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3章 寂しがり屋の空気たち
僕は空「気」になりました
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もうすぐ空気になって5年が経ちます。この世界にも慣れた今日この頃、私は「気」を操り、風を読み、行きたい場所へ自由に漂えるようになりました。 しかし、日本に帰ることには抵抗があります。夏が訪れるたび、故郷への想いが胸を締めつけます。それでも、私はずっと帰っていません。やはり、私を殺したあなたを思い出してしまうからです。 8月の日本は、さまざまな空気たちが還ってくる季節です。お盆の季節だからです。「一緒に帰ろうよ、早く行こうよ」と誘われますが、私にはまだその勇気がありません。 日本に帰れば、あなたを殺してしまう殺気に支配されてしまう気がするのです。 だから、私は日本の周りをゆらゆらと彷徨っています。 「なんで日本に帰らないんだい?」と風たちによく聞かれます。 私の空気としての生い立ち——あの夏、あなたに殺され、深い黒い海に沈んだ過去——を説明しますが、みな同情的なわけではありません。 「ちっ、なんて心の狭い奴だ」と苛立ちをぶつける風もいます。 なぜ殺されたのか、自問しても思いつきません。 私とあなたが出会ったのは、高校二年生の春でした。あなたは斜め前の窓側の席で、やけに良い香りを出していました。私はあなたを斜め後ろ45度から見るのがとても好きでした。ツンとした鼻、綺麗な顎のラインがとても綺麗で、風に揺れる髪の毛がとても綺麗で、黒板を見ているより長かったのです。 あなたの体はガラスを溶かす時の様に、炎の様に輝き、艶く艶を放ち、触ると火傷しそうな危険な輝きを持っていました。 かつて、あなたの体は柳が揺れるようにしなやかで弱々しく、触れると揺れ、触れた者を優しく撫でるようでした。人と言うより芸術品の様に美しく、あなたの全てが好きでした。 そんな昔の思い出を、私は空木のようにゆらゆらと彷徨っています。私と同じ様に寂しげな空気達も、ゆらゆらと彷徨っています。 私はその空気に、なぜ地上に降りないのかと尋ねました。すると、誰からも求められていない、気が無いのだと答えました。 私は「気?」と尋ねました。同じ空気同士だから教えるよ、空気は風に乗って運ばれて行くだけではないんだよ、と。 空気を求めている人の場所に吸い寄せられて行く場合もあるんだ、人だった時に陰が薄かったからね。誰も気にしてくれていないんだよ、そんな地上に行くのも気が引けるね。私は妙に納得しました。
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