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2章 父と娘と一触触発
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「「え」」と声をあげたのは、俺ときらりちゃんだった。
ギョッと2人で一緒に目を丸め、拓弥の方を見る。
そこには、先程までの笑みは見る影もなくした真顔の拓弥がいた。
普段の拓弥からは考えられないほどに、冷たく固い表情だ。学生時代にだって見たこともない旧友の表情に、ひぇ、と思わず息を飲む。
「た、拓弥……?」
え、何。なんでコイツ、こんなに怒ってるの?
今、そこまで怒る要素ありました??
助けを求めて優作とたかのっぽくんを見るが、2人の方も、ぽかんとあっけに取られた表情で拓弥を見るばかりだ。
誰もが、この予想外の事態を前に間抜けな顔をさらす事しかできないでいる。
「な、なんで」ときらりちゃんが拓弥に尋ねた。
少し前まではあれだけ元気だった声が覇気を失い、代わりに小さな震えを帯びている。
「なんでもだよ」
ぴしゃりと、再び拓弥がきらりちゃんに返した。
いつもの優しい雰囲気からは考えられないほどに、厳しく鋭い声音だった。
「なんでもって、なんでっ。きらり、なにもわるいことしてないよっ。パパのこと、みんなに言いたいって言っただけじゃんっ」
「だから、それがダメなんだよ。きらりが誰かにパパの事を自慢する事自体がダメなんだ。それだけは絶対にしちゃいけない」
「で、でもでも、きらり、パパのこと、」
「きらり」
再び鋭い声で、拓弥がきらりちゃんの言葉を遮った。その声音の鋭さに怯えるように、きらりちゃんがびくりと肩を震わす。
そんな娘の態度に気づいていないのか、それとも気づいていて敢えて見ないフリをしているのか。
拓弥は手にしていたギターを抱えると、それが床にぶつからないように持ち直しながら、その場にしゃがんだ。
数刻前にそうしたように、きらりちゃんと同じ高さの目線で、しかし数刻前よりも格段に厳しい眼差しで、拓弥がきらりちゃんの顔を覗き込む。
「きらり、パパがきらりとママと離れて暮らす事が決まった時にした約束を覚えてるかい? パパがきらり達と会えるのは?」
「…………月に1回まで」
「そうだね。そういうお約束だった。今月はもうその1回をこないだしただろう? つまり本当なら、こうやってきらりとパパと会う事自体がしちゃいけない事なんだよ」
「でも、きらり、パパに会いたくて……」
「わかってる。だからママも1時間だけならいいって、言ってくれだろう? だけどね、きらり。君が今、大事なお約束を破ってしまっている事は変わらないんだ」
「お約束……」と、きらりちゃんが小さい声で拓弥の言葉をくり返す。
おそるおそるといった様子で、言われた意味を噛みしめるように。
「きらりがパパに会いたくて来てくれた事自体はね、パパにとってはとても嬉しい。でもね、だからって約束を破っていいよ、とはパパは言えない。それにね、もしかしたら約束を破った事で、今後パパときらりがもう会えなくなる可能性だってあるんだよ」
「! え、な、なんで、」
「守れない約束と同じ約束をして、また破ってしまったら意味がないだろう? そうならないようにするためにも、もっと厳しいお約束をする必要があるんだよ」
言い聞かせるように話を続ける拓弥に、きらりちゃんが「でも、」と再び返した。
しかし、続く言葉は思い浮かばなかったらしい。「でも、でも……」と、悲しいばかりに同じ言葉だけが、その口からくり返しこぼれ落ちていく。
「本当はダメな事をしていいよって言ってもらえただけでも、十分に特別なことなんだよ。だからこれ以上のわがままはダメだ。わかるよね」
「……」
拓弥からの問いかけに、ついにきらりちゃんが無言で俯いた。
本気で自分を怒る父親に、ショックを覚え、落ち込んでしまったようだ。
なんとも言えない父娘の空気に、残された俺・優作・たかのっぽくんの3人も、無言でその場に立ち尽くすしかない。
何か言った方がいいのだろうか。
だけど、何を言えばいいのか、さっぱりわからない。
(さすがにちょっと言い過ぎじゃね? とか、そんなキツい言い方しなくてもよくない? とか、そういう考えが全く思い浮かばないわけじゃない、けど……)
でも、それを思ったまま言うには、この父娘の関係は少々複雑だ。いやそれ以前に、そこに割って入ろうとするには、あまりにもこちらの立場が第3者でありすぎる。首を突っ込むだけの権利が、俺達3人にはない。
(本当にどうしちゃったんだよ、拓弥の奴)
ギョッと2人で一緒に目を丸め、拓弥の方を見る。
そこには、先程までの笑みは見る影もなくした真顔の拓弥がいた。
普段の拓弥からは考えられないほどに、冷たく固い表情だ。学生時代にだって見たこともない旧友の表情に、ひぇ、と思わず息を飲む。
「た、拓弥……?」
え、何。なんでコイツ、こんなに怒ってるの?
今、そこまで怒る要素ありました??
助けを求めて優作とたかのっぽくんを見るが、2人の方も、ぽかんとあっけに取られた表情で拓弥を見るばかりだ。
誰もが、この予想外の事態を前に間抜けな顔をさらす事しかできないでいる。
「な、なんで」ときらりちゃんが拓弥に尋ねた。
少し前まではあれだけ元気だった声が覇気を失い、代わりに小さな震えを帯びている。
「なんでもだよ」
ぴしゃりと、再び拓弥がきらりちゃんに返した。
いつもの優しい雰囲気からは考えられないほどに、厳しく鋭い声音だった。
「なんでもって、なんでっ。きらり、なにもわるいことしてないよっ。パパのこと、みんなに言いたいって言っただけじゃんっ」
「だから、それがダメなんだよ。きらりが誰かにパパの事を自慢する事自体がダメなんだ。それだけは絶対にしちゃいけない」
「で、でもでも、きらり、パパのこと、」
「きらり」
再び鋭い声で、拓弥がきらりちゃんの言葉を遮った。その声音の鋭さに怯えるように、きらりちゃんがびくりと肩を震わす。
そんな娘の態度に気づいていないのか、それとも気づいていて敢えて見ないフリをしているのか。
拓弥は手にしていたギターを抱えると、それが床にぶつからないように持ち直しながら、その場にしゃがんだ。
数刻前にそうしたように、きらりちゃんと同じ高さの目線で、しかし数刻前よりも格段に厳しい眼差しで、拓弥がきらりちゃんの顔を覗き込む。
「きらり、パパがきらりとママと離れて暮らす事が決まった時にした約束を覚えてるかい? パパがきらり達と会えるのは?」
「…………月に1回まで」
「そうだね。そういうお約束だった。今月はもうその1回をこないだしただろう? つまり本当なら、こうやってきらりとパパと会う事自体がしちゃいけない事なんだよ」
「でも、きらり、パパに会いたくて……」
「わかってる。だからママも1時間だけならいいって、言ってくれだろう? だけどね、きらり。君が今、大事なお約束を破ってしまっている事は変わらないんだ」
「お約束……」と、きらりちゃんが小さい声で拓弥の言葉をくり返す。
おそるおそるといった様子で、言われた意味を噛みしめるように。
「きらりがパパに会いたくて来てくれた事自体はね、パパにとってはとても嬉しい。でもね、だからって約束を破っていいよ、とはパパは言えない。それにね、もしかしたら約束を破った事で、今後パパときらりがもう会えなくなる可能性だってあるんだよ」
「! え、な、なんで、」
「守れない約束と同じ約束をして、また破ってしまったら意味がないだろう? そうならないようにするためにも、もっと厳しいお約束をする必要があるんだよ」
言い聞かせるように話を続ける拓弥に、きらりちゃんが「でも、」と再び返した。
しかし、続く言葉は思い浮かばなかったらしい。「でも、でも……」と、悲しいばかりに同じ言葉だけが、その口からくり返しこぼれ落ちていく。
「本当はダメな事をしていいよって言ってもらえただけでも、十分に特別なことなんだよ。だからこれ以上のわがままはダメだ。わかるよね」
「……」
拓弥からの問いかけに、ついにきらりちゃんが無言で俯いた。
本気で自分を怒る父親に、ショックを覚え、落ち込んでしまったようだ。
なんとも言えない父娘の空気に、残された俺・優作・たかのっぽくんの3人も、無言でその場に立ち尽くすしかない。
何か言った方がいいのだろうか。
だけど、何を言えばいいのか、さっぱりわからない。
(さすがにちょっと言い過ぎじゃね? とか、そんなキツい言い方しなくてもよくない? とか、そういう考えが全く思い浮かばないわけじゃない、けど……)
でも、それを思ったまま言うには、この父娘の関係は少々複雑だ。いやそれ以前に、そこに割って入ろうとするには、あまりにもこちらの立場が第3者でありすぎる。首を突っ込むだけの権利が、俺達3人にはない。
(本当にどうしちゃったんだよ、拓弥の奴)
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