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3章 子どもとカレーと背景事情
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「パパ、おべんきょうはできた?」「ドッジボールはつよかった?」「給食はちゃんとのこさずたべてた?」「お洋服はキレイにたためてた⁉」等々、怒涛の勢いで質問してくるきらりちゃんに答えながら、夕飯に必要な買い物を終えて店を出る。
大好きな父の話が聞けて満足したのか、店を出る頃にはきらりちゃんの機嫌は完全に元に戻っていた。その事にホッと胸をなでおろしながら、2人で一緒にアパートへの帰路に着く。
「あ、そうだ。一応これさ、俺が話したってのはパパには内緒してね。勝手に話したってバレたら、俺、パパに怒られちゃうかもだから」
「わかった! ふたりだけのヒミツね!」
ニシシシッ、ときらりちゃんが口元に拳をあてながら楽しそうに笑う。
そうして、俺の少し先を「わんもあカレ~」と歌いながら、軽やかな足取りで歩いていく。
あれま、歌詞覚えちゃったか。まぁ、あれだけ特殊な歌詞とリズムだからな。覚えるなって方が無茶な話か。
う~ん、これはわざわざ俺から聞いたときらりちゃんが言わなくても、どっかのタイミングで拓弥にバレそう。
……まいっか。そん時は、あんまり娘ちゃんと話してあげてないお前が悪いんですー、とでも指さして言い返してやろ。
時間も時間なためか、人気のない夜道にきらりちゃんの歌声が響く。
せっかくならと、人がいないのをいいことに、俺もきらりちゃんにあわせて「わんもあカレ~」と歌ってみる。途端、きらりちゃんが嬉しそうにニヒッと笑った。
歌う事が楽しいと言わんばかりの笑みは、ギターを弾いてる時の拓弥の姿をどこか彷彿とさせるものがあった。
覚え立てなせいでメロディが微妙な子どもとそれにあわせて歌う大人2人で、お世辞にも綺麗とは言えないデュエットを夜道に響かせながら、アパートに帰還する。
荷物を一旦キッチンに置き、2人一緒に手洗いを済ませた後、早速夕飯の準備に取り掛かった。
「それじゃ、今から夕飯作りに入りますっ! お手伝いしたい人、いますかー!」
「はい! きらり、したい!」
「よっしゃ。ではきらりちゃんは、俺の指示に従ってお手伝いをしてください! お願いできますか!」
「できまーす!」
「それじゃあまずは、俺が具材の準備をしてる間に、鍋の様子を見ていてください!」
「ぐつぐつし始めたら教えてね」と真面目くさった顔で言えば、「わかったわっ」ときらりちゃんも真面目な顔をして拳をグッと握った。
よし、やる気充分だな。
「それじゃお願いします!」と、鍋を設置した二口コンロの火を点火する。
2人がかりとはいえ、小学一年生の子ども相手に難しい頼み事はできない。
せいぜい、こうやって鍋が湯立つのを見てもらったり、ルーを溶かしたり、お皿を並べてもらう程度が関の山だろう。
が、それだけでもきらりちゃんにとっては、充分に楽しい時間だったようだ。
「おこめ、とぐ?」「しょっき、ならべておくねー」などなど、俺があれこれ指示を出す前に自ら積極的に動く姿からは、彼女なりにこのお手伝いの時間を楽しんでいる事が伺えた。
もしかしたら、家でもお手伝いをよくやっているのかもしれないな。
まぁ料理って、それこそ女の子の嗜みって感じだもんなぁ。やらないわけがないか。
完成したカレーをきらりちゃんと共に持って部屋へ向かう。「わんもあカレ~」と、すっかり板についたメロディーを口ずさみながら、きらりちゃんが部屋の真ん中に置いてあるローテーブルの上にカレーを並べた。
その光景に苦笑しつつ、俺もキッチンから持ってきたコップにジュースと麦茶を注いで、テーブルの上に置いていく。
美味しそうな香りで彩られたテーブル。普段は1人で囲むそこを、今日はきらりちゃんと2人で囲む。
「はい、それじゃあ、手をあわせて――」
「「いただきまーす!」」と給食時に日直がするような挨拶を2人でして、夕飯を食べ始めた。
「透くん家は、カレーにりんごはいれないのね」
「あー、隠し味ってやつ? うちはそういうのは特にいれないかなぁ。さっききらりちゃんが見た通りよ。カレー粉をそのままドボン」
「えー! もったいなーい! いれるとおいしいのにー!」
「きらりちゃん家はいれるの?」
「うん。パパが好きだからいれるようにしてるって、前にママとカレーを作った時にママが言ってたわ」
「甘くなっておいしいのよ。お父さんも大好きだって」ときらりちゃんがニコニコと言葉を続ける。「へー」とその説明に頷きながら、カレーを口の中に運ぶ。
(きらりちゃん、すっかり上機嫌だな)
もしかしたら、お店に行く前よりも元気になっているかもしれない。今日はいろいろあったはずなのに元気な子だ。ま、元気がないよりは全然いいけどね。
それに、楽しそうに話をしている相手を見ていると、自然とこちらも楽しい気持ちになってくるものだ。
実際、少しだけだけど、自分の未熟さ具合に落ち込んでいた気持ちも、心持ち上向きになった気がする。某菓子パンのヒーローじゃないけど、元気百倍なんとやらだ。楽しさパワーって凄い。
(正しいやり方だったとは思えないけど、間違いではなかったんだろうな)
結果オーライ、とはよく言ったものである、と心の中で呟く。
……まぁ、だからってあそこで上手く切り返せなかった事自体が消えてなくなるわけじゃないので、そこは反省点なのですが。
はぁ~あ、こういう時に返すべき言葉についてまとめた教本とか、どっかに落ちてないかなぁ。そんなバカげた事を考えながら、カレーを口に運んでいく。
そんな俺の内心にきらりちゃんの方が気づくはずもなく、「ほかにもね、パパはね、」「そういえば、こないだパパと会った時ね、」と、相変わらずの調子で話を続けている。
自分の話を聞いてくれる事が嬉しいのか、それとも大好きなパパの話ができるのが嬉しいのか。始終ニッコニコの笑みが、その顔の上を占拠している。
「きらりちゃんは、本当にパパが好きなんだね」
大好きな父の話が聞けて満足したのか、店を出る頃にはきらりちゃんの機嫌は完全に元に戻っていた。その事にホッと胸をなでおろしながら、2人で一緒にアパートへの帰路に着く。
「あ、そうだ。一応これさ、俺が話したってのはパパには内緒してね。勝手に話したってバレたら、俺、パパに怒られちゃうかもだから」
「わかった! ふたりだけのヒミツね!」
ニシシシッ、ときらりちゃんが口元に拳をあてながら楽しそうに笑う。
そうして、俺の少し先を「わんもあカレ~」と歌いながら、軽やかな足取りで歩いていく。
あれま、歌詞覚えちゃったか。まぁ、あれだけ特殊な歌詞とリズムだからな。覚えるなって方が無茶な話か。
う~ん、これはわざわざ俺から聞いたときらりちゃんが言わなくても、どっかのタイミングで拓弥にバレそう。
……まいっか。そん時は、あんまり娘ちゃんと話してあげてないお前が悪いんですー、とでも指さして言い返してやろ。
時間も時間なためか、人気のない夜道にきらりちゃんの歌声が響く。
せっかくならと、人がいないのをいいことに、俺もきらりちゃんにあわせて「わんもあカレ~」と歌ってみる。途端、きらりちゃんが嬉しそうにニヒッと笑った。
歌う事が楽しいと言わんばかりの笑みは、ギターを弾いてる時の拓弥の姿をどこか彷彿とさせるものがあった。
覚え立てなせいでメロディが微妙な子どもとそれにあわせて歌う大人2人で、お世辞にも綺麗とは言えないデュエットを夜道に響かせながら、アパートに帰還する。
荷物を一旦キッチンに置き、2人一緒に手洗いを済ませた後、早速夕飯の準備に取り掛かった。
「それじゃ、今から夕飯作りに入りますっ! お手伝いしたい人、いますかー!」
「はい! きらり、したい!」
「よっしゃ。ではきらりちゃんは、俺の指示に従ってお手伝いをしてください! お願いできますか!」
「できまーす!」
「それじゃあまずは、俺が具材の準備をしてる間に、鍋の様子を見ていてください!」
「ぐつぐつし始めたら教えてね」と真面目くさった顔で言えば、「わかったわっ」ときらりちゃんも真面目な顔をして拳をグッと握った。
よし、やる気充分だな。
「それじゃお願いします!」と、鍋を設置した二口コンロの火を点火する。
2人がかりとはいえ、小学一年生の子ども相手に難しい頼み事はできない。
せいぜい、こうやって鍋が湯立つのを見てもらったり、ルーを溶かしたり、お皿を並べてもらう程度が関の山だろう。
が、それだけでもきらりちゃんにとっては、充分に楽しい時間だったようだ。
「おこめ、とぐ?」「しょっき、ならべておくねー」などなど、俺があれこれ指示を出す前に自ら積極的に動く姿からは、彼女なりにこのお手伝いの時間を楽しんでいる事が伺えた。
もしかしたら、家でもお手伝いをよくやっているのかもしれないな。
まぁ料理って、それこそ女の子の嗜みって感じだもんなぁ。やらないわけがないか。
完成したカレーをきらりちゃんと共に持って部屋へ向かう。「わんもあカレ~」と、すっかり板についたメロディーを口ずさみながら、きらりちゃんが部屋の真ん中に置いてあるローテーブルの上にカレーを並べた。
その光景に苦笑しつつ、俺もキッチンから持ってきたコップにジュースと麦茶を注いで、テーブルの上に置いていく。
美味しそうな香りで彩られたテーブル。普段は1人で囲むそこを、今日はきらりちゃんと2人で囲む。
「はい、それじゃあ、手をあわせて――」
「「いただきまーす!」」と給食時に日直がするような挨拶を2人でして、夕飯を食べ始めた。
「透くん家は、カレーにりんごはいれないのね」
「あー、隠し味ってやつ? うちはそういうのは特にいれないかなぁ。さっききらりちゃんが見た通りよ。カレー粉をそのままドボン」
「えー! もったいなーい! いれるとおいしいのにー!」
「きらりちゃん家はいれるの?」
「うん。パパが好きだからいれるようにしてるって、前にママとカレーを作った時にママが言ってたわ」
「甘くなっておいしいのよ。お父さんも大好きだって」ときらりちゃんがニコニコと言葉を続ける。「へー」とその説明に頷きながら、カレーを口の中に運ぶ。
(きらりちゃん、すっかり上機嫌だな)
もしかしたら、お店に行く前よりも元気になっているかもしれない。今日はいろいろあったはずなのに元気な子だ。ま、元気がないよりは全然いいけどね。
それに、楽しそうに話をしている相手を見ていると、自然とこちらも楽しい気持ちになってくるものだ。
実際、少しだけだけど、自分の未熟さ具合に落ち込んでいた気持ちも、心持ち上向きになった気がする。某菓子パンのヒーローじゃないけど、元気百倍なんとやらだ。楽しさパワーって凄い。
(正しいやり方だったとは思えないけど、間違いではなかったんだろうな)
結果オーライ、とはよく言ったものである、と心の中で呟く。
……まぁ、だからってあそこで上手く切り返せなかった事自体が消えてなくなるわけじゃないので、そこは反省点なのですが。
はぁ~あ、こういう時に返すべき言葉についてまとめた教本とか、どっかに落ちてないかなぁ。そんなバカげた事を考えながら、カレーを口に運んでいく。
そんな俺の内心にきらりちゃんの方が気づくはずもなく、「ほかにもね、パパはね、」「そういえば、こないだパパと会った時ね、」と、相変わらずの調子で話を続けている。
自分の話を聞いてくれる事が嬉しいのか、それとも大好きなパパの話ができるのが嬉しいのか。始終ニッコニコの笑みが、その顔の上を占拠している。
「きらりちゃんは、本当にパパが好きなんだね」
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