Herec 2nd~一度音楽をやめた奴らが結成した『社会人バンド』がMVを作る事になった話~

勝哉道花@みちなり文庫

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4章 臆病者と家族とキラキラ星

4-12

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 腕を振るは、4分の4拍子の指揮。
 音楽の授業や合唱祭などの催しものではド定番の指揮だろう。縦に2回ゆっくりと振り下ろし、小さな円を描いた後、三角を描くイメージで残り2拍分の腕を振る。

 うちの職場でも、子ども達がやっているところを何度も見た事があるそれを、目の前のきらりちゃんと大人達に向けて振れば、最初の四拍を置いた後、キーボードが音を紡ぎ始める。

 奏でられたのは、たったの1フレーズ。4拍子分の短い旋律を、柔らかなピアノの音色が奏であげる。電子で作られた人工的な、でも確かに聴く者の心をホッとさせるような暖かい音。それが、まるでこれから始まる物語の幕開けを告げるように、穏やかに最初のフレーズを鳴り響かせる。

 そして最後の1音が鳴り終えると同時に――、

とぅいんくる, Twinkle,とぅいんくるtwinkle りぃーるlittleすたぁーstar

 優しいメロディーに導かれるようにして、きらりちゃん主役が舞台にあがった。

はぅあいHow I わんだぁwonderわっつゆぅあーwhat you are 
 あっぷあUp ばぅだabove the わぁーそぅはぁいworld so high,
 らいかぁLike a だいもんdiamond いんざすかいin the sky.
 
 とぅいんくる, Twinkle,とぅいんくるtwinkle りぃーるlittleすたぁーstar
 はぅあいHow I わんだぁwonderわっつゆぅあーwhat you are 」

 舌ったらずで、発音が曖昧な英語でつむがれる歌詞。
 きっと本国の人が聴いたら、何を言っているのかもイマイチわからないレベルの発音だろう。

 だが、そのメロディーを聴けば、これが一体なんの歌であるかは誰もが一瞬で理解できるはずだ。
 主役と一緒に旋律への仲間入りを果たしたドラムが、バスドラムでテンポを刻みながら、シャンシャンシャンと、その曲名に込められた意味を表現するように、ハイハットシンバルも一緒に鳴らしていく。

 曲名『Twinkle, twinkle little star』。
 和訳名――、『キラキラ星』。

 誰もが一度は触れた事があるだろう有名な童謡である。
 小学校はもちろん、幼稚園や保育園、家庭によっては未就園児さんの段階で親から教えられたという子もいるかもしれない。教育チャンネルなんかでも流される事が多いし、日本以外でも世界中の至るところで歌われていて、童謡の代表曲といっても過言ではない楽曲だ。

 そんな楽曲を、大人達の伴奏をバックに、英語で歌いあげていくきらりちゃん。
 授業参観当時と環境は大きく違うだろうに、それでもちゃんと俺達の演奏にあわせてしっかりと歌い上げていく姿は、思わず拍子つきで褒めたくなるものがある。

 たった十数分練習できたかできてないかぐらいなのに、それでこのクオリティは、なかなかの完成度ではなくて?
 俺達だって、Herecとして1曲分の演奏をこなすのに、それなりの回数の練習をこなしてやっと形になるってのにさ。大人顔負けの完成度だぜ。こりゃあこの子、将来大物になりまっせ、旦那。

 2番目に入ろうとする楽曲にあわせて、きらりちゃんが歌に入りやすいように大きく腕を振り上げて合図を送った。
 その意図を汲んだらしいきらりちゃんが、息を吸って、俺の指揮にあわせて2番に入る。よし、ぴったりのタイミングだ。

 そんな俺達をまっすぐに見つめる旧友の視線。
 それをしっかりと背中に感じながら、俺は昨晩の話し合いの続きを思い返した。

――『きらりちゃんの授業参観の"光景"を、拓弥の前で再現する』

 それが俺、優作、たかのっぽくんの3人が出した結論だった。

 この結論を出すきっかけとなったのは、俺が2人に話したきらりちゃんの授業参観の内容にある。

『きらりちゃんの授業参観、英語の授業だったんだってさ。それで授業の最後に、先生が保護者に向けたミニ発表会って感じに、英語での合唱を取り入れたみたい』

 2人に向けてメッセージを打ちながら、俺はきらりちゃんと話をした時の事を思い返した。

『キラキラ星をね、うたおうって、先生がね、言ったの』と、グスグスと泣きながらも教えてくれた少女の姿を頭の中に浮かべる。
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