77 / 82
5章 本気と『本気』と似た者同士
5-5
しおりを挟む
「それでも、そんな自分でもね、もしこのバンドを通して、皆と一緒に誰かに何かを伝える事ができたら……、それって凄く素敵な事なんじゃないかなって思うんだ」
「だから、おれは透くんの意見に賛成」と拓弥が言葉を締める。
思ってもみなかった拓弥の言葉に、思わず感動と安堵から言葉が詰まった。
やべぇ、めちゃくちゃジーンと来た。
ここが外じゃなかったら泣いてたかも。
「た、拓弥ぃ」と感極まってその名前を呼べば、やはり拓弥が苦笑を顔に浮かべる。
そうして、感動からまともに話せなくなった俺の代わりをするように、「2人はどう?」と優作とたかのっぽくんの方へ振り返った。
「まぁ、いいんじゃねぇの」と優作が腕を組みながら言った。たかのっぽくんも「皆さんがそれでいいなら、俺も問題ありません」と頷き返してくれる。
「つーか、もともとあの曲の歌詞は透が考えたもんだろ。お前がそこに込めたあれやこれやがあって、それを表現してぇっつーんなら、それに反対する理由はこっちにはねぇよ。まっ、そういう大事な事は、最初からちゃんと考えて作れとは言いてぇけどな」
「えぇ……、優作が優しい……」
「おい、なんだ。俺が優しいのが意外みてぇな言い方は」
「普段から優しいだろうが、俺は」と優作が、ギロリと俺を睨みつけてくる。
言葉と態度があってないんだよなー。鏡でもあれば、その顔を見せてやれたんだけど。
その後、渋い顔をするたかのっぽくんを説得する形で、シオリちゃんとの話し合いの場を設ける事が正式に決められた。
よーし、これでもう逃げられなくなったぞ。どんなに逃げたくても、もうシオリちゃんと会うしかありませーん。そう改めて俺が腹をくくった時、「とはいえ、」と拓弥が顎をさすりながら再び口を開いた。
「透くんの考え方だと、結局『何を伝えたいか』の『何』に曖昧さが残っちゃってるのは変わらないよね。このまま話し合いに行っても、そこをツッコまれたら終わりかもね」
さすが、我がバンドのまとめ役。そこに気づくとはさすがだぜ。
「そうなのよ~。そこが問題でさぁ」
思わず俺もガックリと肩を落としながら拓弥に返す。
すると、俺達のやり取りに思うところがあったらしいたかのっぽくんが、「ですが、」と困惑した様子で口を挟んできた。
「わかりやすい『何か』を作ってしまったら、それこそ酒井さんが最初に言っていた『特定なものじゃなくていい』って考えに反しませんか? 言いたい事が矛盾してしまうような……」
「つーか、この場合、無理に『何か』に絞る必要ってあんのか? 『何かを伝えたい』っつーのがこの曲の想いだってんなら、無理やり限定的な『何か』を取って付けたところで、それこそ後付け感しか出てこねぇだろ」
「でもでも、『何か』の部分が『何か』のままだったらさ、結局何を伝えたいんだー!って話にならね?」
「うーん。でも確かに、優くん達の言う通り、無理やり焦点を絞っても最初の考えと矛盾するのも事実かぁ」
拓弥、たかのっぽくん、優作と顔をつきあわせながら、楽曲の題材の詳細を煮詰めていく。
わーわーと、花壇に腰をおろしながら喋り続ける男四人に、やっぱり目を向ける者は誰もいなかった。そんななかで、それでも俺達の『誰か』に楽曲を届けるための話し合いは続けられていく。
途中で、お昼を過ぎていた事を思い出した優作が「続きは飯を食いながらやろうぜ」と言い出すその時まで、ずっと。
誰も見てなくても、気づかれなくても、俺達は夢中になってずっと話し合い続けた。
そうして、皆で導き出した答え。
それこそが――……。
「『伝える』ことそのもの、というわけですが」
俺の話を聞き終えたシオリちゃんが、俺に訊ね返してきた。
相変わらず、シオリちゃんの眉間には深いしわが刻まれている。しかし、先刻のような不機嫌そうな雰囲気はそこにはない。
どちらかといえば何かを考え込んでいるような印象を受ける。
難しい問題にぶつかった時、どう問題を解こうか考え込むような、そんな思案を巡らせている雰囲気に近い。
「そう。『何か』の部分をわかりやすい『何か』ひとつのものに焦点を当てないなら、『伝える』そのものに焦点を当てるのはどうかって事になったんだ」
シオリちゃんに頷き返しながら、説明を続ける。
最初にその提案をしたのは優作だった。
「特定の『何か』に絞れねぇなら、焦点を当てる箇所を変えたらどうよ」と、昼飯で入った駅前の中華料理チェーン店にて頼んだラーメンを食べながら、そう提案してきた。
「そもそも、最初のきっかけは『何かを伝える事は難しい』っつー考えから来てんだろ。つーことは、問題は『難しい』って感じた点にあるわけだ。なら、要点は『何か』じゃなくて、『伝える事が難しい』って部分にあんじゃねぇの」
サラッと、それこそ、その時に俺が食べていたカニ炒飯のさっぱりとした味付けの如く。
あっさりとした声音で告げられた考えに、俺の目が点になったのは言うまでもないだろう。
「だから、おれは透くんの意見に賛成」と拓弥が言葉を締める。
思ってもみなかった拓弥の言葉に、思わず感動と安堵から言葉が詰まった。
やべぇ、めちゃくちゃジーンと来た。
ここが外じゃなかったら泣いてたかも。
「た、拓弥ぃ」と感極まってその名前を呼べば、やはり拓弥が苦笑を顔に浮かべる。
そうして、感動からまともに話せなくなった俺の代わりをするように、「2人はどう?」と優作とたかのっぽくんの方へ振り返った。
「まぁ、いいんじゃねぇの」と優作が腕を組みながら言った。たかのっぽくんも「皆さんがそれでいいなら、俺も問題ありません」と頷き返してくれる。
「つーか、もともとあの曲の歌詞は透が考えたもんだろ。お前がそこに込めたあれやこれやがあって、それを表現してぇっつーんなら、それに反対する理由はこっちにはねぇよ。まっ、そういう大事な事は、最初からちゃんと考えて作れとは言いてぇけどな」
「えぇ……、優作が優しい……」
「おい、なんだ。俺が優しいのが意外みてぇな言い方は」
「普段から優しいだろうが、俺は」と優作が、ギロリと俺を睨みつけてくる。
言葉と態度があってないんだよなー。鏡でもあれば、その顔を見せてやれたんだけど。
その後、渋い顔をするたかのっぽくんを説得する形で、シオリちゃんとの話し合いの場を設ける事が正式に決められた。
よーし、これでもう逃げられなくなったぞ。どんなに逃げたくても、もうシオリちゃんと会うしかありませーん。そう改めて俺が腹をくくった時、「とはいえ、」と拓弥が顎をさすりながら再び口を開いた。
「透くんの考え方だと、結局『何を伝えたいか』の『何』に曖昧さが残っちゃってるのは変わらないよね。このまま話し合いに行っても、そこをツッコまれたら終わりかもね」
さすが、我がバンドのまとめ役。そこに気づくとはさすがだぜ。
「そうなのよ~。そこが問題でさぁ」
思わず俺もガックリと肩を落としながら拓弥に返す。
すると、俺達のやり取りに思うところがあったらしいたかのっぽくんが、「ですが、」と困惑した様子で口を挟んできた。
「わかりやすい『何か』を作ってしまったら、それこそ酒井さんが最初に言っていた『特定なものじゃなくていい』って考えに反しませんか? 言いたい事が矛盾してしまうような……」
「つーか、この場合、無理に『何か』に絞る必要ってあんのか? 『何かを伝えたい』っつーのがこの曲の想いだってんなら、無理やり限定的な『何か』を取って付けたところで、それこそ後付け感しか出てこねぇだろ」
「でもでも、『何か』の部分が『何か』のままだったらさ、結局何を伝えたいんだー!って話にならね?」
「うーん。でも確かに、優くん達の言う通り、無理やり焦点を絞っても最初の考えと矛盾するのも事実かぁ」
拓弥、たかのっぽくん、優作と顔をつきあわせながら、楽曲の題材の詳細を煮詰めていく。
わーわーと、花壇に腰をおろしながら喋り続ける男四人に、やっぱり目を向ける者は誰もいなかった。そんななかで、それでも俺達の『誰か』に楽曲を届けるための話し合いは続けられていく。
途中で、お昼を過ぎていた事を思い出した優作が「続きは飯を食いながらやろうぜ」と言い出すその時まで、ずっと。
誰も見てなくても、気づかれなくても、俺達は夢中になってずっと話し合い続けた。
そうして、皆で導き出した答え。
それこそが――……。
「『伝える』ことそのもの、というわけですが」
俺の話を聞き終えたシオリちゃんが、俺に訊ね返してきた。
相変わらず、シオリちゃんの眉間には深いしわが刻まれている。しかし、先刻のような不機嫌そうな雰囲気はそこにはない。
どちらかといえば何かを考え込んでいるような印象を受ける。
難しい問題にぶつかった時、どう問題を解こうか考え込むような、そんな思案を巡らせている雰囲気に近い。
「そう。『何か』の部分をわかりやすい『何か』ひとつのものに焦点を当てないなら、『伝える』そのものに焦点を当てるのはどうかって事になったんだ」
シオリちゃんに頷き返しながら、説明を続ける。
最初にその提案をしたのは優作だった。
「特定の『何か』に絞れねぇなら、焦点を当てる箇所を変えたらどうよ」と、昼飯で入った駅前の中華料理チェーン店にて頼んだラーメンを食べながら、そう提案してきた。
「そもそも、最初のきっかけは『何かを伝える事は難しい』っつー考えから来てんだろ。つーことは、問題は『難しい』って感じた点にあるわけだ。なら、要点は『何か』じゃなくて、『伝える事が難しい』って部分にあんじゃねぇの」
サラッと、それこそ、その時に俺が食べていたカニ炒飯のさっぱりとした味付けの如く。
あっさりとした声音で告げられた考えに、俺の目が点になったのは言うまでもないだろう。
0
あなたにおすすめの小説
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。
石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。
実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。
そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。
血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。
この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。
【完結】精霊に選ばれなかった私は…
まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。
しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。
選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。
選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。
貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…?
☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる