Herec 2nd~一度音楽をやめた奴らが結成した『社会人バンド』がMVを作る事になった話~

勝哉道花@みちなり文庫

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2章 父と娘と一触触発

2-15

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 う、うへえ、耳が痛い……。
 まるでいつぞやのタイムカプセルの再来だ。思わずその場でよろめく。

「き、きらり……???」と拓弥が混乱した様子で娘の名を呼んだ。

 どうやら娘の大声は、父親の方にもしっかりとダメージを与えたらしい。片手がシールド――ギターなどの楽器をアンプやそのほかの音を出力する機械と繋ぐためのコードの名だ――で埋まってしまっていたせいで、片耳だけしか塞げなかった事が、ダメージの直接的な理由かもしれない。

 が、きらりちゃん本人には、そんな父親の様子は目についてもいないようだ。

「わがままじゃないもん! きらり、わがままじゃないもん!」と大声で続けながら、ダンダンダンッ! と激しく地団駄を踏んでいる。

「きらり、なにもわるいこと言ってないもん! パパのこと、みんなに自慢したいって言っただけじゃん! パパに会いたかっただけじゃん! それだけなのに、なんでダメって言うの! パパもダメダメダメって! そればっかり!」
「ちょっ、き、きらり、急にどうしたの。一旦落ち着いて……」
「そんなにダメダメ言うなら、きらりだってダメって言うもん! ダメって言っていいじゃん! きらいきらい! ダメばっかりのパパなんてきらい! だいっきらい!」
「だい……っ⁉」

 きらりちゃんを宥めようとしていた拓弥の動きが止まった。

 うわ~、今の言葉、絶対いいところに入りましたわ。
 聞こえる、俺には聞こえるぞ。拓弥の背景で、ガーンッ! という効果音が鳴っているのが。

 ショックを受ける拓弥に、優作もさすがに同情の価値ありと思ったのか、「おい、大丈夫か」と声をかけている。が、幼馴染の声が聞こえているのかいないのか、拓弥の方は「大嫌い、大、嫌い……?」と壊れたCDプレイヤーの如く同じ音を口から吐き出し続けている。「い、井尻さん」とたかのっぽくんが、戸惑いと心配が入り混じった声で拓弥を呼んだ。

 やっばい。収拾がつかなくなってきやがった。マジでどうすんだ、これ。
 ……え、本当にどうすりゃいいの、これ。

 混乱が極まり始めてきた展開に、自分の目が遠くに向くのがわかる。
 が、事の原因である少女の方は、やはり周囲の惨状は気にも留めてないらしい。地団駄を踏むのをやめたかと思うと、怒りをあらわにした顔のまま、俺の方へと駆けてきた。

 …………………………ん?

(俺の方へ駆けてきた?)

 いや、待て。なんで俺の方に来てるの、この子。
 待て待て待て、ステイ、止まりなさい。ヘイ、そこのガール、ストップ・ミー。

 思ってもいなかった事態に、思考がついていかず一瞬ばかり反応が遅れる。が、どうやらその一瞬が完璧に命取りだったようだ。
 気がついた時には、俺の背に回ってきたきらりちゃんにギュゥッと右脚に抱きつかれる形で、捕縛されていた。

 そうして困惑する俺をよそに、きらりちゃんは俺の後ろから顔だけを出すと、そのまま拓弥の方に向けて大声で宣言した。

「きらり、今日、おうちかえらない‼ ママのとこにも、パパのとこにもいかない‼ きらり、透くんに行くっ‼‼」
「ふぁっ⁉」「「「は⁉」」」

 なんです、と……⁉ これまた予想の斜め上を行く事態に、俺の口から間抜けな声が、拓弥・優作・たかのっぽくんから揃いの驚きの声があがる。

 自分の父も含めた、己の云倍も年上の男達から、驚きの視線を一気に受けるきらりちゃん。

 だがやはり、そんな周りからの目などは気にした様子もなく、俺達の云倍も年下の少女は今日出会ったばかりの大人の腰に抱きついたまま、ベーッと父親に向かって舌を出したのだった。

 …………Oh, ジーザス。
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