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4章 臆病者と家族とキラキラ星
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(自分が悪いって、ちゃんと自分から謝れるのって凄い事だ)
大人だって、なかなか謝れない時は謝れないのに。自分が悪いとわかっていても、それを認める事ができない者なんて、この世にたくさんいる。
その結果、こじれにこじれて、気がついたらどんなに仲がよかったはずの相手であっても疎遠になってしまっているなんて、そんなのはザラにある事だ。
――かつての友と喧嘩別れをしてしまった大人達が、その友との間にできてしまった溝を上手く埋められないまま、今日までに至ってしまっているように。
(もしかしたら、この子も怖かったのかもしれないな)
『きらりね、ほんとうはわかってたの。パパに会いにいっても、パパはよろこんでくれないって』――先程のきらりちゃんの言葉を思い出しながら、想像してみる。大好きなパパに会いに行こうとする少女の姿を。
怒られる事も、悲しませる事も、なにもかも承知の上で会いに行く小さな少女は、きっと期待の反面、心の内では不安も一緒ににじませていたのではないだろうか。
困ってしまうかな。でも喜んでほしいな。けどやっぱり困らせてしまったらどうしよう。そんな不安と期待の間をずっと揺れ動く。
もし自分が思っている通りに、相手が自分を嫌いだとしたら、それこそ最悪なものはないだろう。
想像するだけで怖いことだ。
でもそれでも、少女は父に会いに来た。
大好きなパパに会いたくて。
大好きなパパに見てもらいたくて。
自分はこんなに成長したんだよと、そう伝えたくて――、怖さも抱えながら、1人でここまで来たのだ。
(本当に、大人顔負けの聡明な子だ)
伝えられない、上手く話せない、正しい言動がわからないなんて、そんな事で怖気ついてる大人達の方が恥ずかしくなってくるぐらいだぜ、まったく。
拓弥が苦々しそうに顔を歪めた。
何か言いたげな、しかしそれを本当に伝えてしまっていいのか。
悩むように口が開いては閉じられるが数回繰り返される。
が、覚悟を決めるようにグッと拳を握ったかと思うと、椅子から立ち上がった。
そうして、今にも泣き出しそうな顔でスカートを握る娘のもとへとむかうと、「きらり」とその名を呼びながら彼女の前にしゃがんだ。
「……ちょっとだけ、難しいお話をしてもいいかな」
「っ、むずかしいおはなし?」
ズッ! と、きらりちゃんが鼻を勢いよくすすりながら、拓弥に訊き返した。
「そう。難しいお話」
拓弥が頷き返す。父親のいつになく真剣な声と眼差しを受けたきらりちゃんが、グッと、今度はなにかを考えるように眉間に力をいれた。
そうして少しだけ間をあけた後、ズズーッ! と先刻よりもさらに勢いよく鼻をすすりながら、「ん」と拓弥に頷き返した。
そんな娘の様子に拓弥が苦笑する。
「ありがとう」と言葉を返しながら、ズボンのポッケからティッシュを出し、娘の顔を拭う。
「きらりも知ってのとおり、おれはもう、きらりの家族ではありません」
「っ」
拓弥に顔を綺麗にしてもらったきらりちゃんが、小さく息を飲んだ。
『家族ではない』――、そうハッキリと宣言された言葉が、彼女の小さな胸を刺したのは明白だった。
さすがにそれは言いすぎだと思ったのか、「おい」と優作が思わずといった様子で口を開いた。
が、ちょい待ち、と優作のそれを俺は手で制する。
怖がっていた友人が踏み出した1歩を、自分の大事なものと向き合う事を決めたその覚悟をもう少しだけ見守りたい。
それがどんな結果をもたらすかなんてわからないけれど、それでも今ここでそれを遮ったら、きっとこれまでと何も変わらないまま終わってしまう事だけは確かだろう。
俺の行動に、優作が顔をしかめる。が、すぐに諦めたようにため息をつくと、何も言わずに引き下がってくれた。
何かあったらお前が責任を取れよ、と言いたげな眼差しが向けられたが、それぐらいお安いものだ。
よっしゃ、短気ゴリラの鎮圧、無事成功だぜ。
不安げにこちらを見ているたかのっぽくんにも、しーっ、と人差し指をたて返す。
ちょっと迷ったようにたかのっぽくんの視線があたりをさまよったが、最終的に俺を信じる事に決めてくれたらしい。何も言わず、こくりと小さく頷いてくれた。
「きらりの家族じゃないから、今回みたいに、きらりがパパに授業参観を見てほしいと思っても、パパはもうきらりの授業参観を見ることはできません」
拓弥が話を続ける。
きらりちゃんと向き合いながら、まっすぐに、ハッキリと言葉を続けていく。
「ほかにも、運動会に来てほしいと言われても、一緒にどこかへお出かけしたいと頼まれても、おれはもうきらりの家族じゃないから、それをしてあげる事はできません。……お出かけは、ママの許可さえもらえればできるかもだけどね」
苦笑交じりに続けられた拓弥の言葉に、きらりちゃんの顔がさらにくしゃりと歪む。
すると、そんなきらりちゃんを安心させるかのように、拓弥がほんのりと笑みを浮かべた。
「でもね、家族ではないけれど、おれはきらりのパパです」
「? どういうこと……?」
きらりちゃんが不思議そうに首をかしげた。
そんな娘に言い聞かせるように、「そのまんまの意味だよ」と父親の優しい声が説明を続ける。
大人だって、なかなか謝れない時は謝れないのに。自分が悪いとわかっていても、それを認める事ができない者なんて、この世にたくさんいる。
その結果、こじれにこじれて、気がついたらどんなに仲がよかったはずの相手であっても疎遠になってしまっているなんて、そんなのはザラにある事だ。
――かつての友と喧嘩別れをしてしまった大人達が、その友との間にできてしまった溝を上手く埋められないまま、今日までに至ってしまっているように。
(もしかしたら、この子も怖かったのかもしれないな)
『きらりね、ほんとうはわかってたの。パパに会いにいっても、パパはよろこんでくれないって』――先程のきらりちゃんの言葉を思い出しながら、想像してみる。大好きなパパに会いに行こうとする少女の姿を。
怒られる事も、悲しませる事も、なにもかも承知の上で会いに行く小さな少女は、きっと期待の反面、心の内では不安も一緒ににじませていたのではないだろうか。
困ってしまうかな。でも喜んでほしいな。けどやっぱり困らせてしまったらどうしよう。そんな不安と期待の間をずっと揺れ動く。
もし自分が思っている通りに、相手が自分を嫌いだとしたら、それこそ最悪なものはないだろう。
想像するだけで怖いことだ。
でもそれでも、少女は父に会いに来た。
大好きなパパに会いたくて。
大好きなパパに見てもらいたくて。
自分はこんなに成長したんだよと、そう伝えたくて――、怖さも抱えながら、1人でここまで来たのだ。
(本当に、大人顔負けの聡明な子だ)
伝えられない、上手く話せない、正しい言動がわからないなんて、そんな事で怖気ついてる大人達の方が恥ずかしくなってくるぐらいだぜ、まったく。
拓弥が苦々しそうに顔を歪めた。
何か言いたげな、しかしそれを本当に伝えてしまっていいのか。
悩むように口が開いては閉じられるが数回繰り返される。
が、覚悟を決めるようにグッと拳を握ったかと思うと、椅子から立ち上がった。
そうして、今にも泣き出しそうな顔でスカートを握る娘のもとへとむかうと、「きらり」とその名を呼びながら彼女の前にしゃがんだ。
「……ちょっとだけ、難しいお話をしてもいいかな」
「っ、むずかしいおはなし?」
ズッ! と、きらりちゃんが鼻を勢いよくすすりながら、拓弥に訊き返した。
「そう。難しいお話」
拓弥が頷き返す。父親のいつになく真剣な声と眼差しを受けたきらりちゃんが、グッと、今度はなにかを考えるように眉間に力をいれた。
そうして少しだけ間をあけた後、ズズーッ! と先刻よりもさらに勢いよく鼻をすすりながら、「ん」と拓弥に頷き返した。
そんな娘の様子に拓弥が苦笑する。
「ありがとう」と言葉を返しながら、ズボンのポッケからティッシュを出し、娘の顔を拭う。
「きらりも知ってのとおり、おれはもう、きらりの家族ではありません」
「っ」
拓弥に顔を綺麗にしてもらったきらりちゃんが、小さく息を飲んだ。
『家族ではない』――、そうハッキリと宣言された言葉が、彼女の小さな胸を刺したのは明白だった。
さすがにそれは言いすぎだと思ったのか、「おい」と優作が思わずといった様子で口を開いた。
が、ちょい待ち、と優作のそれを俺は手で制する。
怖がっていた友人が踏み出した1歩を、自分の大事なものと向き合う事を決めたその覚悟をもう少しだけ見守りたい。
それがどんな結果をもたらすかなんてわからないけれど、それでも今ここでそれを遮ったら、きっとこれまでと何も変わらないまま終わってしまう事だけは確かだろう。
俺の行動に、優作が顔をしかめる。が、すぐに諦めたようにため息をつくと、何も言わずに引き下がってくれた。
何かあったらお前が責任を取れよ、と言いたげな眼差しが向けられたが、それぐらいお安いものだ。
よっしゃ、短気ゴリラの鎮圧、無事成功だぜ。
不安げにこちらを見ているたかのっぽくんにも、しーっ、と人差し指をたて返す。
ちょっと迷ったようにたかのっぽくんの視線があたりをさまよったが、最終的に俺を信じる事に決めてくれたらしい。何も言わず、こくりと小さく頷いてくれた。
「きらりの家族じゃないから、今回みたいに、きらりがパパに授業参観を見てほしいと思っても、パパはもうきらりの授業参観を見ることはできません」
拓弥が話を続ける。
きらりちゃんと向き合いながら、まっすぐに、ハッキリと言葉を続けていく。
「ほかにも、運動会に来てほしいと言われても、一緒にどこかへお出かけしたいと頼まれても、おれはもうきらりの家族じゃないから、それをしてあげる事はできません。……お出かけは、ママの許可さえもらえればできるかもだけどね」
苦笑交じりに続けられた拓弥の言葉に、きらりちゃんの顔がさらにくしゃりと歪む。
すると、そんなきらりちゃんを安心させるかのように、拓弥がほんのりと笑みを浮かべた。
「でもね、家族ではないけれど、おれはきらりのパパです」
「? どういうこと……?」
きらりちゃんが不思議そうに首をかしげた。
そんな娘に言い聞かせるように、「そのまんまの意味だよ」と父親の優しい声が説明を続ける。
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