Herec 2nd~一度音楽をやめた奴らが結成した『社会人バンド』がMVを作る事になった話~

勝哉道花@みちなり文庫

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4章 臆病者と家族とキラキラ星

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(結局のところ、根本的なところは何ひとつだって解決はできてないんだよなぁ)

 一見いろいろ落ち着いたように見えるけど、あくまでも今回の事は、拓弥ときらりちゃんとの間にあったわだかまりをなくしただけに過ぎない。

 家庭環境の複雑さが生み出す問題は、どうしたって今後もつきまとってくる。
 井尻親子の関係が続く限り。きっとずっと、悩みの種として彼らの間に残り続けるのだろう。

 でも――、と離れた位置で話を続ける井尻親子に目を向ける。

 ミニバンが停まる横の歩道で話を続ける拓弥と元奥さん、そしてきらりちゃんの3人。
 『お父さん』の姿は見えないが、たぶん車の中にいるのだろう。

 まぁ、自分の奥さんの元旦那となんて、どう顔を合わせればいいかわからないものだろうしね。車内で待っているのが無難か。
 しかし、気まずくなるとわかっていてそれでもここまで来るあたり、今のお父さんもお父さんなりにきらりちゃんの事を想っているのは明白だ。

 きらりちゃんと手を繋ぎながら、元奥さんと会話をする拓弥。
 そんな2人に、遠目に見てもわかるぐらいの厳しい眼差しを向ける元奥さん。自分の娘のしでかしに、怒りを覚えているのがよくわかる眼差しだ。

 だが、こころなしか、そこに相手を非難するような雰囲気はない気がした。

 実際、拓弥の話が終わったかと思われた途端、彼女の顔に浮かんだのは、今にも泣きだすのではないかと思うような、くしゃりと歪んだ苦々しい表情だった。
 そうして、そのままきらりちゃんの前にしゃがみ込んだかと思うと、怒られる事を覚悟してしゅんと項垂れていた自分の娘をギュッと抱きしめた。

 わしわしと、乱暴な手つきできらりちゃんの頭が撫で始めた母親の姿に、拓弥がいつも通りの困ったような、でも仕方がないな、と言いたげな優しさも含んだ苦笑をする。
 きらりちゃんの方も顔こそ見えないけれど、ギュッと母親に抱きつき返した様子からは、彼女が無事に母親と和解できたらしい事が察せられる。

 それは、何も知らない者が傍から見れば、普通にどこにでも居る家族同士のやり取りとなんら変わりない光景のように、俺の目には映った。

(もしかしたら、元奥さんの方もきらりちゃんと顔を合わせにくかっただけなのかもな)

 昨日の元奥さんのきらりちゃんに対する態度を思い返しながら、心の中で呟く。

 あの時は随分冷たい態度を取るものだと思っていたが、きらりちゃんが家を飛び出した理由が判明した今振り返ると、彼女複雑な立場にあったのだろう。

 原因が自分の発言なだけに、強く言いづらかったのかもしれない。
 ……第三者である俺や優作、たかのっぽくんがあの場にいた事も、言いにくい理由のひとつだったのかもしれないけど。

(てか、家族間の問題なんて、複雑な家庭環境がなくたって起こりうる事だしね。ママやパパが話を聞いてくれない、子どもが親の言ってる事を聞かない、なんてどこの家庭でもあるあるって感じよ)

 実際、家庭訪問だとかなんかで、そういう話題はよくされますしねー。
 何度言っても宿題を全然やらないとか、叱っても朝はダラダラ起きてくるとか。親は虫が無理なのに対し子どもの方は虫が好きだから、帰り道に捕まえてくるのに悩んでる、なんてのもあったっけ。本当に、挙げるとキリがない。悩まない家の方が逆に珍しいくらいじゃね?

 そういや、そろそろうちの学校も家庭訪問の時期だったな。てことは、明日から色々準備しないといけないのか。

(この疲労がたまったまま、通常業務にくわえて家庭訪問の準備かぁ……。俺、体力持つかな)

 世知辛すぎる現実に思わず目が遠くを向きかけたその時、拓弥が小走りで俺達の方へと戻ってきた。

「ごめん、待たせちゃって」
「なんだ、もういいのか」

 駆け寄ってきた拓弥に、優作が尋ねる。

「もっとゆっくり話してきてもよかったんだぜ」と続ける幼馴染に、拓弥がいつも通りの苦笑を浮かべながら「さすがにこれ以上はね」と首を横に振リ返した。

「むこうの旦那さんも待ってるし、それ以上にいつまでもここに車を停めさせてるわけにもいかないしさ。とりあえず今日のところはこの辺にして、ゆっくり話すのは、また次の時にしようって約束してきたよ」

 確かに。ロータリーって本来は、車を駐めてていい場所じゃないもんね。ここで長話ってのも無理な話か。
 優作も納得したのか、なるほどな、と言った様子で拓弥に頷き返している。

「それにしても、今回はうちの事で迷惑かけちゃってごめんね。特に透くんには、本当、いろいろしてもらっちゃって……」

 申し訳無さそうに、拓弥が俺の方に振り向いてくる。
 思いもしなかった謝罪に、「いや、大体は俺が勝手にした事だしっ」と慌てて両手を振り返しながら俺は返した。
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