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第4章「竜巫女の呪いと祝福」
第51話「お迎え」
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「今更っ、なんですけどっ、私達っ、すごいっ、絵面ですよねっ!」
数分後、ミラとハンナは森にある木を粉砕し、武器の代わりにしていた。長ければやりやすいと二人とも大木を振り回している。
「しょうがないっ、でしょっ、と」
ぶんぶんと少女とは思えない怪力で枝を振り回し、ボウリングのピンよろしく近付いてくる全身鎧を吹っ飛ばしていく。かなり勢いがあるせいか、木に当たった瞬間に粉砕されている。吹っ飛んでいるのは、その残骸だった。
二人がかりでそんなことをしていれば、すぐに問題は解決しそうだが、全身鎧は一向に途切れない。図体がデカいだけの木偶の坊だが、数が多すぎる。これでは、こちらが消耗するのが先だ。
ミラが内心焦っていると、突然地面がぐらぐらと揺れた。立つのが困難なくらいで、全身鎧達もあちこちで倒れている。
だが、眼前の全身鎧は倒れながらもミラに腕を振るった。予測していた動きから逃げようとしていたミラに重なる形でずれる。横なぎに迫る全身鎧の腕。
「しまっ――」
不安定な地面、いくら怪力といえど目の前に迫っているものを避けることが出来ないのは、ミラ自身が一番分かっていた。避けても、他の場所にも全身鎧がいて、そこにぶつかるのは明白だった。
避けられない――
逃げることも叶わず、むしろここで立ち向かう。
迫る腕。重そうな金属。それがミラの細腕にぶつかり――ミラは吹っ飛ばされた。メキメキと骨の折れる音がミラには聞こえた気がした。
同時に、ミラの付けていた竜のブレスレットがパキン、と割れ――ミラの全身を緑色の光の帯が覆った。ごろごろと草原の上を転がる。
「いっ――たくない?」
ミラはバッ、と立ち上がった。全身をくまなく確認するが、どこも怪我をしていなかった。代わりに今までずっと身に付けていたブレスレットがなくなっていた。
「ジャンからもらったものなのに……」
周りの状況も気にせず、半分泣きそうになっていると、ハンナが駆けつけてくる。
「ミラ先輩っ、大丈夫ですかっ!」
ハンナが持っていた木を放り出し、数回跳躍して近くに来る。
明らかに大丈夫じゃない吹っ飛び方をしたはずだが、ミラはピンピンしていた。
「うん、大丈夫」
「はぁ、良かったです……」
地面の揺れは収まっていなかった。どちらかというと振動に近いそれは、長々と続いている。
「ミラ先輩。あれ、見てください」
何かに気付いたようにハンナはミラの腕を掴むと、空を指差した。
青空が欠けていた。あちこちにヒビが入り、ある一点では空ではなく、ただただ真っ黒になっていた。ずっと、ここがどこなのか分からなかったが、嫌な想像が頭をよぎる。
「ハンナ、ここってどこなの? まさか、別の空間?」
「そうです。このままだと、崩壊に巻き込まれます。こいつらは無視して、鏡の方に行きましょう。待ってるどころじゃないです」
「でも、開ける方法は分からないって……」
「そうですっ! でも、行くしかありません。ここで闘っているよりは可能性があります」
「分かったわ」
揺れが一切収まらない中、なるべく長く跳躍し、転ぶのを防いで一度は脱出した建物へ向かう。少しの時間倒さないだけでうじゃうじゃ出てくる全身鎧を踏み台にして、正面扉に近付く。
「ハンナ、踏み抜くよっ!」
「はいっ!」
通常の人間なら不可能かもしれないないが、ハンナなら大丈夫だろう。閉じている正面扉を蹴り倒した。扉は意外と脆かったらしく、想定よりもずっと力を消耗せずに壊れた。盛大な破壊音を立てながら、ハンナとともに、建物内に入った。
数回転がり、すぐさま起き上がる。
ミラが予想していたのは建物内もあの全身鎧で埋まっている光景だったのだが――
「いない?」
「あっ、ミラ先輩っ」
建物内にあった教会はがらんとしていた。全身鎧はどこにもおらず、その残骸だけがあたりに散らばっている。さっきまで全身鎧が湧いていた方向に気を取られ過ぎていてまったく気付かなかった。
鏡のあった方から誰かがミラに抱き付いてきた。受け止めきれず、床に転がる。
「ミラっ」
ニアだった。泣いたのか目が腫れている。端正な顔が台無しだ。
「ニア」
久々に見る姉の姿に胸が苦しくなる。自分で思っていたよりも不安を抱えていたらしい。抱き締め返したい気持ちでいっぱいだが、今はそれどころではない。
「ミラ先輩っ」
隣でハンナが叫ぶ。教会への扉はさっき壊したままなので、当然大穴が空いている。外にいた全身鎧はすべて倒したわけではない。
抱き付いて離れないニアを抱え直し、起き上がると、真後ろで全身鎧が遅いながらも中に入って来ようとしていた。こいつらを、道具もなしに対処するのはさすがに難しい。
「ニア、話は後で。どこからこっちに来たの?」
全身鎧から逃れるため、とりあえず鏡に向かって走る。対処する人間は多い方がいい。よく見れば、ジャン王子やジェイもいた。彼らの周りには全身鎧の残骸がうず高く積もっている。
彼らはミラ達に向かって叫んでいるようだった。鏡に突っ込めと言っている。しかし、さっきハンナと見た時には入ることなど出来ないように見えた。
「ミラ、大丈夫っ、あそこから入ってきたからっ」
ミラにお姫様抱っこされているニアが言う。それにしても、元気そうなら自分で走って欲しい。地味に重くて走り辛い。『竜巫女』の力がなければ、とっくに走れなくなっている。
「ミラっ、こっちだっ!」
ジャン王子が叫ぶ。後方では全身鎧があたりを壊している音が聞こえていた。隣ではハンナも走っていた。
あともう少しで鏡に辿り着くことが出来る。
「ミラっ」
鏡付近に辿り着くとジャン王子に引っ張られる形で、鏡の中に入っていった。
数分後、ミラとハンナは森にある木を粉砕し、武器の代わりにしていた。長ければやりやすいと二人とも大木を振り回している。
「しょうがないっ、でしょっ、と」
ぶんぶんと少女とは思えない怪力で枝を振り回し、ボウリングのピンよろしく近付いてくる全身鎧を吹っ飛ばしていく。かなり勢いがあるせいか、木に当たった瞬間に粉砕されている。吹っ飛んでいるのは、その残骸だった。
二人がかりでそんなことをしていれば、すぐに問題は解決しそうだが、全身鎧は一向に途切れない。図体がデカいだけの木偶の坊だが、数が多すぎる。これでは、こちらが消耗するのが先だ。
ミラが内心焦っていると、突然地面がぐらぐらと揺れた。立つのが困難なくらいで、全身鎧達もあちこちで倒れている。
だが、眼前の全身鎧は倒れながらもミラに腕を振るった。予測していた動きから逃げようとしていたミラに重なる形でずれる。横なぎに迫る全身鎧の腕。
「しまっ――」
不安定な地面、いくら怪力といえど目の前に迫っているものを避けることが出来ないのは、ミラ自身が一番分かっていた。避けても、他の場所にも全身鎧がいて、そこにぶつかるのは明白だった。
避けられない――
逃げることも叶わず、むしろここで立ち向かう。
迫る腕。重そうな金属。それがミラの細腕にぶつかり――ミラは吹っ飛ばされた。メキメキと骨の折れる音がミラには聞こえた気がした。
同時に、ミラの付けていた竜のブレスレットがパキン、と割れ――ミラの全身を緑色の光の帯が覆った。ごろごろと草原の上を転がる。
「いっ――たくない?」
ミラはバッ、と立ち上がった。全身をくまなく確認するが、どこも怪我をしていなかった。代わりに今までずっと身に付けていたブレスレットがなくなっていた。
「ジャンからもらったものなのに……」
周りの状況も気にせず、半分泣きそうになっていると、ハンナが駆けつけてくる。
「ミラ先輩っ、大丈夫ですかっ!」
ハンナが持っていた木を放り出し、数回跳躍して近くに来る。
明らかに大丈夫じゃない吹っ飛び方をしたはずだが、ミラはピンピンしていた。
「うん、大丈夫」
「はぁ、良かったです……」
地面の揺れは収まっていなかった。どちらかというと振動に近いそれは、長々と続いている。
「ミラ先輩。あれ、見てください」
何かに気付いたようにハンナはミラの腕を掴むと、空を指差した。
青空が欠けていた。あちこちにヒビが入り、ある一点では空ではなく、ただただ真っ黒になっていた。ずっと、ここがどこなのか分からなかったが、嫌な想像が頭をよぎる。
「ハンナ、ここってどこなの? まさか、別の空間?」
「そうです。このままだと、崩壊に巻き込まれます。こいつらは無視して、鏡の方に行きましょう。待ってるどころじゃないです」
「でも、開ける方法は分からないって……」
「そうですっ! でも、行くしかありません。ここで闘っているよりは可能性があります」
「分かったわ」
揺れが一切収まらない中、なるべく長く跳躍し、転ぶのを防いで一度は脱出した建物へ向かう。少しの時間倒さないだけでうじゃうじゃ出てくる全身鎧を踏み台にして、正面扉に近付く。
「ハンナ、踏み抜くよっ!」
「はいっ!」
通常の人間なら不可能かもしれないないが、ハンナなら大丈夫だろう。閉じている正面扉を蹴り倒した。扉は意外と脆かったらしく、想定よりもずっと力を消耗せずに壊れた。盛大な破壊音を立てながら、ハンナとともに、建物内に入った。
数回転がり、すぐさま起き上がる。
ミラが予想していたのは建物内もあの全身鎧で埋まっている光景だったのだが――
「いない?」
「あっ、ミラ先輩っ」
建物内にあった教会はがらんとしていた。全身鎧はどこにもおらず、その残骸だけがあたりに散らばっている。さっきまで全身鎧が湧いていた方向に気を取られ過ぎていてまったく気付かなかった。
鏡のあった方から誰かがミラに抱き付いてきた。受け止めきれず、床に転がる。
「ミラっ」
ニアだった。泣いたのか目が腫れている。端正な顔が台無しだ。
「ニア」
久々に見る姉の姿に胸が苦しくなる。自分で思っていたよりも不安を抱えていたらしい。抱き締め返したい気持ちでいっぱいだが、今はそれどころではない。
「ミラ先輩っ」
隣でハンナが叫ぶ。教会への扉はさっき壊したままなので、当然大穴が空いている。外にいた全身鎧はすべて倒したわけではない。
抱き付いて離れないニアを抱え直し、起き上がると、真後ろで全身鎧が遅いながらも中に入って来ようとしていた。こいつらを、道具もなしに対処するのはさすがに難しい。
「ニア、話は後で。どこからこっちに来たの?」
全身鎧から逃れるため、とりあえず鏡に向かって走る。対処する人間は多い方がいい。よく見れば、ジャン王子やジェイもいた。彼らの周りには全身鎧の残骸がうず高く積もっている。
彼らはミラ達に向かって叫んでいるようだった。鏡に突っ込めと言っている。しかし、さっきハンナと見た時には入ることなど出来ないように見えた。
「ミラ、大丈夫っ、あそこから入ってきたからっ」
ミラにお姫様抱っこされているニアが言う。それにしても、元気そうなら自分で走って欲しい。地味に重くて走り辛い。『竜巫女』の力がなければ、とっくに走れなくなっている。
「ミラっ、こっちだっ!」
ジャン王子が叫ぶ。後方では全身鎧があたりを壊している音が聞こえていた。隣ではハンナも走っていた。
あともう少しで鏡に辿り着くことが出来る。
「ミラっ」
鏡付近に辿り着くとジャン王子に引っ張られる形で、鏡の中に入っていった。
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