38 / 82
2章 父と娘と一触触発
2-15
しおりを挟む
う、うへえ、耳が痛い……。
まるでいつぞやのタイムカプセルの再来だ。思わずその場でよろめく。
「き、きらり……???」と拓弥が混乱した様子で娘の名を呼んだ。
どうやら娘の大声は、父親の方にもしっかりとダメージを与えたらしい。片手がシールド――ギターなどの楽器をアンプやそのほかの音を出力する機械と繋ぐためのコードの名だ――で埋まってしまっていたせいで、片耳だけしか塞げなかった事が、ダメージの直接的な理由かもしれない。
が、きらりちゃん本人には、そんな父親の様子は目についてもいないようだ。
「わがままじゃないもん! きらり、わがままじゃないもん!」と大声で続けながら、ダンダンダンッ! と激しく地団駄を踏んでいる。
「きらり、なにもわるいこと言ってないもん! パパのこと、みんなに自慢したいって言っただけじゃん! パパに会いたかっただけじゃん! それだけなのに、なんでダメって言うの! パパもママもダメダメダメって! そればっかり!」
「ちょっ、き、きらり、急にどうしたの。一旦落ち着いて……」
「そんなにダメダメ言うなら、きらりだってダメって言うもん! ダメって言っていいじゃん! きらいきらい! ダメばっかりのパパなんてきらい! だいっきらい!」
「だい……っ⁉」
きらりちゃんを宥めようとしていた拓弥の動きが止まった。
うわ~、今の言葉、絶対いいところに入りましたわ。
聞こえる、俺には聞こえるぞ。拓弥の背景で、ガーンッ! という効果音が鳴っているのが。
ショックを受ける拓弥に、優作もさすがに同情の価値ありと思ったのか、「おい、大丈夫か」と声をかけている。が、幼馴染の声が聞こえているのかいないのか、拓弥の方は「大嫌い、大、嫌い……?」と壊れたCDプレイヤーの如く同じ音を口から吐き出し続けている。「い、井尻さん」とたかのっぽくんが、戸惑いと心配が入り混じった声で拓弥を呼んだ。
やっばい。収拾がつかなくなってきやがった。マジでどうすんだ、これ。
……え、本当にどうすりゃいいの、これ。
混乱が極まり始めてきた展開に、自分の目が遠くに向くのがわかる。
が、事の原因である少女の方は、やはり周囲の惨状は気にも留めてないらしい。地団駄を踏むのをやめたかと思うと、怒りをあらわにした顔のまま、俺の方へと駆けてきた。
…………………………ん?
(俺の方へ駆けてきた?)
いや、待て。なんで俺の方に来てるの、この子。
待て待て待て、ステイ、止まりなさい。ヘイ、そこのガール、ストップ・ミー。
思ってもいなかった事態に、思考がついていかず一瞬ばかり反応が遅れる。が、どうやらその一瞬が完璧に命取りだったようだ。
気がついた時には、俺の背に回ってきたきらりちゃんにギュゥッと右脚に抱きつかれる形で、捕縛されていた。
そうして困惑する俺をよそに、きらりちゃんは俺の後ろから顔だけを出すと、そのまま拓弥の方に向けて大声で宣言した。
「きらり、今日、おうちかえらない‼ ママのとこにも、パパのとこにもいかない‼ きらり、透くん家に行くっ‼‼」
「ふぁっ⁉」「「「は⁉」」」
なんです、と……⁉ これまた予想の斜め上を行く事態に、俺の口から間抜けな声が、拓弥・優作・たかのっぽくんから揃いの驚きの声があがる。
自分の父も含めた、己の云倍も年上の男達から、驚きの視線を一気に受けるきらりちゃん。
だがやはり、そんな周りからの目などは気にした様子もなく、俺達の云倍も年下の少女は今日出会ったばかりの大人の腰に抱きついたまま、ベーッと父親に向かって舌を出したのだった。
…………Oh, ジーザス。
まるでいつぞやのタイムカプセルの再来だ。思わずその場でよろめく。
「き、きらり……???」と拓弥が混乱した様子で娘の名を呼んだ。
どうやら娘の大声は、父親の方にもしっかりとダメージを与えたらしい。片手がシールド――ギターなどの楽器をアンプやそのほかの音を出力する機械と繋ぐためのコードの名だ――で埋まってしまっていたせいで、片耳だけしか塞げなかった事が、ダメージの直接的な理由かもしれない。
が、きらりちゃん本人には、そんな父親の様子は目についてもいないようだ。
「わがままじゃないもん! きらり、わがままじゃないもん!」と大声で続けながら、ダンダンダンッ! と激しく地団駄を踏んでいる。
「きらり、なにもわるいこと言ってないもん! パパのこと、みんなに自慢したいって言っただけじゃん! パパに会いたかっただけじゃん! それだけなのに、なんでダメって言うの! パパもママもダメダメダメって! そればっかり!」
「ちょっ、き、きらり、急にどうしたの。一旦落ち着いて……」
「そんなにダメダメ言うなら、きらりだってダメって言うもん! ダメって言っていいじゃん! きらいきらい! ダメばっかりのパパなんてきらい! だいっきらい!」
「だい……っ⁉」
きらりちゃんを宥めようとしていた拓弥の動きが止まった。
うわ~、今の言葉、絶対いいところに入りましたわ。
聞こえる、俺には聞こえるぞ。拓弥の背景で、ガーンッ! という効果音が鳴っているのが。
ショックを受ける拓弥に、優作もさすがに同情の価値ありと思ったのか、「おい、大丈夫か」と声をかけている。が、幼馴染の声が聞こえているのかいないのか、拓弥の方は「大嫌い、大、嫌い……?」と壊れたCDプレイヤーの如く同じ音を口から吐き出し続けている。「い、井尻さん」とたかのっぽくんが、戸惑いと心配が入り混じった声で拓弥を呼んだ。
やっばい。収拾がつかなくなってきやがった。マジでどうすんだ、これ。
……え、本当にどうすりゃいいの、これ。
混乱が極まり始めてきた展開に、自分の目が遠くに向くのがわかる。
が、事の原因である少女の方は、やはり周囲の惨状は気にも留めてないらしい。地団駄を踏むのをやめたかと思うと、怒りをあらわにした顔のまま、俺の方へと駆けてきた。
…………………………ん?
(俺の方へ駆けてきた?)
いや、待て。なんで俺の方に来てるの、この子。
待て待て待て、ステイ、止まりなさい。ヘイ、そこのガール、ストップ・ミー。
思ってもいなかった事態に、思考がついていかず一瞬ばかり反応が遅れる。が、どうやらその一瞬が完璧に命取りだったようだ。
気がついた時には、俺の背に回ってきたきらりちゃんにギュゥッと右脚に抱きつかれる形で、捕縛されていた。
そうして困惑する俺をよそに、きらりちゃんは俺の後ろから顔だけを出すと、そのまま拓弥の方に向けて大声で宣言した。
「きらり、今日、おうちかえらない‼ ママのとこにも、パパのとこにもいかない‼ きらり、透くん家に行くっ‼‼」
「ふぁっ⁉」「「「は⁉」」」
なんです、と……⁉ これまた予想の斜め上を行く事態に、俺の口から間抜けな声が、拓弥・優作・たかのっぽくんから揃いの驚きの声があがる。
自分の父も含めた、己の云倍も年上の男達から、驚きの視線を一気に受けるきらりちゃん。
だがやはり、そんな周りからの目などは気にした様子もなく、俺達の云倍も年下の少女は今日出会ったばかりの大人の腰に抱きついたまま、ベーッと父親に向かって舌を出したのだった。
…………Oh, ジーザス。
0
あなたにおすすめの小説
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。
石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。
実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。
そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。
血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。
この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。
【完結】精霊に選ばれなかった私は…
まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。
しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。
選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。
選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。
貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…?
☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる