ、拓弥としては恥ずかしさで胸いっぱいなんだろうけど。だからといって、気分が悪くなるものではないはずだ。
嬉しさ半分、旧友へのからかい半分。
そんなノリで、「いいじゃん。自慢しちゃいなよ」と、きらりちゃんに同意しようとした時だった。
「ダメだよ」
――拓弥がキッパリとした声で、そう返してきた。
勢いよく始まった出だしと同じように、力強い勢いで締められた終わり。途端、それまで狭いスタジオ内を奔流していた音の渦が消え、1ミリの余韻も残す事なく静寂が場を支配した。
が、それもほんの一瞬のこと。
次の瞬間には、「すごーいっ!」というきらりちゃんの大声がスタジオ内に響いていた。
「すごい、すごい、すごーい! かっこいいー! パパも透くんもみんなかっこいいー!」
「楽器がね、ジャーンッてなって、バーンッて音がして、ビューンッてすっごい音が飛んできたー!」ときらりちゃんが、両手両足をバタつかせながら椅子の上で言葉を続ける。
おうおうおうおう、擬音語がむちゃくちゃに多い感想だぜ。
でも、言いたい事はなんとなくで伝わってくるし、伝えたいであろう事もなんとなくでわかる。「そんなにカッコよかった?」と尋ねれば、「カッコよかったー!」と、これまた無邪気な言葉が返された。なんともまぁ、演奏者冥利につきる言葉だ。
「そっかー」と頷き返しつつ、ニヤニヤと口角があがるのが止まらない。
実はちょっと失敗しちゃったんだよね、とかそういう野暮な話は、今だけは後回しである。
拓弥の方を見ると、ホッと息をついている姿が目についた。無事に娘を喜ばせる事ができて安心したのだろう。
優作とたかのっぽくんの方にも顔を向ければ、満足げに口の片端を持ち上げて笑う優作と、小さく口元をほころばせているたかのっぽくんの姿が目につく。
笑い方は違うけど、2人とも嬉しそうだ。
きらりちゃんの言葉が、この場に居る誰もの心に大きく響いてるのは確かだろう。
(そういえば俺達って、こうやって誰かから感想を貰った事って、今までないんじゃない?)
確かに動画投稿はしてるけど、いつも反応は微妙だし、感想らしい感想がコメント欄についた事だってない。こうやって直に感想を言って貰えたのは、これが初めてと言っても過言ではないだろう。
バンドをよく知らない子どもだからとか、相手の好きな曲を演奏したからだとか、もちろんそういった要因もあると思う。
でもそれでも、今こうして言葉をもらった事、それ自体は確かな事実だ。
「かっこいい」「凄い」そうした言葉や、この目の前の笑顔を引き出したきっかけが、確かに自分達の演奏にあるのだ。
そう自覚した途端、カーッと胸が熱くなった。
嬉しい。本当に、純粋に。ただただ嬉しい。
その言葉で胸がいっぱいになる。
その時、ふいに頭の中に、数刻前にシオリちゃんに言われた言葉がよみがえってきた。
――『誰かの目に触れた途端、作品というのはそれを聴いてくれた人、見てくれた人、そうした人達ためのものにもなるんです』
――『誰かに見てもらいたいなら、貴方達だけが楽しくちゃ意味がないんですよ』
(……誰かのための音楽、か)
俺達の楽曲を聴いてくれる人の、見てくれる人のための音楽。
あの時シオリちゃんにそれを言われた時は、『誰かのために楽曲を作る』といった意味なのだとばかり思っていたけど……。
(本当に、それだけなんだろうか)
アレンジも何もない単調なカバーで、お世辞にも上手いとは言い切れない演奏で、それでもこうやって楽しんでくれた人がいる。
ならば、これもまた1つの『誰かのため』という形になり得るのではないのだろうか。
無邪気にはしゃぎ続けるきらりちゃんの姿に、そんな考えが頭の中に浮かんだ。
「ひとまず」と、拓弥が場をまとめるように口を開いた。
そうしてギタリストからパパの顔へ戻ったかと思うと、自分の娘の下に向かい、その横に立って、ぽんと軽く娘の背中を叩いた。
「楽しんでくれたようでなによりです。それじゃほら、きらり、演奏してくれた皆にお礼は?」
「あっ‼」
拓弥の言葉にハッとしたように、きらりちゃんが椅子から飛び降りた。
そうして、俺、優作、たかのっぽくんに向かって大きく頭をさげると、これまた大声で「"えんそう"してくれて、ありがとうございました!」と続けた。
「どういたしましてー」「おう、どういたしまして」と俺・優作で口々に返す。
たかのっぽくんの方も、少し戸惑いがちにではあるが、「どういたしまして」と俺達に続く形でペコりときらりちゃんに頭をさげ返している。
顔をあげたきらりちゃんが、「うひひひ」と笑った。
「きらり、パパがこんなかっこいいことしてるなんて知らなかった! こんど、クラスのみんなにじまんしちゃお~」
「きらりのパパ、『不滅のつるぎ』ひけるんだって、みんなにじまんする~」ときらりちゃんが、ぴょこぴょことその場で小さくジャンプをする。
あ~、わかるわかる。自分のパパが皆の好きなアニメの曲をギターで弾けるなんてさ、そりゃあ自慢したくなるよね~。
俺も小さい頃は、親に好きなゲームを買ってもらえただけで自慢してた記憶あるわ。
親がしてくれた事って、それだけでなんかこうよくわからない優越感があって、誰彼にも自慢したくなっちゃうんだよな。あれってなんでなんだろうね。
まぁ、拓弥としては恥ずかしさで胸いっぱいなんだろうけど。だからといって、気分が悪くなるものではないはずだ。
嬉しさ半分、旧友へのからかい半分。
そんなノリで、「いいじゃん。自慢しちゃいなよ」と、きらりちゃんに同意しようとした時だった。
「ダメだよ」
――拓弥がキッパリとした声で、そう返してきた。
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