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第2章「未来はなにも分からない」
第22話「迷宮試験」
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王立学園には試験がある。それは入学時や卒業時、各学期毎にも行われるのだが――その中でも特別な試験が存在する。
二年次以降に行われる迷宮試験だ。学園内にある迷宮に挑み、一定以上の報酬を達成すること。この試験で、今後の選べる授業が変わってくる。
一度試験結果が決まれば覆すことは困難であり、基本的に一年間はそのままだ。まれにボーダーラインにいた生徒が、他の試験で一つ上にいけることがあるが、そんなのはほとんどない。
冒険者のランク制度みたいなものだ。特定に授業を受けるのには、一定の基準を課される。それを見極めるための試験。認められれば、様々なことを学び得ることができる。
自分の存在価値を知らしめる、もしくは、実家の職業柄学んでおきたいことがある人間にとっては、死に物狂いで好成績を残したい、らしい。
一年に一度、一年次以外が全員参加とあって、かなり大掛かりだ。試験期間も長い。学年ごと、グループごとに分かれて行われる。基本的に成績順に三人組のパーティーを組まされるのだが――
「なんだか、変わり映えしないメンバーよね」
「嫌なのか、ミラ」
ミラのメンバーはジャン王子とジェイだった。姉のニアは上級生なので、そもそも組めない。向こうは向こうで誰かと組んでいるだろうが、彼女のことだから結果的に一人で試験を受けていそうな気もする。それでも三人分には負けないだろう。単に取り巻きを連れていると邪魔になるか、一緒に参加できるかで揉めそうというのもある。いずれにしろ、人気者は大変そうだ。
学園の校舎がある裏手側。街中にも関わらず、魔法のせいで一度入ったら無限にも感じる森林が広がっている。
鬱蒼とした暗がりの森の中に学園の迷宮は存在する。大部分は地下らしく、迷宮があるのが分かるのは目の前の洞穴のような出入り口だけ。まるで巨大な竜が大口を開けて、獲物を待っているかのような錯覚を覚える。
普段なら人なんて寄り付かない、というか立ち入りを禁止されている場所なので、森林浴効果のありそうな場所だった。だが、今は大勢の試験者で迷宮前は埋まっている。
今日受ける試験者達だ。大勢といっても精々二十人程度。全部で六組程度か。あとは試験管役の教師が二人。
試験管の説明が終わり、今は開始時間まで待っている状態だった。あと、五分程度。
試験は決まった時刻を持ってみな一斉に始まる。あとは試験時間内に帰ってくるだけ。その時に持ち帰っている報酬の質と量で決まる。
「嫌なわけじゃないけど……、目立つのよ。あなた達、二人」
「ミラに言われたくないんだが……。もう少し自分を客観視した方がいいぞ」
「どういう意味よ。ジェイ」
「いいこと言うな、ジェイ。もっと自覚させてやれ。ミラは危なっかしすぎる」
「……それこそ、ジャンに言われたくない」
「なに言ってるんだ。俺は危ないことなどしてないだろう」
「ジャン、新入生にこないだ何かしてたでしょう?」
「……なんの話だ? 俺は知らないぞ」
ジャン王子はとぼけた顔をしてくる。じゃあと思い、ミラがジェイの方を見れば、彼は目を逸らす。
姉のニアには色々と情報が集まる。家ではふにゃふにゃで構ってちゃんだが、この学園では生徒代表になるほど優秀で、おまけに女子から告白されまくっている。彼女自身が何かしなくとも、周りの女子に一言えば十は帰ってくるだろう。
そんなんだから、サディアのいじめ紛いのことは話せないのだけど。影響力がありすぎる。まあ、すでに知ってはいるだろうけど、ミラが話さないので大人しくしてくれているのだろう。多分。
そんな姉から聞いたのだ。ジャン王子達が新入生達に――正確に言えば、ミラとニアとお近付きになろうと画策していた連中――お灸を据えたのだ、と。ニアは詳細を知っているらしいが、連中は良くないことをしようとしていたようで、それを止めたのだとか。
ニアは実に楽しそうに語っていた。詳細はせがんでも教えてくれなかったのだが。まだ、お子様には早いと言って。もう、十二歳だというのに。確かにニアからはそう見えるのかもしれないけど。
別になにがあったか知るくらいいいと思うんだけどなー。
三人共過保護すぎる。自分の周囲の状況は彼ら三人含めてよく知っておきたいのに。
もっとも、結局のところは目下の一番の問題――サディアをどうにも出来ていないのだが。こないだは、失敗してしまった。まさか、名前を出しただけで、あの場を出て行かれるとは思わなかった。
チラッと試験者達の様子を窺うと、サディアもいた。従者である、ニール、ニコラと真剣な様子で話している。
あの二人と組めたんだ。
――パンッ!
突然、森の中に手の叩く音が響いた。試験者が一斉に音の鳴った方へ顔を向ける。
試験官の二人の内の一人、初老でオールバックが特徴的な、白髪の男性。彼が両手を打ち鳴らした状態で止まっていた。
男性教師が手を下ろす。すると、隣にいた黒髪の長い女性教師が口を開く。髪で顔は見えない。
「受験者の皆さん、間もなく試験時間になります」
容姿からは想像できない、透き通った女性の声があたりに響く。
「ダン先生が手をもう一度鳴らしますので、それが試験開始の合図になります」
白髪の男性教師――ダン先生は、こくっと頷く。周囲からは野鳥のような鳴き声が聞こえてきた。今になって、森の深い緑の匂いが鼻に強く感じる。
「なお、先ほどの事前説明でも申し上げましたが、違反行為を行った者は、再試験、場合によっては失格になりますので注意してください」
女性教師の声が止む。彼女は手元に懐中時計を取り出し、時刻を確かめているようだった。
あの髪で見えるのかな。それとも見るものではないとか?
ミラが不思議に思っていると、ダン先生が両手を掲げる。開始時間が近い。
「はじめ」
女性教師の声が聞こえた瞬間、パンっとダン先生が両手を鳴らした。試験者の生徒達が一斉に走り出す。それは、ミラ達も例外ではない。
ここからは時間との勝負。
「行くぞ、ミラ、ジェイ」
「うんっ」
「ああ」
ミラ、ジャン王子、ジェイは迷宮への入口である洞穴へ走る。
王立学園二年次、『迷宮試験』が始まった。
二年次以降に行われる迷宮試験だ。学園内にある迷宮に挑み、一定以上の報酬を達成すること。この試験で、今後の選べる授業が変わってくる。
一度試験結果が決まれば覆すことは困難であり、基本的に一年間はそのままだ。まれにボーダーラインにいた生徒が、他の試験で一つ上にいけることがあるが、そんなのはほとんどない。
冒険者のランク制度みたいなものだ。特定に授業を受けるのには、一定の基準を課される。それを見極めるための試験。認められれば、様々なことを学び得ることができる。
自分の存在価値を知らしめる、もしくは、実家の職業柄学んでおきたいことがある人間にとっては、死に物狂いで好成績を残したい、らしい。
一年に一度、一年次以外が全員参加とあって、かなり大掛かりだ。試験期間も長い。学年ごと、グループごとに分かれて行われる。基本的に成績順に三人組のパーティーを組まされるのだが――
「なんだか、変わり映えしないメンバーよね」
「嫌なのか、ミラ」
ミラのメンバーはジャン王子とジェイだった。姉のニアは上級生なので、そもそも組めない。向こうは向こうで誰かと組んでいるだろうが、彼女のことだから結果的に一人で試験を受けていそうな気もする。それでも三人分には負けないだろう。単に取り巻きを連れていると邪魔になるか、一緒に参加できるかで揉めそうというのもある。いずれにしろ、人気者は大変そうだ。
学園の校舎がある裏手側。街中にも関わらず、魔法のせいで一度入ったら無限にも感じる森林が広がっている。
鬱蒼とした暗がりの森の中に学園の迷宮は存在する。大部分は地下らしく、迷宮があるのが分かるのは目の前の洞穴のような出入り口だけ。まるで巨大な竜が大口を開けて、獲物を待っているかのような錯覚を覚える。
普段なら人なんて寄り付かない、というか立ち入りを禁止されている場所なので、森林浴効果のありそうな場所だった。だが、今は大勢の試験者で迷宮前は埋まっている。
今日受ける試験者達だ。大勢といっても精々二十人程度。全部で六組程度か。あとは試験管役の教師が二人。
試験管の説明が終わり、今は開始時間まで待っている状態だった。あと、五分程度。
試験は決まった時刻を持ってみな一斉に始まる。あとは試験時間内に帰ってくるだけ。その時に持ち帰っている報酬の質と量で決まる。
「嫌なわけじゃないけど……、目立つのよ。あなた達、二人」
「ミラに言われたくないんだが……。もう少し自分を客観視した方がいいぞ」
「どういう意味よ。ジェイ」
「いいこと言うな、ジェイ。もっと自覚させてやれ。ミラは危なっかしすぎる」
「……それこそ、ジャンに言われたくない」
「なに言ってるんだ。俺は危ないことなどしてないだろう」
「ジャン、新入生にこないだ何かしてたでしょう?」
「……なんの話だ? 俺は知らないぞ」
ジャン王子はとぼけた顔をしてくる。じゃあと思い、ミラがジェイの方を見れば、彼は目を逸らす。
姉のニアには色々と情報が集まる。家ではふにゃふにゃで構ってちゃんだが、この学園では生徒代表になるほど優秀で、おまけに女子から告白されまくっている。彼女自身が何かしなくとも、周りの女子に一言えば十は帰ってくるだろう。
そんなんだから、サディアのいじめ紛いのことは話せないのだけど。影響力がありすぎる。まあ、すでに知ってはいるだろうけど、ミラが話さないので大人しくしてくれているのだろう。多分。
そんな姉から聞いたのだ。ジャン王子達が新入生達に――正確に言えば、ミラとニアとお近付きになろうと画策していた連中――お灸を据えたのだ、と。ニアは詳細を知っているらしいが、連中は良くないことをしようとしていたようで、それを止めたのだとか。
ニアは実に楽しそうに語っていた。詳細はせがんでも教えてくれなかったのだが。まだ、お子様には早いと言って。もう、十二歳だというのに。確かにニアからはそう見えるのかもしれないけど。
別になにがあったか知るくらいいいと思うんだけどなー。
三人共過保護すぎる。自分の周囲の状況は彼ら三人含めてよく知っておきたいのに。
もっとも、結局のところは目下の一番の問題――サディアをどうにも出来ていないのだが。こないだは、失敗してしまった。まさか、名前を出しただけで、あの場を出て行かれるとは思わなかった。
チラッと試験者達の様子を窺うと、サディアもいた。従者である、ニール、ニコラと真剣な様子で話している。
あの二人と組めたんだ。
――パンッ!
突然、森の中に手の叩く音が響いた。試験者が一斉に音の鳴った方へ顔を向ける。
試験官の二人の内の一人、初老でオールバックが特徴的な、白髪の男性。彼が両手を打ち鳴らした状態で止まっていた。
男性教師が手を下ろす。すると、隣にいた黒髪の長い女性教師が口を開く。髪で顔は見えない。
「受験者の皆さん、間もなく試験時間になります」
容姿からは想像できない、透き通った女性の声があたりに響く。
「ダン先生が手をもう一度鳴らしますので、それが試験開始の合図になります」
白髪の男性教師――ダン先生は、こくっと頷く。周囲からは野鳥のような鳴き声が聞こえてきた。今になって、森の深い緑の匂いが鼻に強く感じる。
「なお、先ほどの事前説明でも申し上げましたが、違反行為を行った者は、再試験、場合によっては失格になりますので注意してください」
女性教師の声が止む。彼女は手元に懐中時計を取り出し、時刻を確かめているようだった。
あの髪で見えるのかな。それとも見るものではないとか?
ミラが不思議に思っていると、ダン先生が両手を掲げる。開始時間が近い。
「はじめ」
女性教師の声が聞こえた瞬間、パンっとダン先生が両手を鳴らした。試験者の生徒達が一斉に走り出す。それは、ミラ達も例外ではない。
ここからは時間との勝負。
「行くぞ、ミラ、ジェイ」
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「ああ」
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