おやじ猫を拾う

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結婚とカムアウト

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8月1日
怒涛の7月が終わり、夏本番。
朝から茹だるような暑さで、最近は朝の散歩もお休み中だ。
アメリカから帰国して以来、やることが多すぎてろくに休めていない。
ケンはお店の宣伝でSNSに張り付きっぱなしだし、ついでにアルバイト募集もSNSで発信している。
夏休みとあって、以前から遊びに来ていた高校生たちが日中も手伝ってくれるのでありがたい。  
俺は古着の山と格闘中だが、空前の古着ブームもあってか、バイトの高校生たちも古着に詳しくて助かる。
古着を選別していると、バイトのたっちゃん(T)とみっくん(M)のおしゃべりが止まらない。
T「今週、プール行こうよ!」
M「いいね、Cちゃんも誘おう!」
どうやらCちゃんは女の子のようだ。青春してるな~と微笑ましく聞きながら作業を進める。  
そこへケンがやって来て、「お前ら、喋りすぎ!」「真剣にやれよ!」と檄を飛ばす。
俺も「珍しいな、ケンがそんな気分か」なんて思っていると、バイトたちがこそこそ話してる。
T「最近、ケンさん怖いよ…」
M「だろ?」
ケンは俺にも、「ヒロさん、このままだとオープン間に合わないですよ!」「しっかりしてください!」と上から目線。
まぁ、確かに俺ものんびりモードで仕事してたし、素直に「りょーかい!」と返しておいた。  
それでも、バイトたちのおしゃべりは楽しくて、高校生ぐらいの年頃だと興味が尽きないのもわかる。
T「ヒロさんとケンさん、めっちゃ仲良いですよね。恋人ですか?」
ついにその質問が来たか!と思った俺は、「ケンと俺はアメリカで結婚したんだよ」と答える。
T「おっと、今どきですね!」
Mも「そうだよな、今どきだ!」とノリで返す。  
そこからTが「Mってどっちかというと…」と言い出した。さすがに注意しようかと思った瞬間、
M「やっぱ、わかる? 俺も自分でもよくわかんないんだよね」と続ける。
ほうほう、こりゃ面白い!と俺の耳はダンボ状態。色恋話はやっぱり楽しいな。
俺だって恋愛のひとつやふたつ…いや、もっとあるさ。
今まで歳の差なんて気にしたことなかったけど、ケンと俺の20歳の差はどうやっても埋まらない。
この先のことを考えると、ちょっとしんみりするけど、一緒の時間を楽しく過ごすしかないよな。  
そういえば、俺も昔、間違えて女の人と付き合ったこともあったっけ。
別れて傷ついて、また新しい出会いがあって…。でも、真剣に恋愛について考えたことってあんまりなかったな。
この子たちも、これから何度も恋して、失恋して、大人になっていくんだろうな。
「男も女も同じ人間だから、人は人に恋して、愛を育んで大人になるんだよ」
「みっちゃん、誰を好きになってもいい。思うままに恋愛して、気楽に行こうぜ!」
そう言って、落ちてたボールペンをポイッと投げて笑った。  
「入口に咲く向日葵を見てみろ。向日葵ってのは太陽ばかり見て育つんだよ。太陽さんが大好きなんだ。」
「まっすぐ太陽を見ながら育つんだ。みっくんも、たっちゃんも、そんな男になれよ!」
M「ヒロさんが言うと、なんか哲学ですね!」
俺「俺は向日葵だから、ケンのことだけ見てんだよ」と、ちょっと惚気てみた。
T「ここに響きました!」と胸を叩いてポーズ。  
そこへケンが飲み物を持ってやって来て、俺の隣に座る。
ケン「ありがとね、俺の向日葵さん」と肩を叩いてきた。
「明日、バイトの面接3人来るからよろしくね」「そろそろ切り上げますか。今日は金曜日だし。」
ケン「たっちゃん、バンドのメンバーどんな感じ?」
T「サックスできる子、見つけました!」
ケン「ヒロさん、プレオープンの日の楽曲はどう?」
俺「オーソドックスで行くよ。たっちゃん、音合わせ2回でいいよな?」
T「銀河鉄道、やりたい! みっちゃんも歌の練習してるし!」
俺「楽曲の構成考えないとな。軽く練習するか?」  
みんな「やろやろ!」と盛り上がって、「サックスできる子も呼んでみる!」ってことに。
俺「誰かドラムいないかな? ドラムいたらまた変わるよな。」
T「なんかマジなバンドっすね! 『宇宙戦艦ヤマト』もやろう!」
俺「ケン、譜面ダウンロードしといてよ。」
ケン「今やってるよ。」  
演奏を始めると、外がざわつき始めた。
今回は外壁を防音にしてあるから、入口のドアを閉めれば外には聞こえない。安心だ。
数回音合わせして『銀河鉄道』を演奏してみたら、思った以上にみっちゃんのボーカルがハマって、めっちゃいい感じだった!
外用のスピーカーの小さいのが付いていて、少しだけ外に聞こえる。
銀河鉄道は、受けが良いノリもあるし。  
外から見ているサラリーマンには知った顔もあったので手招きをした。
サラリーマンについて来た初めてのOLさんとかもいた。
それどころか、学生とか20人ぐらいがテーブルに座っていた。
ケンがキッチンカー風のバーの電気を入れ、照明をつけると旧車が輝いて見えた。
バンドにも控えめな照明が照らされた。
ケンがマイクを取り、「飲み物はセルフなのであちらでどうぞ」とアナウンス。  
Tからギターを借りて「加山雄三のお嫁においで」を弾き語り始めた。
年齢層的にウケないだろうと思っていたら、ご近所のマダムがノリノリになっていた。
いつもの席は通りが見える特等席で、相変わらずビール箱スタイルで確保されていた。
なんだかのど自慢大会のようになり、リクエストメモをケンに渡し始める。
バーカウンターを開放していたので、すごいことになっていた。  
俺はステージを降りてビール箱の上に座り、ヨシオさんとトシちゃんを待っていたが来なかった。
ケンが「渡月橋」を弾き始めると、ほろ酔いのOLさんがステージに上がって歌い始めた。
とても楽しい。ケンがピアノを弾いてる姿に、改めて惚れ直す。
ドラムできる人が欲しいな。ケンがステージから降りてきた。  
俺「何か飲む?」と尋ねる。
ケン「ハイボールにしよかな」「ヨシオさんたちは? さっき顔出したんだよね。」
バーに入り、ハイボールというかウイスキーと炭酸水を持ってきた。
最近よく2人で飲んでるのがニッカのNってウイスキーなんだよね。これが美味しいんだ。
ケン「ヨシオさんたち、顔出したんだ。みっちゃんと話してたよ。」  
俺が座っていると、たまたま立ち寄ったサラリーマンやらが名刺を差し出してきたけど、
俺、名刺ないんだよね。「8月8日にまたおいでよ」と伝えた。
サラリーマンの1人が「いい車ですね」
「自分、車大好きで、今はワーゲンバスに乗ってるんですよ。」
俺「故障が多そうな車だね。この時期はオーバーヒート対策が大変だね」と、車好き同士の会話をしてた。  
「あのドラムは? 使っても良いんですか?」
俺「もちろんだよ」「ぜひ使ってくださいよ。」
サラリーマン氏「銀河鉄道をもう一度やりませんか?」
俺はたっちゃん、みっちゃんを呼んで、譜面を直して担当を決めた。
たっちゃん、みっちゃんもドラムが入ることに緊張してる感じで、ビール箱を囲んで一回練習。
よし、5人でステージに上がり、ボーカルのみっちゃんの掛け声で演奏が始まった。  
ピアノのパートで俺とケンは連弾で息の合った演奏を披露した。
連弾は楽しい。呼吸を合わせて、目で合図して、ピッタリハマると酔いしれる。
演奏も終わり、最後にみっちゃんが「8月8日オープンなんで、皆さんのお越しをお待ちしています!」と、高校生とは思えない声で挨拶していた。
拍手喝采で無事終了。サラリーマン氏に俺は「バンドに入ってくれない?」とお願いすると、
サラリーマン氏「田宮と言います、よろしくお願いします」と参加してくれるようで嬉しかった。
「ただ、練習とか時間が合わないかもです。」
俺「全然構わないよ、趣味のバンドだから気軽にね。」  
それぞれ自己紹介を終えると、田宮さんは俺より少し年上で、誰でも知っている公務員のお偉いさんだった。
勤務地はすぐそこだ。飲みに集まった人たちも徐々に少なくなり、
我慢していたタバコに火をつけた。田宮さんも「自分も良いですか」と一本取り出して火をつけた。  
やっとトシちゃん夫婦とヨシオさん、寿司屋のシゲさんが珍しくやって来た。
しかも花束と何か抱えて持ってきた。
畏まってトシちゃんが「ヒロ、この度はおめでとう。2人がアメリカで結婚したと聞いて、安心したよ。」
「ケン君、大変だと思うけど、ヒロのことをよろしくお願いいたします。」
結婚の話かよ!
俺は「ありがとうね」と軽く流した。田宮さんはビックリした様子が分かる。  
俺「田宮さん、そんな感じなんですけど大丈夫ですか?」と尋ねた。
田宮「偏見はないんで大丈夫ですよ」「むしろ色々とお聞きしたいことがあります。」
「自衛隊ではタブーとされている話題で、しかし理解促進を進めないと」と話を続ける。
たっちゃんが俺の話したことを引用して田宮さんに話している。「人を愛することに男も女もないんですよ。」
「そんなことが自衛隊でも広がるといいですね。」
田宮さんが「若いのにいいこと言いますね」と頷いてた。
みっちゃんがすかさず「ヒロさんの名言ね」とたっちゃんの頭を叩いた。  
この近所の人たちは、見慣れた光景で、すでに寛容力や耐性が付いてるから良いけど、
俺「で、この話は誰から聞いた?」と尋ねた。「まぁ、誰からでもいいや。」
「でもな、中には知られたくない人もいるし、軽々しく言うことじゃないからな。」
「でも、こうしてお祝いしてくれるなんて、嬉しいよ。どうもありがとう。」
みっちゃんが「ごめんなさい、自分が言いました。なんか嬉しくて」と。
俺「みっちゃん、一つ人生の勉強ができたじゃないか。」  
ヨシオさんが「二人の門出を祝って、カンパーイ!」とビールを飲み干した。
そして何事もなかったかのように平常に戻っていった。  
夜も更け、ケンと二人きりになった。
ケン「ヒロさん、歳の差を気にしてると思うけど、一緒に年を取ろうよ。」
「僕はさ、ヒロさんが心配で。誰とでも仲良くなれて、お金も持っていて、めっちゃモテるじゃん。」
「なんでも先回りして、僕のこと考えてくれてるの、めっちゃ嬉しくて。だから浮気とかしないで欲しい。」と呟いた。
俺は「ケン、俺も同じ気持ちだよ。ケンは若くてどこに行ってもモテる。」
「こんな俺だけど、ケンのことを幸せにしたいと心から思ってるよ。」と肩を抱いて、
満月のお月様を見た。涙がポロリと溢れた。結婚して良かった

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