37 / 82
2章 父と娘と一触触発
2-14
しおりを挟む
もしかして、マジできらりちゃんが言うように、言う事を全然聞かない娘に嫌気が差したとか言わねぇよな――、一抹の不安を覚え、たらりと冷たい汗が俺の頬をつたう。
そんな俺の不安もよそに、立ち上がった拓弥が、俺、優作、たかのっぽくんの方へ振り返ってくる。
そうして、場の空気を変えようとしてか、へらりといつも通りの笑みを顔に浮かべた。
「ごめんね。最後の最後に空気悪くしちゃって」
「あ、いや、う、ううん、そんなこと」
ないよ、とはさすがに言えず、返す言葉が尻込みになる。
そんな俺の様子に、拓弥が申し訳なさそうに苦笑を浮かべた。
「とりあえず、これ以上みんなに迷惑かけるわけにはいかないし、おれときらりはここで帰るよ」
「いや、別に俺達、迷惑だなんて思ってな、」
「あ、帰る前にスタジオ代だけ払わないとだよね。いつもと同じで足りる? あぁでも、今日は休日料金だからちょっと高めだっけ。ごめん、ちゃんとした金額覚えてないから、少し多めに置いてくね」
「足りなかったら、あとで言って。逆に余るような事があれば、お釣りは3人でわけちゃっていいから」と拓弥が矢継ぎ早に言葉を続けながら、帰りの準備に入る。自分のギターと繋がっているアンプのもとへ向かい、慣れた手付きで片付けの作業を行っていく。
(どうしよう。本当にこのまま帰しちゃっていいのか?)
今の拓弥の様子からして、拓弥がこれ以上この話題には触れてほしくない事は確かだろう。
けど、この微妙な空気をそのままにして帰していいのかと聞かれたら、とてもじゃないがイエスとは言えない。
(でもだからって、何をどう言えばいいのかわからないし……。第一、突っ込んだところで、これはうちの問題だからとでも言われたら、もうそれこそそれまでって話だし……)
あぁ、もうっ、こういう時ほど、幼なじみの出番じゃないのかよっ。
今こそ、からかうなりいらない一言なり言って、場をなんとかする時だろ!
再びすがる思いで優作を見る。が、さすがの精神図太ゴリラでも、こんな時に言えるような冗談はないらしい。目が合った途端、無理に決まってんだろ、と言いたげに顔が顰められてしまった。
そんな役立たずのゴリラの右斜め前では、たかのっぽくんが見ていて可哀想になるぐらいに、オロオロと俺達の間で視線をさまよわせている。
いかん、ダメだこれ、詰んだわ。
GAME OVERの文字が、古き懐かしきゲームビット音のBGMと共に脳裏をかけていった――……、その時だ。
「……じゃないもん」
ぽつりと、小さな声が俺達の耳に届いた。
「え」「ほ」「あ?」「へ」
各人各様の声がスタジオ内にあがり、拓弥、俺、優作、たかのっぽくん4人の視線が一斉に声がした方へ向けられる。
その先にいたのは、やはりというかなんというか、きらりちゃんだった。
相変わらず、俯いたままのきらりちゃん。
しかし先刻とは異なり、なんだかプルプルと、その身体が小刻みに震えているように見える。
ギュゥッと強く握られたスカートには、可愛いらしい見た目には似合わない、ぐしゃぐしゃで濃いしわが何本も刻まれてしまっている。
たとえるなら、そう。
まるで、今にも爆発しそうな何かを、ギリギリのところで堪えているような――……。
「きらり?」と、拓弥が不思議そうにきらりちゃんの名前を呼んだ、
――次の瞬間だった。
「わがままじゃっ、ないっ、もーーーーーーーーーーーーーーーーーーーんっ‼‼‼‼」
爆音が、スタジオ内に響き渡った。
衝撃音とは正しくこの事だろう。キーーーーーーーーンッ! と、マイクをハウリングさせてしまった時にも負けない耳鳴りが、俺の耳を貫いていった。
「どわっ」と反射的に声をあげながら耳を塞ぐ。優作やたかのっぽくんも「うおっ」「⁉⁉⁉」と各々に驚きながら、耳を塞ぎ始める。
そんな俺の不安もよそに、立ち上がった拓弥が、俺、優作、たかのっぽくんの方へ振り返ってくる。
そうして、場の空気を変えようとしてか、へらりといつも通りの笑みを顔に浮かべた。
「ごめんね。最後の最後に空気悪くしちゃって」
「あ、いや、う、ううん、そんなこと」
ないよ、とはさすがに言えず、返す言葉が尻込みになる。
そんな俺の様子に、拓弥が申し訳なさそうに苦笑を浮かべた。
「とりあえず、これ以上みんなに迷惑かけるわけにはいかないし、おれときらりはここで帰るよ」
「いや、別に俺達、迷惑だなんて思ってな、」
「あ、帰る前にスタジオ代だけ払わないとだよね。いつもと同じで足りる? あぁでも、今日は休日料金だからちょっと高めだっけ。ごめん、ちゃんとした金額覚えてないから、少し多めに置いてくね」
「足りなかったら、あとで言って。逆に余るような事があれば、お釣りは3人でわけちゃっていいから」と拓弥が矢継ぎ早に言葉を続けながら、帰りの準備に入る。自分のギターと繋がっているアンプのもとへ向かい、慣れた手付きで片付けの作業を行っていく。
(どうしよう。本当にこのまま帰しちゃっていいのか?)
今の拓弥の様子からして、拓弥がこれ以上この話題には触れてほしくない事は確かだろう。
けど、この微妙な空気をそのままにして帰していいのかと聞かれたら、とてもじゃないがイエスとは言えない。
(でもだからって、何をどう言えばいいのかわからないし……。第一、突っ込んだところで、これはうちの問題だからとでも言われたら、もうそれこそそれまでって話だし……)
あぁ、もうっ、こういう時ほど、幼なじみの出番じゃないのかよっ。
今こそ、からかうなりいらない一言なり言って、場をなんとかする時だろ!
再びすがる思いで優作を見る。が、さすがの精神図太ゴリラでも、こんな時に言えるような冗談はないらしい。目が合った途端、無理に決まってんだろ、と言いたげに顔が顰められてしまった。
そんな役立たずのゴリラの右斜め前では、たかのっぽくんが見ていて可哀想になるぐらいに、オロオロと俺達の間で視線をさまよわせている。
いかん、ダメだこれ、詰んだわ。
GAME OVERの文字が、古き懐かしきゲームビット音のBGMと共に脳裏をかけていった――……、その時だ。
「……じゃないもん」
ぽつりと、小さな声が俺達の耳に届いた。
「え」「ほ」「あ?」「へ」
各人各様の声がスタジオ内にあがり、拓弥、俺、優作、たかのっぽくん4人の視線が一斉に声がした方へ向けられる。
その先にいたのは、やはりというかなんというか、きらりちゃんだった。
相変わらず、俯いたままのきらりちゃん。
しかし先刻とは異なり、なんだかプルプルと、その身体が小刻みに震えているように見える。
ギュゥッと強く握られたスカートには、可愛いらしい見た目には似合わない、ぐしゃぐしゃで濃いしわが何本も刻まれてしまっている。
たとえるなら、そう。
まるで、今にも爆発しそうな何かを、ギリギリのところで堪えているような――……。
「きらり?」と、拓弥が不思議そうにきらりちゃんの名前を呼んだ、
――次の瞬間だった。
「わがままじゃっ、ないっ、もーーーーーーーーーーーーーーーーーーーんっ‼‼‼‼」
爆音が、スタジオ内に響き渡った。
衝撃音とは正しくこの事だろう。キーーーーーーーーンッ! と、マイクをハウリングさせてしまった時にも負けない耳鳴りが、俺の耳を貫いていった。
「どわっ」と反射的に声をあげながら耳を塞ぐ。優作やたかのっぽくんも「うおっ」「⁉⁉⁉」と各々に驚きながら、耳を塞ぎ始める。
0
あなたにおすすめの小説
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。
石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。
実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。
そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。
血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。
この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。
【完結】精霊に選ばれなかった私は…
まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。
しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。
選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。
選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。
貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…?
☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる