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5章 本気と『本気』と似た者同士
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「『何か』ってさ、別にこう、特定のものじゃなくていいんだ。たとえば、好きな人に伝えたい想いとか、大事な人への感謝の気持ちとか。あとはそうだなぁ、謝りたい相手に素直に謝れずにいる時……、なんてのもこういうのに当てはまるかもね」
『謝りたい相手』という言葉に、ピクリと優作が眉を動かし、拓弥が肩を揺らした。
2人が、俺と同じ人物を頭の中に思い浮かべたのは明らかだった。だが、たかのっぽくんの手前だからか、それを口にするつもりはないらしい。
かつてたかのっぽくんと同じポジションにいた、俺達の仲間。
アイツと俺達の間にあった事は、たかのっぽくんも知っているが、わざわざ口にしても気まずくなるだけだと、2人ともわかっていたのだろう。
「そういう『何か』ってさ、ちゃんと言葉にしても上手く相手に伝わってない時ってよくあるじゃん?」
2人の様子に、そしてわざと遠回しに言ってしまった自分の情けなさに苦笑しながら、俺は言葉を続けた。
「伝わってても、100%絶対に間違いなく伝わってるわけじゃない時もあるし、相手の方が違う意味で捉えちゃって、それが原因で話が噛み合わなくなる事もあるわけじゃん。でもさ、それでもやっぱり何かあったりすると、誰かにそれを『伝えたいなぁ』って思うわけでさ」
たとえば、ダメな事だとわかっていても、自分の頑張りを伝えたくって別れた父親に会いに来た少女のように。
たとえば、かつて誰にも届けられずに諦めた夢を、もう一度やりたいと思ってしまった大人達がいたように。
――……もう同じ景色は見られないとわかっていながらも、1人遠くに残してきてしまったかつての仲間の事を思う時があるように。
「そういう『何か』を――……、言葉にするのが難しいような『何か』をさ、あの楽曲で、俺達の音楽で伝えられたらいいなぁって、俺、思うんだ」
「「「……」」」
優作、拓弥、たかのっぽくんの3人が、顔を見合わす。
俺の言葉の意味を吟味するような間が、場に広がった。
そのどこか重たい空気にハッとして、慌てて「あ、でも、あくまでも俺の意見だからね⁉」と言葉を付け足す。
「他に意見があるなら、全然言ってもらって構わないから! やっぱりこの4人でやってるバンドなわけだし、3人の意見も大事ってか、皆がそれぞれに思ってる事があるなら言ってもらっ、」
「おれは透くんの意見に賛成かな」
俺の言葉を遮るように、拓弥が口を開いた。
予想外の方向からの援護に、キョトンと目を瞬く。そんな俺に、拓弥が苦笑を浮かべた。
いつも通りの呆れた、だけどどこか暖かさも含まれた苦笑がこちらに向けられる。
「正直なところ、おれには透くんみたいな、このバンドを通して伝えたい事とか訴えたい事っていうのは何もないんだ。そもそも、バンド活動自体透くんに誘われなければ、もう一度やろうなんて思いもしなかった事だったろうしね」
拓弥が言葉を続けながら、膝の上で手を組んだ。
キュッと、組んだ手に軽く力が込められる。
「だから、本音を言えば、バンドに対してはこれ以上の望みってのは特にないんだ。今みたいにこうやって皆で集まって、好き勝手演奏して、たまに動画をあげて……。そういうバンド活動がこのまま続けられるなら、おれはもうそれだけで充分」
「下手に焦っても失敗するだけだしね」と、恥ずかし気に笑いながら続ける拓弥に、あー、そんな事もありましたなぁ、と過去に彼が起こした騒動を思い出す。
そんな俺の横で、「うっ」と、当時の拓弥の喧嘩相手が小さく言葉を詰まらせながら、気まずそうに横に顔をそむけた。たかのっぽくんも当時の事を思い出したのか、なんともいえない困ったような笑みを優作の隣で浮かべている。
そんな俺達に、拓弥が再び苦笑する。
そうして少しの間を置いた後、「でもね、」と、優しげな声で続けた。
『謝りたい相手』という言葉に、ピクリと優作が眉を動かし、拓弥が肩を揺らした。
2人が、俺と同じ人物を頭の中に思い浮かべたのは明らかだった。だが、たかのっぽくんの手前だからか、それを口にするつもりはないらしい。
かつてたかのっぽくんと同じポジションにいた、俺達の仲間。
アイツと俺達の間にあった事は、たかのっぽくんも知っているが、わざわざ口にしても気まずくなるだけだと、2人ともわかっていたのだろう。
「そういう『何か』ってさ、ちゃんと言葉にしても上手く相手に伝わってない時ってよくあるじゃん?」
2人の様子に、そしてわざと遠回しに言ってしまった自分の情けなさに苦笑しながら、俺は言葉を続けた。
「伝わってても、100%絶対に間違いなく伝わってるわけじゃない時もあるし、相手の方が違う意味で捉えちゃって、それが原因で話が噛み合わなくなる事もあるわけじゃん。でもさ、それでもやっぱり何かあったりすると、誰かにそれを『伝えたいなぁ』って思うわけでさ」
たとえば、ダメな事だとわかっていても、自分の頑張りを伝えたくって別れた父親に会いに来た少女のように。
たとえば、かつて誰にも届けられずに諦めた夢を、もう一度やりたいと思ってしまった大人達がいたように。
――……もう同じ景色は見られないとわかっていながらも、1人遠くに残してきてしまったかつての仲間の事を思う時があるように。
「そういう『何か』を――……、言葉にするのが難しいような『何か』をさ、あの楽曲で、俺達の音楽で伝えられたらいいなぁって、俺、思うんだ」
「「「……」」」
優作、拓弥、たかのっぽくんの3人が、顔を見合わす。
俺の言葉の意味を吟味するような間が、場に広がった。
そのどこか重たい空気にハッとして、慌てて「あ、でも、あくまでも俺の意見だからね⁉」と言葉を付け足す。
「他に意見があるなら、全然言ってもらって構わないから! やっぱりこの4人でやってるバンドなわけだし、3人の意見も大事ってか、皆がそれぞれに思ってる事があるなら言ってもらっ、」
「おれは透くんの意見に賛成かな」
俺の言葉を遮るように、拓弥が口を開いた。
予想外の方向からの援護に、キョトンと目を瞬く。そんな俺に、拓弥が苦笑を浮かべた。
いつも通りの呆れた、だけどどこか暖かさも含まれた苦笑がこちらに向けられる。
「正直なところ、おれには透くんみたいな、このバンドを通して伝えたい事とか訴えたい事っていうのは何もないんだ。そもそも、バンド活動自体透くんに誘われなければ、もう一度やろうなんて思いもしなかった事だったろうしね」
拓弥が言葉を続けながら、膝の上で手を組んだ。
キュッと、組んだ手に軽く力が込められる。
「だから、本音を言えば、バンドに対してはこれ以上の望みってのは特にないんだ。今みたいにこうやって皆で集まって、好き勝手演奏して、たまに動画をあげて……。そういうバンド活動がこのまま続けられるなら、おれはもうそれだけで充分」
「下手に焦っても失敗するだけだしね」と、恥ずかし気に笑いながら続ける拓弥に、あー、そんな事もありましたなぁ、と過去に彼が起こした騒動を思い出す。
そんな俺の横で、「うっ」と、当時の拓弥の喧嘩相手が小さく言葉を詰まらせながら、気まずそうに横に顔をそむけた。たかのっぽくんも当時の事を思い出したのか、なんともいえない困ったような笑みを優作の隣で浮かべている。
そんな俺達に、拓弥が再び苦笑する。
そうして少しの間を置いた後、「でもね、」と、優しげな声で続けた。
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