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5章 本気と『本気』と似た者同士
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「……白状しちゃうとさ、実はこの曲の歌詞って、皆で曲を作ろうってなった時に『伝える事が難しい』ってそう思い至るような出来事がいろいろあって、それを通して俺自身が思った事を色々グワーッて書き込んだだけのものなんだ」
「グワーッと、ですか」
どうやら俺の言い方が引っかかったらしい。口にこそ出してはいないものの、子どもの言い回しかよ、と言いたげなしかめっ面がシオリちゃんの顔に浮かべられた。
語彙力がない大人で本当にすみません。
自分でもそう思います。とほほ。
「だからまぁ、その、なんといいますか……。きっと、今さら俺が何を言っても、シオリちゃんには後付けみたいな理由にしか聞こえないと思う」
「……」
「でも、たとえ後付けだとしてもさ、この歌詞を書いた時に思ったいろいろってのは確かにあって、それを歌詞にしてみたいって思った事自体は本当の事なんだ」
たとえば、決してもう家族とは呼べない関係の親子が、だからって家族ではない事がお互いへの愛情がなくなった証にはならなかったように。
姿形は変わってしまっても、家族という定義にはもう当てはまらないかもしれないけれど、それでも彼らが今もお互いの事を大事に思っている事は本当に本当のことで。
それだけは決して、何にも変わらない事実なのだ。
「あの時、グワーッて来たものがなんだったのか、本当に今、俺が考えている事があの時感じたものと一致しているのか、正直俺自身、はっきりとはわからない。もしかしたら、今の自分にとって都合がいいように解釈しちゃってるだけなのかもしれない。あとからなんていくらでも、好きなように言えるしね。
だけど……、それだってやっぱり、好きなように言えるだけの何かがそこにあったからこそ、言える事なんじゃないかなって思うんだ」
「それに、」とそこで言葉を区切る。
ちょっとだけ深呼吸して、再び現実と向き合う。
「たぶんこれは、うちのバンドだから言える事でもあると思うんだ」
俺の説明に、シオリちゃんがピクリと眉を動かした。
「音楽を……、好きだったはずのものを一度手放した事があるような俺達だから、言える事なんじゃないかなって、そう思うんだ」
自分達の作り上げたものじゃ、誰の心にも響かせる事はできないと知っている俺達だから。
もう二度と、かつてのような気持ちで、音楽と向き合う事ができない俺達だから。
――そんな奴らだけど、それでももう一度と、今の自分達なりのやり方で音楽を、バンドをしている俺達だから。
「言いたいなって。伝えられるよって」
頭の中に、小さな少女の姿が浮かぶ。
狭い6畳ほどの部屋の中。ステージもそこを照らすスポットライトもなくて、あるのはプロのものと比べたら、まるでおままごとのような俺達の演奏だけ。
それでも楽しんでくれた、小さな観客。
きっと、あれが今の俺達にできる精一杯の光景で、同時に、どう足掻いてもこれ以上のものを俺達が作る事はできないのだろう。――『本気』で夢を追う事を諦めてしまった、もう追う気のない俺達には。
ただそれでも、あの小さくて、それ以上何も生み出せないような光景であっても、それを悪くないと思った気持ちは本物だった。
プロのような、その道で食べて行くような人達が作るようなものにはなれなくても、でもだからってあの空間がダメなものだとは、どうしても俺には思えない。
伝える事が難しくても、望んだような結果にはならなくても、それでも確かにそこから見えてくるものだってあるのだ。
そういうものも確かにあるのだと、伝えたい。
伝えて――、みたい。
「とまぁ、その、とにもかくにも、これがあの曲につけたテーマ……、です、はい」
なんて話を締め括ればいいのかわからず、なんとも情けない尻切れとんぼなまとめが、俺の口からこぼれ落ちていった。
(ちゃ、ちゃんと伝わったのかしらん)
どうしよう、ここまで来て全くわかってもらえていなかったら。
いや、理解ができないと言われるだけなら、まだマシかもしれん。
もしこれで、「そんなのは、テーマとしては認められません」とでも言われたら、それこそ本当にどうしようもない話だ。
否定されたら、泣きついてみようか。これ以上もう何も出ませんって。
大人としてのプライドとか知らん。そんなもの、語彙力と共にドツボの向こう側に捨てました。
内心、冷や汗ダラッダラになりながら、シオリちゃんからの反応を待つ。
昼が近づいてきたからか、気がつけば店内は先刻よりも賑やかになっていた。ピンポーンと、新しいお客さんが店内に入ってきた事を告げる音が鳴る。ガヤガヤと、明るい話声が至るところからあがり、店内を華やかな雰囲気に彩っていく。
しかし、そのどれもが俺の耳を素通りしていく。
聞こえるのは、バックンバックンと、今世紀最大といっても過言ではない音量で鳴り響き続ける自分の鼓動音だけだ。
(いかん。これ以上待たされると、俺の心臓、破裂するかも)
ここが俺の死に場所か、なんて使い古されたロックの歌詞のようなセリフを心の中で呟きながら、意識を遠いところへ飛ばしかけたその時――、
「……お話はわかりました」
シオリちゃんが口を開いた。
「グワーッと、ですか」
どうやら俺の言い方が引っかかったらしい。口にこそ出してはいないものの、子どもの言い回しかよ、と言いたげなしかめっ面がシオリちゃんの顔に浮かべられた。
語彙力がない大人で本当にすみません。
自分でもそう思います。とほほ。
「だからまぁ、その、なんといいますか……。きっと、今さら俺が何を言っても、シオリちゃんには後付けみたいな理由にしか聞こえないと思う」
「……」
「でも、たとえ後付けだとしてもさ、この歌詞を書いた時に思ったいろいろってのは確かにあって、それを歌詞にしてみたいって思った事自体は本当の事なんだ」
たとえば、決してもう家族とは呼べない関係の親子が、だからって家族ではない事がお互いへの愛情がなくなった証にはならなかったように。
姿形は変わってしまっても、家族という定義にはもう当てはまらないかもしれないけれど、それでも彼らが今もお互いの事を大事に思っている事は本当に本当のことで。
それだけは決して、何にも変わらない事実なのだ。
「あの時、グワーッて来たものがなんだったのか、本当に今、俺が考えている事があの時感じたものと一致しているのか、正直俺自身、はっきりとはわからない。もしかしたら、今の自分にとって都合がいいように解釈しちゃってるだけなのかもしれない。あとからなんていくらでも、好きなように言えるしね。
だけど……、それだってやっぱり、好きなように言えるだけの何かがそこにあったからこそ、言える事なんじゃないかなって思うんだ」
「それに、」とそこで言葉を区切る。
ちょっとだけ深呼吸して、再び現実と向き合う。
「たぶんこれは、うちのバンドだから言える事でもあると思うんだ」
俺の説明に、シオリちゃんがピクリと眉を動かした。
「音楽を……、好きだったはずのものを一度手放した事があるような俺達だから、言える事なんじゃないかなって、そう思うんだ」
自分達の作り上げたものじゃ、誰の心にも響かせる事はできないと知っている俺達だから。
もう二度と、かつてのような気持ちで、音楽と向き合う事ができない俺達だから。
――そんな奴らだけど、それでももう一度と、今の自分達なりのやり方で音楽を、バンドをしている俺達だから。
「言いたいなって。伝えられるよって」
頭の中に、小さな少女の姿が浮かぶ。
狭い6畳ほどの部屋の中。ステージもそこを照らすスポットライトもなくて、あるのはプロのものと比べたら、まるでおままごとのような俺達の演奏だけ。
それでも楽しんでくれた、小さな観客。
きっと、あれが今の俺達にできる精一杯の光景で、同時に、どう足掻いてもこれ以上のものを俺達が作る事はできないのだろう。――『本気』で夢を追う事を諦めてしまった、もう追う気のない俺達には。
ただそれでも、あの小さくて、それ以上何も生み出せないような光景であっても、それを悪くないと思った気持ちは本物だった。
プロのような、その道で食べて行くような人達が作るようなものにはなれなくても、でもだからってあの空間がダメなものだとは、どうしても俺には思えない。
伝える事が難しくても、望んだような結果にはならなくても、それでも確かにそこから見えてくるものだってあるのだ。
そういうものも確かにあるのだと、伝えたい。
伝えて――、みたい。
「とまぁ、その、とにもかくにも、これがあの曲につけたテーマ……、です、はい」
なんて話を締め括ればいいのかわからず、なんとも情けない尻切れとんぼなまとめが、俺の口からこぼれ落ちていった。
(ちゃ、ちゃんと伝わったのかしらん)
どうしよう、ここまで来て全くわかってもらえていなかったら。
いや、理解ができないと言われるだけなら、まだマシかもしれん。
もしこれで、「そんなのは、テーマとしては認められません」とでも言われたら、それこそ本当にどうしようもない話だ。
否定されたら、泣きついてみようか。これ以上もう何も出ませんって。
大人としてのプライドとか知らん。そんなもの、語彙力と共にドツボの向こう側に捨てました。
内心、冷や汗ダラッダラになりながら、シオリちゃんからの反応を待つ。
昼が近づいてきたからか、気がつけば店内は先刻よりも賑やかになっていた。ピンポーンと、新しいお客さんが店内に入ってきた事を告げる音が鳴る。ガヤガヤと、明るい話声が至るところからあがり、店内を華やかな雰囲気に彩っていく。
しかし、そのどれもが俺の耳を素通りしていく。
聞こえるのは、バックンバックンと、今世紀最大といっても過言ではない音量で鳴り響き続ける自分の鼓動音だけだ。
(いかん。これ以上待たされると、俺の心臓、破裂するかも)
ここが俺の死に場所か、なんて使い古されたロックの歌詞のようなセリフを心の中で呟きながら、意識を遠いところへ飛ばしかけたその時――、
「……お話はわかりました」
シオリちゃんが口を開いた。
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