年神印の年の瀬珈琲

勝哉道花@みちなり文庫

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EP.1 ハニー・カフェ・コン・レーチェ

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「うわっ」

 近っ! と思わず叫びそうになるのを抑え、結実は1歩うしろへ後ずさった。珈琲をこぼさないように、紙コップを両手で持って守る。

(前言撤回っ。やっぱりこの人、ちょっと変っ)

 愛想がないわけじゃないのだけど、言動が突拍子もなさ過ぎる。
 思い返せば、先刻彼が結実の前に現れた時も、音もなく突然現れた覚えがある。まったく予想できない動きばかりするとしに、さっきとは違う意味で心臓がバクバクと脈打つ。

 しかし、当の本人は結実の反応を気にした様子はない。何事もなかったようにカウンターの中に戻り、「カフェ・コン・レーチェとは」と話を続けている。
 どうにもマイペースな人だなぁ、と結実は脱力した。

「スペイン語で『ミルク入りの珈琲』という意味です。それに蜂蜜をくわえた飲み物が、ハニー・カフェ・コン・レーチェになります」
「ミルク入りの珈琲って……、え、それってまるっきりカフェオレじゃないですか」

 びっくりして、結実は手の中の飲み物を見た。

 つまり結実が今飲んでいるこれは、日本語に訳すなら『ハニーカフェオレ』といったところだ。知らないどころか、知っている珈琲の代表格だ。

「スペインでは珈琲に甘みを出すために、蜂蜜を使う場合がございます。このハニー・カフェ・コン・レーチェは、そんなスペインの珈琲文化から生まれた、スペイン発祥のカフェオレなのです」
「スペイン発祥のカフェオレなんてあるんですね」
「珈琲のアレンジは無限大ですから。卵を使った珈琲なんてものもあるんですよ」
「卵⁉」

 としの説明に、再び結実の口から驚きの声が飛び出す。

「卵黄をいれて混ぜるんです。ほかにもコンデンスミルクなどをいれたりして……。ケーキを作りをイメージしてもらえば、なんとなくで想像がつきやすいかと」
「な、なるほど……?」

 としがボールを持ちながら、かしゃかしゃと泡だて器で中身をかき回すような動作を行う。
 イメージはわいたが、やはり味が想像できない。珈琲に卵なんて、一番別々で食べたい代物じゃないだろうか。よく一緒にしようと思いついたな、と見知らぬ先人の行動に結実はあ然とする。

「とはいえ、アレンジの面でいうのであれば、このカフェ・コン・レーチェは実はカフェオレよりもカフェラテに近しい飲み物だといわれています」
「え。でも、カフェラテとカフェオレって別の飲み物ですよね」

 確か、カフェオレの方がカフェラテよりミルクが多くて甘かったはずだ。
 だから結実も、普段缶コーヒーを飲む時はカフェオレと書かれているものを好む。甘党派の自分には、ラテよりもオレの方がしっくりと来るのだ。

 ……まぁ、別にラテが嫌というわけではないので、ラテしかない時はそちらを飲んでいるのだが。

「そこが面白いところでして」と、としが楽しげに結実の質問に返した。

「実はカフェオレもカフェラテも、日本語に訳すと同じ意味になるんですよ」
「えぇっ?」

 ミルクの量も味も違うのに⁉ としの答えが理解できず、結実は目を白黒とさせた。

「カフェオレはフランス語で、カフェラテはイタリア語で『ミルク入りの珈琲』という意味を持ちます」

 結実の反応を楽しむように、としが説明を続けていく。

「味が違うのは、各国の文化に違いがあるためです。カフェラテ発祥の地であるイタリアでは、珈琲といえば基本的にはエスプレッソのことを指します。そのため、当然カフェラテにもエスプレッソが使われています。
 対し、カフェオレの方はあくまでも濃い珈琲を使用すれはいいので、必ずしもエスプレッソで淹れなくてもよいのです。
 とはいえ、近年のフランスではエスプレッソを使って淹れるケースも多いようなので、そこまで珈琲の抽出方法に拘りはないと思われます」
「それって、もし両方にエスプレッソが使われていたら、もうほとんど同じ物ってことですか?」
「ミルクの量に違いはありますがね。『ミルク入りの珈琲エスプレッソ』という意味だけで捉えるなら、ほとんど同じものかと」

 としがあごをさすりながら言う。
 なんてこった。違うものだと思って飲んでいただけに、ちょっとした衝撃だ。初めて知る情報に、結実の中の驚きが止まらない。
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