Herec 2nd~一度音楽をやめた奴らが結成した『社会人バンド』がMVを作る事になった話~

勝哉道花@みちなり文庫

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4章 臆病者と家族とキラキラ星

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 なんとか無事に事が落ち着き、ホッとしたのもつかの間。ふとスタジオの壁にかけられている時計を見ると、スタジオ退出五分前になっていた。

「ゲッ、やばっ」

 思わず声をあげた俺につられるようにして、その場にいた全員の目が時計に向けられた。退出時間を知らない井尻親子は、不思議そうに時計を見上げていたが、本作戦協力者組の優作とたかのっぽくんは、一瞬で事態を理解したらしい。途端、一瞬前の俺と同じように自分達の失態に気づいた2人が、「ゲッ」「あっ」と揃えて声をあげた。

 そこからはもう、とにかくひどい有り様だったのは言うまでもないだろう。

 きらりちゃんの相手は拓弥に任せ、俺、優作、たかのっぽくんの3人で、急いでスタジオの片づけを開始する。
 スタジオに置いとく物はスタジオに、受付に返すものはまとめて別の場所へ。1人がコード類をまとめて、残り2人でキーボードやらドラムを元置いてあった位置へ。あれはどこにやった、これはどこだっけと、ちょっと前の感動なんてまるでなかったかのように、ドタンバタン、わーぎゃーと騒ぎながら3人がかりで片付けていく。

 さすがのきらりちゃんも、これには完璧に涙が引っ込んだらしい。ぽかんとした顔で、俺達がスタジオを片付けていくさまを眺めていた。

 そんな娘とバンド仲間達の姿に、拓弥が苦笑を浮かべる。
 いつも通りの仕方がないものを見るような、でもどこか優しさも含んだ緩やかな苦笑が、その顔の上に浮かんでいた。
 
 そうして、どうにか片付けを終えて予定どおりにスタジオを出る事に成功した頃には、すでにきらりちゃんのお迎えが来る時間になっていた。

「駅前のバスロータリーに車で来てるって。向こうのお父さんも一緒みたい」

 元奥さんから連絡を受けた拓弥が、スマホを見ながらそう俺達に告げてきた。

 その説明に優作が、「駅なら帰り道だな」と口にする。ならばと、全員一致で、帰りがてらきらりちゃんを見送る事で話はまとまった。

 仲良く手を繋いで歩く井尻親子を、俺、優作、たかのっぽくんの3人でうしろから見守りながら駅前のロータリーへ向かう。
 昨日同様、駅前は人で賑わっていた。大勢いる人達の利用を待つかのように、ロータリーには数台のタクシーが停まっている。そこに紛れ込むようにして、その見覚えのあるミニバンは停まっていた。

 俺達の姿が中から見えたのか。俺達が声をかけるよりも先に、拓弥の元奥さんが車から出てきた。
 毅然とした態度で待つ元奥さんの方へ、拓弥がきらりちゃんを連れて向かう。こころなしか、きらりちゃんの歩き方がぎこちないのは、母親との対面への恐怖からだろうか。それでもしっかり拓弥の手を握りながら、母親の方へとゆっくり歩いていく。

(がんばれ、きらりちゃん)

 拓弥との一件は終わったけど、母親との方はまだうんともすんともいってないからな。こればっかりは本当にもう、俺達が口を挟む余地はどこにもないので、きらりちゃん自身が頑張るしかない。
 心の中で小さく応援しながら、その小さな背中を優作、たかのっぽくんの2人と共に見送る。

 その後、彼ら親子の邪魔にならないよう、少し離れた場所へと3人で移動した。昨日もたむろっていた覚えのある歩道の花壇のところに向かい、そこで井尻親子の話が終わるのを待つ事にする。

 そうして、どっこらせと3人横一列に腰をおろし、文字通り腰を落ち着けたところで――……、

「「「はぁあ~~~~~~~~~っ」」」」

 と、3人全員の口から、一斉に深いため息がその場に吐き出された。

「なんつーか、すっっっっっっっっっごい、濃い2日間だったね」

 ここ2日間の出来事を振り返りながら俺が口にすれば、同意するように、俺の左右に座っていた優作・たかのっぽくんが「だな」「ですね」と頷き返してきた。どことなく声音から疲れた感じがにじみ出ている気がするのは、たぶん俺の気のせいではないだろう。

 たかのっぽくんの妹さんの件といい、きらりちゃんと拓弥の件といい、たった二日間で本当にいろんな事があったものだ。

「いうて、最後の1日はどこかのアホの子の思いつきが原因だけどな」
「へへへ。さぁーせん」
「謝る気ゼロの謝罪やめろ、アホ社会人。結局まるまる2日使わせやがって……。せっかくの休日が丸つぶれじゃねぇか」

「こっちは明日から仕事だっつーのによぉ」と、俺の右隣で優作がぶつくさと続ける。

 俺だって明日から仕事だわい。
 まぁ別に、本気で文句を言ってるわけじゃない事は、その声音の棘のなさ具合からわかるからいいけどさ。

 こういう時ぐらい、素直に心配したと言えばいいのに。素直に思った事を言えない系男子は、1バンドに1人で充分だっつーの――、そう心の中でぶーたれていれば、「まぁ、なんとかなったからよかったじゃないですか」とたかのっぽくんが言葉を続けた。
 彼も彼で、優作の言葉が本気ではない事を察してはいるのか、優作の右隣で困ったような苦笑を浮かべている。

「……そうだね。とりあえずはまぁ、なんとかなってよかったかな」

 本当、文字通り『なんとかなって』だけど、とは胸の内だけで呟きながら、俺はたかのっぽくんに頷き返した。
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