Herec 2nd~一度音楽をやめた奴らが結成した『社会人バンド』がMVを作る事になった話~

勝哉道花@みちなり文庫

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4章 臆病者と家族とキラキラ星

4-17

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「おれはもう、きらりの授業参観にも、運動会にも、お出かけにも一緒に行く事はできない。きらりの"お父さん"のように、いつでもきらりの傍にいてあげられるわけじゃないし、きらりがお話を聞いてもらいたい時にそれを聞いてあげる事もできない。家族のようにきらりと一緒にいる事は、もうパパにはできないんだ。でもね、それでもパパはきらりのパパなんだ。家族ではなくとも、パパはきらりのパパなんだよ。この意味、わかるかな」
「……むずかしい」

 少しだけ考えるような間をあけた後に、きらりちゃんがそう返した。ぎゅうっ、と再び眉間に深いしわを寄せながら、「よくわからない」と続ける。

「それでいいよ」と、拓弥が苦笑した。

「わからなくてもいいよ。パパだって、わからなくなる時がある。本当にこれでいいのかなって、おれが選んだ事は間違ってないのかなって、そう思う時が何度もある」

 何かを思い出しているのか、拓弥の目が少しだけ細くなる。
 かつての過去を思い出しているのか、それとももっと違う何かを思い出しているのか。その表情からだけではわからない。

 だけど、どこか寂しさと懐かしさ、その両方を携えた眼差しがきらりちゃんを愛おしげに見ている。
 それだけは確かだった。

「きっとこの先ずっと、おれはきらりにパパらしい事は何ひとつしてあげられない。今回みたいに、また寂しい思いや悲しい思いをさせてしまうかもしれない。だけどそれは、決してきらりの事が嫌いだからじゃない」
「!」

 ハッと、きらりちゃんが目を大きく見開きながら、拓弥を見返した。
 そんな娘に応えるように、拓弥が静かに微笑む。

「ママと別れたのも、きらり達と家族じゃなくなったのも、全部パパ自身の問題だ。きらりが嫌になったからとか、そんな理由じゃない。間違う事が怖くて、本当にちゃんと大事な事と向き合いきれてなかったんだ。パパが弱くて、怖がりで、自信がなかっただけ。……今までちゃんとお話してこなくて、ごめんね」

「これでもきらりのパパだからさ。きらりにかっこ悪いところは、どうしたって見せたくなかったんだ」と、拓弥が困ったように笑う。

「パパ……」

 きらりちゃんが困惑した声音で呟いた。そのまま無言で俯く。

 彼女なりに、拓弥に言われた事の意味を考えているのは明白だった。
 最初に拓弥が『難しい』と宣言した通り、今の話は、きらりちゃんの年頃の子に聞かせるには少々難しくわかりにくい部分がある。

(でもきっと、たぶん、大丈夫だ)

 まだ2日程しかあの子と話していない俺が何を言うのかって話だけど、でもきっと大丈夫。そう思える。

 だって――……。

「パパ」

 きらりちゃんが顔をあげた。
 そうして、先刻までの拓弥がそうしていたように、目の前の父親をまっすぐに見つめ返す。

「……きらりのこと、ほんとうにきらいじゃないの?」
「もちろん」
「きらりのこと、イヤになったから、家族じゃなくなっちゃったわけじゃない?」
「そんなわけない。パパがきらりの事が嫌になるなんて、そんな事、絶対にない。むしろ、きらりの方こそ、こんな弱虫なパパで嫌になってないかい」
「そんなことないわ! だって、パパはきらりの大好きなパパだもの! きらり、パパがこわがりでも"よわむし"でも、お父さんみたいにいっしょにいられなくても、きらいなんて、そんなことぜったいに思わないわ!」

 きらりちゃんが拓弥の質問に力いっぱい即答した。

 その勢いにびっくりしたのか、拓弥が目をぱちくりとさせる。
 だが、すぐに顔をほころばせると、「そうだね」と嬉しさが滲む声と共に、きらりちゃんに頷き返した。

「おれも同じ。どんな事があっても、たとえ家族じゃなくなっても、きらりの事が大好きだよ」
「っ」

 拓弥の言葉に、きらりちゃんの目から大きな涙の粒がボロボロと流れ始めた。かと思った次の瞬間、拓弥の首元に勢いよく抱きついた。

 わんわんと、文字通り堰を切ったように泣きながら抱きつく娘に、拓弥が苦笑する。
 耳元で泣かれる大声は、きっと拓弥の中にうるさい程に響いてるだろう。だが、そのうるささも愛おしいというように、拓弥がきらりちゃんを抱きしめ返す。

(ほら、大丈夫だった)

 優作が、やれやれと言うように、ほんのりとその顔に笑みを浮かべながら首を横に振った。たかのっぽくんが、ホッと息をつきながら胸をなでおろす。

 俺も無事に収束した事態に、にひひっと笑う。そうしてもう一度、拓弥ときらりちゃんの方を見やる。

 見た目も、中身も、お互いへの思いも似ていて、もう家族ではなくとも確かにそっくりで似たもの同士である父娘。

 そんな2人の姿に胸が暖かくなっていくのを感じながら、俺は彼らを眺めたのだった。
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