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5章 本気と『本気』と似た者同士
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(俺達のMVを作るから、そこまで調べてくれたって事かな、これは)
バンドとは何か、ロックとは何か。全く知らないから、でもそれを口にするわけにはいかないから、自分でいろいろ調べて勉強したって事なのだろうか。
自分から頼んだ事だからってのもあるだろうけど、でもはたしてそれだけで、そこまで調べる必要ってあるか?そう内心首をかしげた瞬間、ふいに前回の話し合いでシオリちゃんが怒鳴った言葉が脳裏を横切っていった。
――『私はクリエイターならできて当然の常識を言ったまでよ!』
(……もしかしたら、彼女にとってはこれぐらいするのが当たり前なのかもしれないな)
必要とか必要じゃないとか、それ以前に『して当然の事』なのだ。
それがどれだけ大変で面倒な事であっても、彼女からすれば、やってしかるべき事であって、そこに妥協は決して許されない。
1つの物を創る者として、自分のできる限りの事をする。
それが彼女のクリエイターとしての矜恃なのだろう。
(なんか、自分達との差をまざまざと見せつけられた気がして、結構落ち込むかも)
今さらと言えば、今さらな事なんだけどさー。
そもそもむこうはプロを目指して勉学に励む学生で、こっちはプロやメジャデビューなんてのは特に考えずに活動をする、いわゆるアマチュアに属する側だ。
プロとアマチュアが一緒の話題に出る事はあっても、同列で扱われる事は決してない。
そんな事は、過去の大騒動を通して嫌というほどに理解しているつもりだった……、んだけど。
(結局、どれだけ俺達が『本気』でバンド活動をしていても、本気でその道でやっていこうと考えている人達と比べたら、どうしたって、俺達の本気はちゃっちいものになっちまうんだよなぁ)
どうしても越えられない大きな隔たりが、そこには広がっているのだ。
その隔たりが一体なんなのかと言われたら、きっとこういうところなんだろうなぁ、と、目の前に座るプロの卵の姿を見る。
(でもそれでも、いや、)
だからこそ俺は、
否、俺達は――……。
「『伝える事は難しい』ってのがテーマでもよかったんだけどさ、でもそれだと、そこで終わっちゃう気がしたんだ」
「そこで終わっちゃう?」
シオリちゃんが、なんですかそれは、というように俺を訝しげに見てきた。
「『伝える事は難しい』ってのがテーマでもよかったんだけどさ、でもそれだと、そこで終わっちゃう気がしたんだ」
「そこで終わっちゃう?」
シオリちゃんが、なんですかそれは、というように俺を訝しげに見てきた。
「なんて言うのかな、『伝える事は難しい』がテーマだとさ、それだけで完結しちゃってるだろ? 伝える事イコール難しい事、何かを伝えるのって大変なことなんだよって、それだけ言って終わっちゃってるわけで」
「? それのどこに問題が?」
「いや、まぁ、その、テーマとしては確かにそれでも全然いいってか、問題ないんだろうけど」
ガリガリと頭をかきながら、返す言葉を探す。
「でもなんかそれだけで完結するのって、寂しいというか、あんまりにも何か足りない気がするってか……、難しいから何って言われたらそこまでになってしまうじゃん、みたいな。授業でやった事をそのままテストで出すだけじゃ、応用力や実践力はつかないで終わっちゃうのと一緒てかさ」
「はぁ」
あ、やばい。この感じ、まるっきり伝わってないやつだぞ。
シオリちゃんの曖昧な返答と訝しげな視線に、俺の頬をたらりと冷たい汗が伝っていく。
くそぉ、今ここに優作か拓弥がいれば、上手い事、俺の言いたい事を翻訳してくれただろうにっ。もう喧嘩しても全然いいから、たかのっぽくん呼び戻しちゃダメですか?
「と、とにかく、」と慌てて説明を続けた。
合間に一度、手元にあるコーヒーを飲んで、ヒートしそうになる頭をリフレッシュさせる。
「『伝える事は難しい』だけで終わったらさ、それ以上のものは何も伝えられない気がしたんだ」
「それ以上のもの?」
言葉の意味を探るように、再びオウム返しをしてきたシオリちゃんに、俺は「そう」と頷き返した。
バンドとは何か、ロックとは何か。全く知らないから、でもそれを口にするわけにはいかないから、自分でいろいろ調べて勉強したって事なのだろうか。
自分から頼んだ事だからってのもあるだろうけど、でもはたしてそれだけで、そこまで調べる必要ってあるか?そう内心首をかしげた瞬間、ふいに前回の話し合いでシオリちゃんが怒鳴った言葉が脳裏を横切っていった。
――『私はクリエイターならできて当然の常識を言ったまでよ!』
(……もしかしたら、彼女にとってはこれぐらいするのが当たり前なのかもしれないな)
必要とか必要じゃないとか、それ以前に『して当然の事』なのだ。
それがどれだけ大変で面倒な事であっても、彼女からすれば、やってしかるべき事であって、そこに妥協は決して許されない。
1つの物を創る者として、自分のできる限りの事をする。
それが彼女のクリエイターとしての矜恃なのだろう。
(なんか、自分達との差をまざまざと見せつけられた気がして、結構落ち込むかも)
今さらと言えば、今さらな事なんだけどさー。
そもそもむこうはプロを目指して勉学に励む学生で、こっちはプロやメジャデビューなんてのは特に考えずに活動をする、いわゆるアマチュアに属する側だ。
プロとアマチュアが一緒の話題に出る事はあっても、同列で扱われる事は決してない。
そんな事は、過去の大騒動を通して嫌というほどに理解しているつもりだった……、んだけど。
(結局、どれだけ俺達が『本気』でバンド活動をしていても、本気でその道でやっていこうと考えている人達と比べたら、どうしたって、俺達の本気はちゃっちいものになっちまうんだよなぁ)
どうしても越えられない大きな隔たりが、そこには広がっているのだ。
その隔たりが一体なんなのかと言われたら、きっとこういうところなんだろうなぁ、と、目の前に座るプロの卵の姿を見る。
(でもそれでも、いや、)
だからこそ俺は、
否、俺達は――……。
「『伝える事は難しい』ってのがテーマでもよかったんだけどさ、でもそれだと、そこで終わっちゃう気がしたんだ」
「そこで終わっちゃう?」
シオリちゃんが、なんですかそれは、というように俺を訝しげに見てきた。
「『伝える事は難しい』ってのがテーマでもよかったんだけどさ、でもそれだと、そこで終わっちゃう気がしたんだ」
「そこで終わっちゃう?」
シオリちゃんが、なんですかそれは、というように俺を訝しげに見てきた。
「なんて言うのかな、『伝える事は難しい』がテーマだとさ、それだけで完結しちゃってるだろ? 伝える事イコール難しい事、何かを伝えるのって大変なことなんだよって、それだけ言って終わっちゃってるわけで」
「? それのどこに問題が?」
「いや、まぁ、その、テーマとしては確かにそれでも全然いいってか、問題ないんだろうけど」
ガリガリと頭をかきながら、返す言葉を探す。
「でもなんかそれだけで完結するのって、寂しいというか、あんまりにも何か足りない気がするってか……、難しいから何って言われたらそこまでになってしまうじゃん、みたいな。授業でやった事をそのままテストで出すだけじゃ、応用力や実践力はつかないで終わっちゃうのと一緒てかさ」
「はぁ」
あ、やばい。この感じ、まるっきり伝わってないやつだぞ。
シオリちゃんの曖昧な返答と訝しげな視線に、俺の頬をたらりと冷たい汗が伝っていく。
くそぉ、今ここに優作か拓弥がいれば、上手い事、俺の言いたい事を翻訳してくれただろうにっ。もう喧嘩しても全然いいから、たかのっぽくん呼び戻しちゃダメですか?
「と、とにかく、」と慌てて説明を続けた。
合間に一度、手元にあるコーヒーを飲んで、ヒートしそうになる頭をリフレッシュさせる。
「『伝える事は難しい』だけで終わったらさ、それ以上のものは何も伝えられない気がしたんだ」
「それ以上のもの?」
言葉の意味を探るように、再びオウム返しをしてきたシオリちゃんに、俺は「そう」と頷き返した。
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