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4章 臆病者と家族とキラキラ星
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実を言うと――、『離婚』というワードは、教師という職業においてはそれなりに耳にする単語だったりする。
経験した事がない人間にとって『離婚』の2文字は、きっとフィクションや非日常的な用語に聞こえてくるだろう。ドラマや漫画、そういったフィクションにばかり登場する単語で、身の回りにいるという人の方が数は少ないのではないだろうか。
昨今は、熟年離婚だとかなんだとかってよく聞くけど、それでもやっぱり世間一般的には非日常感が抜けない単語である事もまた事実だ。
だが、教育の場においては、それは現実的な問題として多く話題にのぼる。
子どもの後ろには当然ながら親がいて、家族がいる。それぞれにそれぞれの家庭環境があり、門限などのルールはもちろん、カレーの作り方ひとつとっても家毎に違うのが実情だ。
それだけ多くの家庭があれば、離婚している家庭と遭遇してもおかしくはない。
実際、教師向けの勉強会や講義なんかでも、離婚が議題のものは多く存在している。離婚した後の子どもへの支援の仕方、保護者やその周囲への配慮など、ナイーブな話題故に慎重な対応が求められるのだ。
先の拓弥に述べた内容も、その対応のひとつだ。
たとえ子どもが熱などで早退する事になって、迎えに行けるのが元親しかいないとしても、基本的には学校では引き渡すのはNGとなっている。
ちゃんと親同士の合意が取れていると証明できれば話は別だが、過去には面会拒絶をくらっている元親が子どもの送迎に来たふりをして、そのまま子どもを連れ去ってしまったなんて事件も起きている。
こういった事件を防ぐためにも、元親と子どもの接触は、ことに敏感にならなくてはならない。
「だから……、本当なら俺は、この扉を拓弥に開けさせちゃいけないのかもしれない」
面会は月1で。それ以外に会うのは禁止。
それが拓弥ときらりちゃんの間にある約束で、ルールであるというのなら、それを徹底させるのが正しいのだろう。拓弥や元奥さんが、きらりちゃんに徹底して『パパ』の話を外でさせないように注意していたように。まだ分別がきちんとできていない子どもを守るという意味で。
それが教師としての正解。
子どもを守るべき立場に立った者のあるべき姿。
勢いとノリだけでなんとかなると信じていた頃は、とうに過ぎたのだ。夢ばかりを見ていた頃にはもう二度と戻れない。
たとえ、再び昔のようにやりたかった事をやれるようになったとしても、完璧にあの頃と同じには、どう足掻いたってなれやしないのだ。
自分達はもう、そういう立場の人間になったのだ。
(そう考えると、俺が昨日のスタジオでの演奏後にきらりちゃんに言おうとしてた、『自慢しちゃいなよ』ってやつも、結構軽率な発言だったんだよな)
場のノリとはいえ、井尻家の環境を考えたら、そんな簡単に言っていい発言ではなかったはずだ。
だというのに、自分や自分の好きなものが褒められて嬉しかったからそれを忘れるとか、まるっきり小さな子どものそれじゃん。
なんか俺、今回は本当にダメダメな事しかしてないな。まったく、ため息が止まりませんわ。あはははは……、はぁ。
拓弥が少し間をあけて、「うん」と小さく頷いた。
今度のそれは相槌というよりも、俺の言葉に込められたものに対して、わかっているよ、と言いたげな声音だった。その目が穏やかに、でもほんのりとどこか悲しげに細められる。
その笑顔に、ツキリと、小さく胸が痛むのを感じる。
きっとコイツは俺達が知らなかっただけで、昔からずっとこうやって、影で何かを諦めたりしていたのだろう。
不安で怖くて、誰かの迷惑になるかもしれないぐらいならと、諦めるような。そんな日々を過ごしていたのだろう。
それが一番いいのだと、そう考えて。
だけど――……、
「……でも俺さ、たとえそうする事が正解だったとしても、それで誰かが嫌な思いするなら、何か違うなって思うのよ」
経験した事がない人間にとって『離婚』の2文字は、きっとフィクションや非日常的な用語に聞こえてくるだろう。ドラマや漫画、そういったフィクションにばかり登場する単語で、身の回りにいるという人の方が数は少ないのではないだろうか。
昨今は、熟年離婚だとかなんだとかってよく聞くけど、それでもやっぱり世間一般的には非日常感が抜けない単語である事もまた事実だ。
だが、教育の場においては、それは現実的な問題として多く話題にのぼる。
子どもの後ろには当然ながら親がいて、家族がいる。それぞれにそれぞれの家庭環境があり、門限などのルールはもちろん、カレーの作り方ひとつとっても家毎に違うのが実情だ。
それだけ多くの家庭があれば、離婚している家庭と遭遇してもおかしくはない。
実際、教師向けの勉強会や講義なんかでも、離婚が議題のものは多く存在している。離婚した後の子どもへの支援の仕方、保護者やその周囲への配慮など、ナイーブな話題故に慎重な対応が求められるのだ。
先の拓弥に述べた内容も、その対応のひとつだ。
たとえ子どもが熱などで早退する事になって、迎えに行けるのが元親しかいないとしても、基本的には学校では引き渡すのはNGとなっている。
ちゃんと親同士の合意が取れていると証明できれば話は別だが、過去には面会拒絶をくらっている元親が子どもの送迎に来たふりをして、そのまま子どもを連れ去ってしまったなんて事件も起きている。
こういった事件を防ぐためにも、元親と子どもの接触は、ことに敏感にならなくてはならない。
「だから……、本当なら俺は、この扉を拓弥に開けさせちゃいけないのかもしれない」
面会は月1で。それ以外に会うのは禁止。
それが拓弥ときらりちゃんの間にある約束で、ルールであるというのなら、それを徹底させるのが正しいのだろう。拓弥や元奥さんが、きらりちゃんに徹底して『パパ』の話を外でさせないように注意していたように。まだ分別がきちんとできていない子どもを守るという意味で。
それが教師としての正解。
子どもを守るべき立場に立った者のあるべき姿。
勢いとノリだけでなんとかなると信じていた頃は、とうに過ぎたのだ。夢ばかりを見ていた頃にはもう二度と戻れない。
たとえ、再び昔のようにやりたかった事をやれるようになったとしても、完璧にあの頃と同じには、どう足掻いたってなれやしないのだ。
自分達はもう、そういう立場の人間になったのだ。
(そう考えると、俺が昨日のスタジオでの演奏後にきらりちゃんに言おうとしてた、『自慢しちゃいなよ』ってやつも、結構軽率な発言だったんだよな)
場のノリとはいえ、井尻家の環境を考えたら、そんな簡単に言っていい発言ではなかったはずだ。
だというのに、自分や自分の好きなものが褒められて嬉しかったからそれを忘れるとか、まるっきり小さな子どものそれじゃん。
なんか俺、今回は本当にダメダメな事しかしてないな。まったく、ため息が止まりませんわ。あはははは……、はぁ。
拓弥が少し間をあけて、「うん」と小さく頷いた。
今度のそれは相槌というよりも、俺の言葉に込められたものに対して、わかっているよ、と言いたげな声音だった。その目が穏やかに、でもほんのりとどこか悲しげに細められる。
その笑顔に、ツキリと、小さく胸が痛むのを感じる。
きっとコイツは俺達が知らなかっただけで、昔からずっとこうやって、影で何かを諦めたりしていたのだろう。
不安で怖くて、誰かの迷惑になるかもしれないぐらいならと、諦めるような。そんな日々を過ごしていたのだろう。
それが一番いいのだと、そう考えて。
だけど――……、
「……でも俺さ、たとえそうする事が正解だったとしても、それで誰かが嫌な思いするなら、何か違うなって思うのよ」
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