僕は空「気」になりました

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4章 気まぐれな風に乗って

僕は空「気」になりました

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気がつけば、僕が死に、空気になって10年。世界中を漂泊してきた。

あらゆる地で、熱気と狂気、人の叫びと絶叫が交錯する。

そんな人々にも空気は欠かせない。新鮮な空気を求めることは、自由を求めることと同義だ。空気は自由そのもの——だが、自由を求め、時に憎悪に駆られて銃を手にし、我先にと清浄な息吹を奪い合う。それが容易に手に入らぬことを知らない。知ろうともしない。

そして、気まぐれな風に乗せられ、地震の爪痕が刻まれた壮絶な場所にたどり着いた。

親を亡くして泣きじゃくる子、子を亡くして慟哭する母。埃が舞い、炎が揺らめき、地獄が広がる。

ふと、風の囁きが耳に届く。空気たちが上空からヒソヒソと囁き、まるで自業自得だと嘲笑っているようだ。僕を呼ぶ気配を感じた。

そこは病院の中だった。傷ついた老人と少女がベッドに横たわり、懸命に治療する医師たちの常軌を逸した怒声が響き渡る。どの気配が僕を呼んだのか、様子を伺うと、それは一人の医師からだった。真っ赤に染まった手、その指先には鋭く光るメスが握られている。額から汗が滴り、瞳から涙が溢れていた。

その瞬間、僕の霊気が凍りついた。この医師は、10年前の君——太陽だった。春の教室で炎のように輝き、柳のようにしなやかだった君。17歳の夏、僕を黒い海に沈めた君。27歳の今、血と涙にまみれ、遠く日本から離れた地で命を繋ぐためにメスを振るう君。

様子から、すでに何人もの命と向き合ってきたのだろう。希望と絶望を繰り返し、声にならぬ呻きを念仏のように唱えていた。

この医師は僕に何を期待しているのか、何を思っているのかを知るには、まだ観察が必要だ。僕は霊気のように君の周りをぐるぐると彷徊する。

次々と運ばれてくる患者たち。君は持てる全ての力を注いで治療に当たる。

ふと、声にならない念仏が微かに聞こえた。「空、空、空、戻ってこい、戻ってこい」と。えっ? 君なの、太陽なの?

僕は動揺した。10年前の君、太陽がそこにいた。ここは日本から遠く離れた地。君は医師として働いていたのだ。

殺したはずの僕の名をなぜ…。この場をすぐにでも逃げ出したかった。しかし、風は吹かなかった。何年もの間、君を見つけたら殺気となって復讐すると誓っていた。だが、恐怖と、僕を殺した相手と対峙する勇気の欠如に縛られ、僕は気配を消した。

夜中、君は病院の廊下で呆然と月を見つめていた。無力感と喪失感が君の肩を揺らし、月の光に浮かぶ。小さく漏れる嗚咽が響く。「また救えなかったよ、空、許してくれ…」と。

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