侯爵令嬢様、自惚れないで

魔茶来

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侯爵令嬢

02.クリステア様②

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『今のこの時だけが心が落ち着くことができる時間。

 そう、この時だけが・・・

 もちろん師範代はみんなと同じように仮面を付けている。

 でも仕事だからだろうか「皇帝真剣」の修練はしてくれる。

 力いっぱい手に持った模擬剣を振る。

 この時間だけが・・・

 あぁ、強くなりたい、強くなりたい・・・

 それは力だけじゃ無くて、強くなりたい』

 -- 
 俺はアムリシア王国の匿名近衛兵士のコボルトである。
 俺は今アリストファ侯爵領に入り込んでいた。

 俺が見た限りこの領地内の人は人として生きることを否定されている。

 俺の使命はその中心にいる領主(セリシア令嬢)の悪事を暴くこと。

 だが、俺と一緒に六人の仲間がこの領地に潜入したはずだが誰一人連絡が取れなくなった。
 少なくとも仲間はセリシア侯爵令嬢の婚約者アロム王子の国の者だ、友好国の人間にも拘わらず連絡が途切れた。

 本当に恐ろしいところだった。
 今迄に調査した内容以上の非道なことがあるのではないだろうか?
 きっと、もっと知られてはいけない何かがあるかもしれない。
 そして実は、さっきユードリック孤児院から逃げて来たバルという子供を確保した。
 この子供が信じられないことを言っている。

 もしそれが本当ならこの領主(セリシア令嬢)は悪魔だとしか言えない存在だった。

 -- 

 隣国であるアーデルランド王国の王子とクリステア様を助けたことになって王城へ呼ばれることになった。

 王城に着くと王との謁見をするために、ボロボロの服は脱がされ湯あみをさせられることになった。

 大きな部屋の立派なお風呂に入れられた。
 湯あみの後新しい服が準備されていたが、山の生活では着たことも無いような高価な服だった。

 その間にクリステア様はアーデルランド王と話をしていたようだった。

「母上、それは本当ですか?あの成人したばかりに見える者が『皇帝真剣』を使ったというのですか?」

「間違いありません。それも信じられないのは免許皆伝のフレイムソードと奥義書にあると聞く技を使ったのです」

「そんな、あの若さで信じられませんな」

「剣を振るうのはカルセ隊長も見ましたし、何よりA級魔獣のフォグリオンを一人で倒したのですよ」

「通常免許皆伝に二十年は掛かるのですよ?その上奥義書の技ですか・・そのような技が使えるまでどのくらい掛かるかのか想像もつきません・・・」

「実はね、・・・実は私は彼は御三家のエリュウス王家の関係者ではないかと考えております」

「えぇっ?でもエリュウス王家は断絶したと聞きますが?」

「エリュウス王家の最後の王は結婚する前に平民の女の方と付き合っていたのです。でもその方は平民であるために貴族の王妃が輿入れされるとわかり身を引いたのです。エリュウス王は迎えに行くと言いながら反乱の渦の中に巻き込まれ命を落とし家は断絶したのです」

「ではその平民の女の人が身ごもっていたと?」

「そうだと私は考えています」

「でも、そうだとしたも誰がその少年に『皇帝真剣』を伝授したのです?」

「エリュウス王家には「指南の精霊が宿る精霊石」が伝えられていたはずなのですが、お家断絶後その石は見つかっていません。その精霊石を「思い人」に王が渡したのではないかと私は考えています」

「『指南の精霊』ですか、なる程短期間で奥義書までもを習得出来たのも納得できますね」

「エリュウス王家の者かどうかは試してみればわかります」

「試す?」

「『皇帝真剣』とは本当は流派や剣技の名前ではありません。本来は『剣の名前』なのです」

「あの伝説の封印された剣の話ですね、まだ本当の姿とやらはみたことありませんが?」

「その通りです。『指南の精霊』に教えられたのであれば『皇帝真剣』の復活方法も知っているでしょうね。もしかすると幻の剣がこの世に蘇る現場に立ち会うことになるでしょう」

「しかし母上、私はあの物体が剣だとはまだ信じられません。本当に『皇帝真剣』なのですか?」

「エリュウス王城の王の間に保管され、飾ってあったのです。間違いはないでしょう」

 二人が話でいると部屋をノックする音がした。

「王様。侍女頭のクリスです、よろしいでしょか?」

「入れ」

「王様、ヒロムさまの準備が出来ました」

「彼の様子はどうだ?」

「驚きました。彼は本当に平民なのでしょうか?、実は貴族の出身ではありませんか?」

「どうしてそう思うのだ?」

「湯あみをしたのですが、例えば初めて湯あみをする平民は侍女が数名お手伝いすることに驚くのです。でも彼はまる当たり前であるかのように侍女に対して振る舞いました。それ以外にも着替えの作法も貴族そのもので、平民だと思っていた侍女たちが驚いています」

「なるほど平民は一人で湯あみや着替えをするものだからな、分かった彼を謁見の間へ通しておいてくれ」

「母上、やはり彼はエリュウス王家の者であるか確かめないといけないようですな」

 少しして私は謁見の間に通された。

 片膝をつき記憶の底にある最も敬意ある礼をすると、そのまま王の顔を見ずに床を見ていた。そして王の『面を上げよ』という声と共に顔を上げた。

「この度は我が息子と母を救ってもらい大儀であった。なにか礼をしたいが望みはあるか?」

「使っていた護身用の鉈が壊れてしまいました。出来ましたら代わりの剣がありますと助かります」

「王よ、彼の鉈は私を助けるときに失ったもの、であれば代わりの剣は私が与えたく思います。礼は別のものをお与えください」

「そう言うことのようじゃ、他の望みを言うが良い?」

 もちろん絶好のチャンスだと思うが、ここではまだセリシア様に会わせて欲しいとは言えないだろう。

 まだだ、巨悪の姿はまだ見えないどこにその末端が伸びているかは分からない。
 セリシア様との出会いは偶然でなければならないのだ。

「では僭越ながら我が願いを申し上げます。私はまだ弱いのです出来ましたらより強くなることが出来るようにお手伝い願えませんか?」

「ほう、まだ弱いとな。だがわが国ではそなたに敵う者はいないと思うぞ」

「ではマルシウス国に居られる方でも構わいません、剣豪と言われる方をご紹介いただき手合わせなどしていただければ・・・」

「マルシウス国か、そういえばマルシウス国王の弟であるアリストファ侯爵が最も『皇帝真剣』を習得していたな、だが今は侯爵は病気で会うことすらできんがな」

「そういえばセリシアも同じく『皇帝真剣』を熱心に修練しておりましわね、まだ成人したてですがかなり強いとのアリストファ侯爵の話でしたよ。でもまあ親の贔屓目かもしれませんがね」

 セリシア様の名前が出たのを聞くとすぐに反応する。

「本当ですか、『皇帝真剣』を熱心に修練しておられるとは、一度お会いしてお手合わせ願いたいですね」

「なるほど、『皇帝真剣』という意味では一度会っておくのも良いかもしれませんね。王様いかがでしょうか?」

「わしに二言はないぞ、そうだな『皇帝真剣』の師範を始め何人かに遭ってもらうとしようか、そうだなそれが良さそうだ、それと数名の剣豪と呼ばれる者と会い手合わせをする間この城に住むことを許可しよう」

 王城に住むことが許されたため、クリステア様を傍で守ることもできる。
 その後、王の主催する今晩の晩さん会に招待された。

 王との話が済んだ後クリステア様が王に断りを入れた。
「王様、では私が彼との約束を果たしたく思いますのでヒロムをお借りします」

 クリステア様は王様にそういうと、私の方を振り向いた。
「ヒロム殿、お約束の剣をお渡ししたいと思うのですが、来ていただけますか?」

 クリステア様の後についていくと王城の奥にある倉庫のような扉のある所に連れて行かれた。

 扉の前でクリステア様は呪文を唱え始めた。
 聞いたことがある、特殊な結果を張るためとその鍵の呪文だったと思う。

 それほどに重要な倉庫だろう、つまり国宝級の品の保管庫なのだろう。

「あなたの剣がありますよ、さあどれでも好きな剣を持っていきなさい」

 まるでいくつもの剣から選んで良いという話しぶりだ。
 でも「あなたの剣がある」つまりクリステア様は私がどの剣を選ぶのか分かっているのだろうか?

 部屋の中には多くの剣が飾ってあった。

 それらは宝飾の美しいものも多く美術品として作られたものもあるが、逆に質素なものは古代神剣に間違いないだろう。

 私の目に留まったもの。
 それは正面の壁に埋め込まれた大きな剣の彫刻だった。

 普通、彫刻が本当の剣だとは誰も考えないだろう、それも大きな剣の彫刻であり壁に埋め込まれていた。

 --遠い記憶の中で私に呼びかけてくる。

   「皇帝真剣」それは流派ではなく技の名前でもない。
    あたりまえだが、もちろん人名ではありえない。

    それは剣の名前。

    その剣は人が作ったものではなく神が創ったもの。
    そのためこの剣を人の常識では図れない。

    だからこの世界では最上位の「王(キング)」ではなく
    その上位である「皇帝(エンペラー)」を冠するのだ。

    最初に手にしたのは世界を統一した王。
    統一王が神より拝領した剣。

    世界は王により統一され、その後王家は三つに分かれた。
    その剣は世界を統一すると姿を変えエリュウス王家に伝えられると聞く。
    だがエリュウス王家は断絶したと記憶している。

    その伝えられた剣の今の姿を知る者はいない。

 -- だが私には分かったあの剣に間違いない。

「あれにします」
 そう言うと壁に塗り込まれた彫刻を触り始める。

「やはりね・・・」
 そうクリステア様の口から洩れた時、不意に隣に人が居るのを感じた。

「本当にあれがそうなのか?、あんな物体が剣なのか?」
 その男は茫然とヒロムの方を見ていた。

「王ともあろう人がのぞき見ですか?」
 クリステア様がそういう相手はアーデルランド王だった。

「私も『皇帝真剣』の本当の姿を見たいのだ」

 もし本当にこれが『皇帝真剣』であれば奥義書の技に答えるはずだ。
 私の知る奥義書十二巻全ての奥義に関わるエレメントを使う時、剣はエレメントに反応し鍵は外れるはず。
 問題は魔力だ、全てのエレメントをこの剣に注ぐことが現在の私の魔力で可能かどうかということだ。

「だが今は、この剣が必要なのだ」
 そうだ、昔世界を統一した程の力が必要なのだ。
 それもたった一人の少女のために必要なのだ。

 魔力込めて奥義書の魔力エレメントを発動していく。

「風、炎、水・・・・」

 七つ目のエレメントあたりから剣からの反応が返ってくるような気がする。

 だが九つ目にして私の魔力が枯渇してきた。

「あと三つなんだ・・・なんとか持ってくれ」

 すると声が聞こえた。

『お前は何が欲しいのか?この世界か?』

「そんなものは要らないセリシアをセリシアを守りたいだけだ」

「そうか」

 その声はそれっきり聞こえなくなったが大きな魔力が剣から私に入って来た。

 その魔力により私は一気に土、金、星のエレメントを剣に与えた。

「カキ~~ン」
 間違いなく彫刻であるように見えた彫刻の剣が音を立てて鞘から少し離れたような感じがした。
 正確には見かけ上少し抜けるようなそぶりを見せた。
 この剣の彫刻は5メータくらいはあるのだ、そして壁に埋め込まれている。
 そんな簡単に抜けるわけがないし、抜けるときに下敷きになれば命はない。

 その様子を見ていたクリステア様の傍にいるアーデルランド王は不思議だった。
「あの剣では、抜いても使えんだろう?あの後どうなるんだ?あのままだと押しつぶされるぞ・・・」

 少しではあるが反応は有った、つまり抜けるのだ。

 だが少なくとも今のままで抜いて使うという代物ではない。

 少し悩んだが解決方法は簡単に思いついた。

 抜く方法は、先ほどのように「この剣の持つ魔力」を借りて剣を軽くすることだ。

「魔力を貸してくれ」
 そう願うと、魔力が再度流れ込んできた。
 そして剣を抜こうとするだけで、抜け始めた。

 しばらくすると剣は彫刻であるため相当な重量物でありながらアッサリと抜けた。

「ドッス~~ン」
 剣を抜くと、鞘の部分が壁から零れ落ちるように落ちた。

 5メータもある剣の刀身の大半は紫色の透明な材質出来ていた。
 まるで宝石だったが、宝石ではない。
 材質は魔石だった。

 だから相当な魔力を持っており各種のエレメントに対応できるのだ。

 その透明性から純度も高いのだろう。
 こんな大きくて純度の高い魔石は世界の何処にも存在はしないだろう。
 あながち神から拝領したという話は本当なのかもしれない。

 しかし魔石を刀身にするなんて誰も考えなかっただろう。
 より硬い金属を使うことを人は考えるのに脆い魔石など使うとは・・・

 頭の中にさっきの声が聞こえる。
「好きな形にするが良い、お前の願叶えてやろう」

「願いというか、剣よ、世界を統一したその力でセリシア様を守ろうというのですよ、本当に面白い冗談だと思わないか」

 この大きさでは扱えないので形を変えることにした。
「魔石剣よロングソードに」
 剣はロングソードになって、私はそれを帯刀する。

 近くで大きな驚きの声が聞こえた。
「凄い・・・やっぱりあなたは!!」
 クリステア様が口に手を当てて驚いていた。

 だがこの時、剣は小声で私に囁いてきた。
「世界統一など容易いことだ、そうだろう相手は人間だったからな。だがお前の望みを叶えるためには・・・相手は世界を滅ぼす怪物にすらなるものだ」

「怪物・・・そうだな・・・忘れていたよ・・・」
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