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4章 臆病者と家族とキラキラ星
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不安げに揺れるきらりちゃんの瞳。
それは、涙で濡れてこそいないものの、昨晩泣きながら思いを吐露してきた時に彼女が見せたものとそっくりだった。
「いいよ」
まっすぐきらりちゃんと向き合い、俺は頷き返した。
そうして、昨晩は返せなかった言葉を、気持ちを、ものを、今度こそ口にした。
「きらりちゃんがやるって言うなら、俺達が全力で君を支えるよ」
だから大丈夫。言いたい事を言っていい。そう思いを込めて、きらりちゃんの瞳をまっすぐに見返せば、きらりちゃんがキュッと口を結んだ。
しばしの無言が続いた。
が、ふいにギュッと拳が握られたかと思うと、きらりちゃんの瞳の揺らぎが止まった。
そうして力強い光がそこに宿ったかと思うと、「やる」という真剣な声と共に、きらりちゃんが俺に頷き返してきたのだった。
「とぅいんくる, とぅいんくる りぃーるすたぁー
はぅあい わんだぁ わっつゆぅあー」
幼い歌声が、最後のサビに辿りつく。
それにあわせて、伴奏も盛りあがりを見せ始める。主役をかき消さないように、支えるように、音を生み出していく。
それはさながら、何も見えない夜の道を1人歩く少女を導くよう。
暗い暗いと思いながら迷って歩いていたなか、ふっと顔をあげた先に広がる満天の星空。
宇宙から降り注ぐ明かりは、そのひとつひとつこそは小さなものだが、たくさん集まればそれだけ眩い輝きを放ち、夜の闇を明るく照らしてくれる。
大丈夫だよ。君の行く先は間違ってなんかない。
自分達が照らすから、君はそのまま歩き続けて。
そんな言葉を、思いを、瞬きに乗せて。
少女の足元を、辺りを、優しく音で照らしていく。
そして――……、
「あっぷあ ばぅだ わぁーそぅはぁい
らいかぁ だいもん いんざすかい
とぅいんくる, とぅいんくる りぃーるすたぁー
はぅあい わんだぁ わっつゆぅあー」
主役が最後の歌詞を歌い終えた。
それを合図に、伴奏も緩やかに終わりへと向かっていく。去っていく主役に続く形で、ドラムが静かに消える。まるでやってきた夜明けによって白む空から、星が姿を消すように。静かにソッと、音の向こうへと消えていく。
残ったキーボードも、その静けさを引き継ぐように、落ち着いた旋律を奏でていく。
緩やかに、穏やかに。徐々に旋律を小さくしていく。
そして全ての星が消えると同時に、――静けさが室内に満ちた。
シン、と静寂が場に広がる。
指揮を振っていた俺の腕も止まり、おろされる。
(し、失敗したか……?)
まったくなんの反応も返してこない拓弥に、不安で心臓がバクバクと鳴り出す。
やはり付け焼き刃の演奏と歌唱では、聞くに耐えなかったのだろうか。
どうしよう。あまりの下手くそ具合に何も言えないでいるとかだったら。
最悪の場面がいくつも脳内に浮かび、心臓の鼓動にあわせてダラダラと冷や汗が背中を流れていった――、時だった。
パチパチパチと、確かな拍手の音がスタジオ内に鳴った。
「凄いね、きらり。こんなに英語をできるようになってたなんて、パパ思いもしなかったよ」
「とても……、素敵だったよ」続けられた言葉に引っ張られるように、俺は声がした方へ――、拓弥の方へ振り返った。
へらりと、力の抜けた笑みを顔に浮かべている拓弥。苦笑にも似た、拓弥のいつも通りの微笑みだ。だけどいつものような呆れだとか、仕方がないな、と言いたげな雰囲気だとか、そういったものはそこにはない。
むしろ、もっと暖かな雰囲気の笑みに見える。何か大事なものを見守るような、眩い輝きを放つなにかを尊ぶような、そんな柔らかさを携えているように見えた。
どうやら、きらりちゃんが拓弥に見せたかったものは、ちゃんと見せる事ができたみたいだ。ホッと胸をなでおろす。
後ろをチラリと見れば、どこか得意げに小さく口角をあげる優作と、安心したように息をつくたかのっぽくんの姿が目についた。2人も、演奏が成功した事に安堵しているようだ。
(あとは……、拓弥次第だ)
俺達第三者にできるのは、ここまでだ。
ここから先は、俺達の出る幕ではない。
それは、涙で濡れてこそいないものの、昨晩泣きながら思いを吐露してきた時に彼女が見せたものとそっくりだった。
「いいよ」
まっすぐきらりちゃんと向き合い、俺は頷き返した。
そうして、昨晩は返せなかった言葉を、気持ちを、ものを、今度こそ口にした。
「きらりちゃんがやるって言うなら、俺達が全力で君を支えるよ」
だから大丈夫。言いたい事を言っていい。そう思いを込めて、きらりちゃんの瞳をまっすぐに見返せば、きらりちゃんがキュッと口を結んだ。
しばしの無言が続いた。
が、ふいにギュッと拳が握られたかと思うと、きらりちゃんの瞳の揺らぎが止まった。
そうして力強い光がそこに宿ったかと思うと、「やる」という真剣な声と共に、きらりちゃんが俺に頷き返してきたのだった。
「とぅいんくる, とぅいんくる りぃーるすたぁー
はぅあい わんだぁ わっつゆぅあー」
幼い歌声が、最後のサビに辿りつく。
それにあわせて、伴奏も盛りあがりを見せ始める。主役をかき消さないように、支えるように、音を生み出していく。
それはさながら、何も見えない夜の道を1人歩く少女を導くよう。
暗い暗いと思いながら迷って歩いていたなか、ふっと顔をあげた先に広がる満天の星空。
宇宙から降り注ぐ明かりは、そのひとつひとつこそは小さなものだが、たくさん集まればそれだけ眩い輝きを放ち、夜の闇を明るく照らしてくれる。
大丈夫だよ。君の行く先は間違ってなんかない。
自分達が照らすから、君はそのまま歩き続けて。
そんな言葉を、思いを、瞬きに乗せて。
少女の足元を、辺りを、優しく音で照らしていく。
そして――……、
「あっぷあ ばぅだ わぁーそぅはぁい
らいかぁ だいもん いんざすかい
とぅいんくる, とぅいんくる りぃーるすたぁー
はぅあい わんだぁ わっつゆぅあー」
主役が最後の歌詞を歌い終えた。
それを合図に、伴奏も緩やかに終わりへと向かっていく。去っていく主役に続く形で、ドラムが静かに消える。まるでやってきた夜明けによって白む空から、星が姿を消すように。静かにソッと、音の向こうへと消えていく。
残ったキーボードも、その静けさを引き継ぐように、落ち着いた旋律を奏でていく。
緩やかに、穏やかに。徐々に旋律を小さくしていく。
そして全ての星が消えると同時に、――静けさが室内に満ちた。
シン、と静寂が場に広がる。
指揮を振っていた俺の腕も止まり、おろされる。
(し、失敗したか……?)
まったくなんの反応も返してこない拓弥に、不安で心臓がバクバクと鳴り出す。
やはり付け焼き刃の演奏と歌唱では、聞くに耐えなかったのだろうか。
どうしよう。あまりの下手くそ具合に何も言えないでいるとかだったら。
最悪の場面がいくつも脳内に浮かび、心臓の鼓動にあわせてダラダラと冷や汗が背中を流れていった――、時だった。
パチパチパチと、確かな拍手の音がスタジオ内に鳴った。
「凄いね、きらり。こんなに英語をできるようになってたなんて、パパ思いもしなかったよ」
「とても……、素敵だったよ」続けられた言葉に引っ張られるように、俺は声がした方へ――、拓弥の方へ振り返った。
へらりと、力の抜けた笑みを顔に浮かべている拓弥。苦笑にも似た、拓弥のいつも通りの微笑みだ。だけどいつものような呆れだとか、仕方がないな、と言いたげな雰囲気だとか、そういったものはそこにはない。
むしろ、もっと暖かな雰囲気の笑みに見える。何か大事なものを見守るような、眩い輝きを放つなにかを尊ぶような、そんな柔らかさを携えているように見えた。
どうやら、きらりちゃんが拓弥に見せたかったものは、ちゃんと見せる事ができたみたいだ。ホッと胸をなでおろす。
後ろをチラリと見れば、どこか得意げに小さく口角をあげる優作と、安心したように息をつくたかのっぽくんの姿が目についた。2人も、演奏が成功した事に安堵しているようだ。
(あとは……、拓弥次第だ)
俺達第三者にできるのは、ここまでだ。
ここから先は、俺達の出る幕ではない。
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