23 / 52
第2章「未来はなにも分からない」
第23話「一階層」
しおりを挟む
迷宮内は、洞窟というよりも鍾乳洞に近かった。全体的に薄暗く、じめっとしている。ただ、空間自体はかなり広い。横幅は十数人が横並びできる広さなので、そこを何人もの試験者の生徒達が走っていく。
全員無言で、走る足音と息遣いだけが聞こえてくる。
迷宮に入るのは、この試験者全員が初めてだ。ここに慣れているやつは一人もいない。なにしろ、普段は封鎖されて誰も入れないのだから。授業でも使用されることはない。
さすがに上級生の授業では分からないが、少なくともニアからそんな話を聞いてはいない。迷宮を使用すれば、喜んで話してきそうなので、本当に無いのだろう。
まあ、迷宮自体は学園だけにあるわけではないから、他で潜るのに慣れている者はいるかもしれない。
ただ、その構造や性質はみな授業で学んでいる。だから受験者の目的は全員一緒だった。それが、やたらと先に急いでる理由でもある。
迷宮は基本的に地下に潜っていく構造だ。
地下一階層、二階層、三階層、どんどん深くなって、最下層が存在する。ただし、学園の迷宮がどこまで存在するかは知らされていない。
確かなのは主がいることだ。守護神とも呼べる、階層主。侵入者を次の階層に行くのを妨害する、モンスター。一体であることもあれば、複数体の場合もある。
ここで重要なのは、その階層主から得られる報酬はかなり高額になり、質がいいということだった。雑魚を百匹狩るよりもかなりいい。
そして、主を倒してしまうと、しばらくは出てこない。時間は決まっていることが多いが――今、この試験の瞬間に確かめている時間はない。
試験終了までに湧いてこない、なんて可能性もある。
すなわち、先着必勝。早く階層主に辿り着き、倒し、報酬を得る。それが一番確実に好成績を残せる。深く潜り過ぎれば戻ってくる時間がない以上、浅い階層の主を積極的に狩るのが望ましい。
マップが誰も分からない以上、ひたすら早く走って、手当たり次第に奥に進んでいくしかない。
ゆえに、手分けして進んでいく組がほとんどだ。通信系の魔法は別に禁止されていないので、その方が効率はいい。
ただ、ミラ達のパーティーは違った。三人一組で固まって動いている。大型のモンスターが来た時に一人で対処できるかは怪しい、ということにされた。というか、ジャン王子とジェイが絶対に一人になることを許してくれなかった。
嬉しいような、弱く見られて複雑なような。
別に竜巫女の力があるんだから、どうとでもなるんだけどなー。二人も知っているはずなのに。しかし、彼らは頑として譲らなかった。特にジャン王子が。
「次、どっちっ?」
「右っ」
今までは一本道だったのが、左右に分かれている。今の所はモンスターの襲撃もない。
指示役のジャン王子に従い、右に進む。
基本的には、ジャン王子の指示通りに進むことになっている。ジェイはモンスターの警戒を、ミラは――人間の警戒をすることになっている。
なにもないといいんだけどなー。
少しだけ後ろを振り返れば、自分達と同じように走っている、受験生達。中には、サディア、ニール、ニコラの三人も含まれている。こちらに気付いているのかいないのか、険しい目つきで前方を睨んでいた。
ミラは視線を前に戻した。
バタバタと足音が響く中、受験生は左右に分かれ奥に進んでいく。そうやって何度も分かれ道を進んでいく。当然、モンスターにも遭遇するが雑魚ばかりなので問題はなかった。通り一閃、前を行くものが取りこぼしたものを、バタバタとなぎ倒す。面倒な相手は避けて、先に進むことを優先する。生徒達が通った後にはモンスターの残骸が出来上がっているだろう。
先を進んでいく中、同じ道を選ぶものはいなくなり、三人だけになった。後方から足音はするため、誰かは一緒らしい。
だが、いつまでも進めるわけではなかった。
「くそっ、行き止まりだっ」
「戻ろう」
「ああ」
調子よかったんだけどな。何回か分かれている道を選択して、行き止まりには一回も当たらなかったが、ついに引いてしまった。
天井は高く、暗くて見えない。奥の方はかろうじて見えた。
温泉が湧いているのか、ミラ達の目の前には湯気の立っている透明度の高いお湯が溜まっていた。底の方が何かで光っているのか淡く空間を照らしている。
狭い空間ではないが、見回しても先の道はない。鍾乳洞の柱からポタポタと温泉に水を垂らしている。中には柱になっているものもあった。
全体的に蒼く、魅入られる光景だった。ここまで走ってきて汗ばんだ身体を流したい衝動に駆られる。
普段ならゆっくり湯に浸かって観光でもしたいが、今はそれどころではない。
ジャン王子の言う通り、一旦引き返して、別の道に行かなければ。
後ろを振り返ると、周りに他の組はいなかった。分かれ道は暗くなっていて見えない。鍾乳洞の白い床と壁が寒々しかった。
さっきまでは、足音がしていたような気がするが、いつの間にか別れたのだろう。ミラ達だけがここを選んでいた。早くしないと先を越されてしまう。
元来た道を引き返そうと、三人が走り出した時だった。てっきり、暗いから見えないものだと思っていた一本道の先――何かで埋まっていた。
近付いて行くほどによく見える。ミラは思わず止まった。ジャン王子とジェイも足を止める。
白い鍾乳洞に反するような黒い鱗。黄金色の瞳がミラ達を睨む。蛇だ。それも、道の先をほとんど埋めるような大きさ。その周りをサイズダウンした通常の大きさの蛇がうじゃうじゃとひしめき合う。
そのすべてがこちらへ向かっている。
全員無言で、走る足音と息遣いだけが聞こえてくる。
迷宮に入るのは、この試験者全員が初めてだ。ここに慣れているやつは一人もいない。なにしろ、普段は封鎖されて誰も入れないのだから。授業でも使用されることはない。
さすがに上級生の授業では分からないが、少なくともニアからそんな話を聞いてはいない。迷宮を使用すれば、喜んで話してきそうなので、本当に無いのだろう。
まあ、迷宮自体は学園だけにあるわけではないから、他で潜るのに慣れている者はいるかもしれない。
ただ、その構造や性質はみな授業で学んでいる。だから受験者の目的は全員一緒だった。それが、やたらと先に急いでる理由でもある。
迷宮は基本的に地下に潜っていく構造だ。
地下一階層、二階層、三階層、どんどん深くなって、最下層が存在する。ただし、学園の迷宮がどこまで存在するかは知らされていない。
確かなのは主がいることだ。守護神とも呼べる、階層主。侵入者を次の階層に行くのを妨害する、モンスター。一体であることもあれば、複数体の場合もある。
ここで重要なのは、その階層主から得られる報酬はかなり高額になり、質がいいということだった。雑魚を百匹狩るよりもかなりいい。
そして、主を倒してしまうと、しばらくは出てこない。時間は決まっていることが多いが――今、この試験の瞬間に確かめている時間はない。
試験終了までに湧いてこない、なんて可能性もある。
すなわち、先着必勝。早く階層主に辿り着き、倒し、報酬を得る。それが一番確実に好成績を残せる。深く潜り過ぎれば戻ってくる時間がない以上、浅い階層の主を積極的に狩るのが望ましい。
マップが誰も分からない以上、ひたすら早く走って、手当たり次第に奥に進んでいくしかない。
ゆえに、手分けして進んでいく組がほとんどだ。通信系の魔法は別に禁止されていないので、その方が効率はいい。
ただ、ミラ達のパーティーは違った。三人一組で固まって動いている。大型のモンスターが来た時に一人で対処できるかは怪しい、ということにされた。というか、ジャン王子とジェイが絶対に一人になることを許してくれなかった。
嬉しいような、弱く見られて複雑なような。
別に竜巫女の力があるんだから、どうとでもなるんだけどなー。二人も知っているはずなのに。しかし、彼らは頑として譲らなかった。特にジャン王子が。
「次、どっちっ?」
「右っ」
今までは一本道だったのが、左右に分かれている。今の所はモンスターの襲撃もない。
指示役のジャン王子に従い、右に進む。
基本的には、ジャン王子の指示通りに進むことになっている。ジェイはモンスターの警戒を、ミラは――人間の警戒をすることになっている。
なにもないといいんだけどなー。
少しだけ後ろを振り返れば、自分達と同じように走っている、受験生達。中には、サディア、ニール、ニコラの三人も含まれている。こちらに気付いているのかいないのか、険しい目つきで前方を睨んでいた。
ミラは視線を前に戻した。
バタバタと足音が響く中、受験生は左右に分かれ奥に進んでいく。そうやって何度も分かれ道を進んでいく。当然、モンスターにも遭遇するが雑魚ばかりなので問題はなかった。通り一閃、前を行くものが取りこぼしたものを、バタバタとなぎ倒す。面倒な相手は避けて、先に進むことを優先する。生徒達が通った後にはモンスターの残骸が出来上がっているだろう。
先を進んでいく中、同じ道を選ぶものはいなくなり、三人だけになった。後方から足音はするため、誰かは一緒らしい。
だが、いつまでも進めるわけではなかった。
「くそっ、行き止まりだっ」
「戻ろう」
「ああ」
調子よかったんだけどな。何回か分かれている道を選択して、行き止まりには一回も当たらなかったが、ついに引いてしまった。
天井は高く、暗くて見えない。奥の方はかろうじて見えた。
温泉が湧いているのか、ミラ達の目の前には湯気の立っている透明度の高いお湯が溜まっていた。底の方が何かで光っているのか淡く空間を照らしている。
狭い空間ではないが、見回しても先の道はない。鍾乳洞の柱からポタポタと温泉に水を垂らしている。中には柱になっているものもあった。
全体的に蒼く、魅入られる光景だった。ここまで走ってきて汗ばんだ身体を流したい衝動に駆られる。
普段ならゆっくり湯に浸かって観光でもしたいが、今はそれどころではない。
ジャン王子の言う通り、一旦引き返して、別の道に行かなければ。
後ろを振り返ると、周りに他の組はいなかった。分かれ道は暗くなっていて見えない。鍾乳洞の白い床と壁が寒々しかった。
さっきまでは、足音がしていたような気がするが、いつの間にか別れたのだろう。ミラ達だけがここを選んでいた。早くしないと先を越されてしまう。
元来た道を引き返そうと、三人が走り出した時だった。てっきり、暗いから見えないものだと思っていた一本道の先――何かで埋まっていた。
近付いて行くほどによく見える。ミラは思わず止まった。ジャン王子とジェイも足を止める。
白い鍾乳洞に反するような黒い鱗。黄金色の瞳がミラ達を睨む。蛇だ。それも、道の先をほとんど埋めるような大きさ。その周りをサイズダウンした通常の大きさの蛇がうじゃうじゃとひしめき合う。
そのすべてがこちらへ向かっている。
0
あなたにおすすめの小説
完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。
ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない
魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。
そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。
ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。
イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。
ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。
いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。
離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。
「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」
予想外の溺愛が始まってしまう!
(世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!
逃げたい悪役令嬢と、逃がさない王子
ねむたん
恋愛
セレスティーナ・エヴァンジェリンは今日も王宮の廊下を静かに歩きながら、ちらりと視線を横に流した。白いドレスを揺らし、愛らしく微笑むアリシア・ローゼンベルクの姿を目にするたび、彼女の胸はわずかに弾む。
(その調子よ、アリシア。もっと頑張って! あなたがしっかり王子を誘惑してくれれば、私は自由になれるのだから!)
期待に満ちた瞳で、影からこっそり彼女の奮闘を見守る。今日こそレオナルトがアリシアの魅力に落ちるかもしれない——いや、落ちてほしい。
【完結】元悪役令嬢は、最推しの旦那様と離縁したい
うり北 うりこ@ざまされ2巻発売中
恋愛
「アルフレッド様、離縁してください!!」
この言葉を婚約者の時から、優に100回は超えて伝えてきた。
けれど、今日も受け入れてもらえることはない。
私の夫であるアルフレッド様は、前世から大好きな私の最推しだ。 推しの幸せが私の幸せ。
本当なら私が幸せにしたかった。
けれど、残念ながら悪役令嬢だった私では、アルフレッド様を幸せにできない。
既に乙女ゲームのエンディングを迎えてしまったけれど、現実はその先も続いていて、ヒロインちゃんがまだ結婚をしていない今なら、十二分に割り込むチャンスがあるはずだ。
アルフレッド様がその気にさえなれば、逆転以外あり得ない。
その時のためにも、私と離縁する必要がある。
アルフレッド様の幸せのために、絶対に離縁してみせるんだから!!
推しである夫が大好きすぎる元悪役令嬢のカタリナと、妻を愛しているのにまったく伝わっていないアルフレッドのラブコメです。
全4話+番外編が1話となっております。
※苦手な方は、ブラウザバックを推奨しております。
【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。
樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」
大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。
はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!!
私の必死の努力を返してー!!
乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。
気付けば物語が始まる学園への入学式の日。
私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!!
私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ!
所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。
でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!!
攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢!
必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!!
やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!!
必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。
※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。
※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。
彼女が高級娼婦と呼ばれる理由~元悪役令嬢の戦慄の日々~
プラネットプラント
恋愛
婚約者である王子の恋人をいじめたと婚約破棄され、実家から縁を切られたライラは娼館で暮らすことになる。だが、訪れる人々のせいでライラは怯えていた。
※完結済。
私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~
あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。
「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?
【完結】モブの王太子殿下に愛されてる転生悪役令嬢は、国外追放される運命のはずでした
Rohdea
恋愛
公爵令嬢であるスフィアは、8歳の時に王子兄弟と会った事で前世を思い出した。
同時に、今、生きているこの世界は前世で読んだ小説の世界なのだと気付く。
さらに自分はヒーロー(第二王子)とヒロインが結ばれる為に、
婚約破棄されて国外追放となる運命の悪役令嬢だった……
とりあえず、王家と距離を置きヒーロー(第二王子)との婚約から逃げる事にしたスフィア。
それから数年後、そろそろ逃げるのに限界を迎えつつあったスフィアの前に現れたのは、
婚約者となるはずのヒーロー(第二王子)ではなく……
※ 『記憶喪失になってから、あなたの本当の気持ちを知りました』
に出てくる主人公の友人の話です。
そちらを読んでいなくても問題ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる