侯爵令嬢様、自惚れないで

魔茶来

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侯爵令嬢

03.クリステア様③

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『喜び、それは先日来た御婆様からの手紙。

 御婆様が来て下さる、それだけで嬉しい。

 早く会いたい。

 それと「皇帝真剣」の使い手・・・どんな方かしら

 きっと・・・・でも・・・・

 そう・・期待するのは止めておこう、裏切られると辛いから。

 そうよ、きっとその人も仮面を被っているのだろうから・・・』

 ーー

 クリステア様は教会での祈りを終え帰路についていた。

 護衛のため馬で並走するカルセに馬車越しに話しかけた。

「私も暫くの間会っていませんが、セシリアは皇帝真剣をどの程度使えるのでしょうか?」

 カルセは知り合いであるセシリアの師範から近況は聞いていた。
「セシリア様は最近一気にお強くなったとの話でした。ただその実力を使いきれていないようだとも聞いています」

「使いきれていない?」

「師範と簡単な話しかしていないので詳細は分かりませんが、セシリア様は皇帝真剣の神髄に近づいているのだろうと言っておりました」

「神髄とは凄い表現ですね、直ぐにでもに免許皆伝になるという意味でょうか?」

「それは分かりません、でも免許皆伝までには相当な年数が必要です。もしそうならセシリア様は武神でも付いているのではないでしょうか」

「人を超えているというのですか?それであれば本当に恐ろしいですね。でもセシリアは泣き虫の良い子ですよ」

「そうですね、師範は私がクリステア様に報告することも考えて大げさに言ったのでしょう」

 だがカルセは師範の話を全ては伝えていなかった。
(師範は上達が早すぎると言っていた。それも彼女の上達振りは「人の所業ではない」と言っていた。その上彼は「セリシア様の悪魔が目覚め始めている」と表現した。信じたくないがここ最近のセシリア様の噂もあり師範の言う「悪魔」というのが現実味を帯びて聞こえた。だがクリステア様にはそんなことは伝えられない)

 単独で馬に乗るカルセは大声で騒いでいるもの達に気が付いた。
 そしてそれは行く手で数名の賊に追われる親子らしい人影だった。

「親子連れが盗賊に追われているようです。私は助けに行かねばなりません」

「カルセ一人で大丈夫ですか。相手は人数が多いようですが?」

「大丈夫です、ただクリステア様はこのまま安全な所へ移動ください、ガロス頼んだぞ」

 御者のガロスに声を掛けると声のする方に馬で走って行った。
 追われている親子の近づいていくと親は気づ付きながらも子供を庇っていた。
 だがその子供も血まみれでぐったりしていた。

「この盗賊共が、何をしておる!!」
 カルセがそう声を掛けると親子を追っていた盗賊達はカルセの方に向かってきた。

「邪魔をするな!!」
 そう言うとカルセに切り掛かって来た。

 馬上から剣で対応するカルセ。カルセの馬上での剣術は一品だった。
 数名を自分の剣技と乗っている自分の馬のひづめの前に倒したカルセ。

 その様子を見て残った追っていた者達は立ち去って行く。
「長居は無用だ。止めは刺してあるから撤退するぞ」

 盗賊は倒れているもの以外は全ていなくなった。

 親子の傍に行くカルセ。
 既に子供は出血が多く息絶えていた。
 父親らしき者は意識があったが、切り傷が酷く顔は青白く瀕死の様相であった。

「大丈夫か」
 大怪我にもがきながら薄れる意識の中うわ言のように呟く父親らしき男。
「生・生き・ううっ、生き証人を・・・連れて帰ることができない・・これでセシリア・・・あの悪魔の・・罪を国に訴えることができ・・・」

「おい、しっかりするんだ・・・」

「俺は・・・はぁはぁ・・アムリシア王国・・・近衛兵士のコボルト・・・・この子はユードリック孤児院から逃げて・・・・」

「アムリシア王国?アロム王子からの命令か?」

「王妃様からの密命だ。・・・やっと・・・やっと生き証人である孤児院から逃げて来たバルを・・・・はぁはぁ」
「バル君を助けたというのに・・・俺はこの子たちに起こった悲劇を・・・国に報告しなければ・・・・ならないんだ」

「誰にやられたんだ・・・」

「領主の侯爵・・・侯爵令嬢・・・うっ・・・、セリシア・・・悪魔め・・・」

 男は喀血しこと切れた。
 カルセは男の瞼を手で押さえ目を閉じさせた。

 生き証人という言葉と共に横たわるまだ少年である遺体を見たカルセ。
「ユードリック孤児院から逃げた生き証人・・・」

 ユードリック孤児院・・そこは錬金術のために運営される孤児院、そこの子供は金を生む。
 幼い子供たちを使った人道的に許されないことで得られる金・・・そんな噂はカルセも聞いていた。

 今この事実を目の前にして否定すら出来ない状況、カルセは城に帰るとクリステア様に見たままを報告するせざるを得なかった。

 クリステア様は報告を聞くと何も言わずうつむいたままでで泣いているようだった。
 コボルトの遺体は火葬にしてアムリシア王国へ送り届けられ、子供の遺体はアーデルランド王国に埋葬された。

 だが私にはこの一件は何も知らされなかった。

 そして私はセシリアに会うことを待ち望んでいた。
 その思いとは裏腹にクリステア様は何かの決意をしたようにその日から顔が暗く強張っていた。
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