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侯爵令嬢
05.クリステア様⑤
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その日が来ました。
御婆様、本当にお久しぶりです。
「切望していた。会いたかった」
馬車から何方かをお連れになって私の元に近づいて来る。
その顔は優しい微笑みを湛えていた。
人の笑顔を見るのが久しぶりだった。
なぜかしら、御婆様の顔がちゃんと見えない。
そう、今にも声を出して泣き出しそうだった。
「セシリア、久しぶりね。元気そうで何よりです」
「はい、御婆様。本当に、本当にお会いしたく思っておりました」
「そうそう、こちらがヒロム・サキュレス様。貴方の模擬試合の相手をされる方です」
私は傍らに居たヒロムという少年に目を向けた。
「初めまして、ヒロム・サキュレスと申します」
彼はにこやかに私を見て微笑んだ。
「セシリア・アリストファと申します。
ヒロム様は『皇帝真剣』の使い手とのことお聞きしております。
明日の試合を楽しみにしております」
私に向かって本当に微笑む少年。
そのような人は御婆様以外見たことが無かった。
御婆様の護衛のカルセすら、なにか含みがあるように私に作り笑いで微笑んでいる。
明日の試合が楽しみだった。
◆ ◆
その夜、御婆様と歓談した。
「御婆様見てください、孤児院の子供たちが作ってくれましたのよ」
私は子供たちが作ってくれた金の王冠を御婆様に見せた。
「まあ、王冠なのね」
その王冠は銀色の紙にオレンジの色を塗って金色に見せたものだった。
それを見た瞬間にクリステアの目に涙が溢れた。
「私は何と言うことを・・・」
「どうしたのですか御婆様」
「ヒロムの言うとおりだわ。人の噂なんて当てにならないものね」
「ヒロム様が何か?」
「いえ、なんでもありません。
ヒロムは貴女のファンなのだそうよ。
昔どこかで会ったことがあるのだとか」
私は少し頬が赤くなり暖かくなるのを感じた。
「ファン??なんか恥ずかしいですね。
でも会った記憶がありません。なんか申し訳ないですね」
「でも、良かったわ。貴女が昔のままの貴女なので安心しました」
「私は、私です。変わりませんよ」
「そうよね、私たらなんか変なのよ」
「そんなことはありません。御婆様はお変りになっていませんよ」
「ありがとう、セシリア」
私は本当に安心した、私を人として扱ってくれる御婆様。
あなただけが私の心の支えです。
そして、御婆様が連れて来てくれたヒロム様も私の心の支えとなるでしょう。
◆ ◆
クリステアはその夜カルセと話をしていた。
「やはり金の塊など嘘でした。本当になぜ私はそんなことを信じてしまったのでしょうか?」
「申し訳ありません、クリステア様。私があのような話をしなければ、そのように思うことも無かったでしょう」
「何も詫びる必要はありません疑ったのは私です。セシリアを信じること、それが一番大事なことです」
「はい、その通りですね」
カルセはやはりセシリアを完全に信じることが出来なかった。
それほどの多くの噂がセシリアにはあり、そのすべてを嘘だとは否定できなかったからだった。
(クリステア様を悲しませてしまった。本当のこと・・・それはどうすれば分かるのだ・・・)
◆ ◆
ヒロムは模擬試合場の下見に来ていた。
「何もかもが懐かしい。
しかし本当に酷いものだな。
あの時は気が付かなかったが、こんなにも罠が仕掛けられている。
セシリア本当に可哀想な子
おっと、気づかれないようにしなければ・・・」
◆ ◆
翌日模擬試合が開始される。
「では、始め!!」
ヒロムは威力が強力にならないようにミスリルの剣を使っていた。
セシリア令嬢が打ち込んでいく。
(最初は少し手加減して、それでも速度は最大ではいかがでしょうかヒロム様)
「エイッ!!」
その剣の速度は速く通常であれば受けることも出来ずに剣が弾き飛ばされるだろう。
それを受け流すヒロム。
(いい打ち込みだ。
免許皆伝の腕前と言うことろか。
ジャミーの訓練の賜物だな)
見ていたカルセは驚いていた。
「信じられない、今の速い打ち込みを受けましたね。
ヒロムの剣筋は前回も見ましたが、あの二人は最初からとんでもないことになっていますね」
もちろんセシリア令嬢は驚いてた。
(本当に凄い、この剣を受けるなんて。
それも全く怯んでなかった。
少なくとも免許皆伝は間違いないわね。
でもあの年で免許皆伝はありえないはず?
私はジャミーが居て初めて免許皆伝と言うのに、どうやってその力を手に入れたの?)
「それなら防御力強化」
そう叫ぶともう一度打ち込んで行く。
カキーン・・
「次、身体倍強化」
カキーン・・
「次身体倍高速化」
カキーン・・
セシリアは次々と魔法強化を施して行く。
皇帝真剣の王家師範が驚き、震えていた。
「どちらも凄いです。
本来の免許皆伝の強化技のすべてが解放されている。
あの年で免許皆伝の腕前と言うのは本当のようですね。
それよりこんなに長時間解放できるものなのでしょうか?
何と言う魔力量だ」
「ヒロム様、やはり凄い。
それでは私の最高の技をお見せいたします」
セシリア令嬢は構えを変えた。
剣を水平にすると詠唱を始める。
「奥義の発動だ。
そうか水のエレメントだな、そう言えば最初は水のエレメントだったな。
では火のエレメントで対抗しよう」
ヒロムも剣を水平にした。
だが詠唱はしない。
セシリア令嬢が攻撃してくるまで待っていた。
地下から水が吹き上がりセシリア令嬢の剣に従う。
「水の槍」
その攻撃は水の槍が数百本一気に襲ってくるものだった。
そしてその攻撃は一度ではない、何度も何ども水が枯渇するまで攻撃は繰り返される。
観客の間からはヒソヒソを声が漏れてくる。
「何て残酷な攻撃だ、やはりセシリア令嬢は悪魔だ・・・」
幸いなことにセシリア令嬢は必死に技を使うため聞こえていないだろう。
「レベルエスパニーラ火の盾」
その呪文は炎の盾を作り出し全ての水の槍の攻撃を防いだ。
「魔法でエレメントを纏う・・・ヒロムは奥義まで達しているの?」
セシリア令嬢は少し焦り始めていた。
「御婆様の前で無様な真似は出来ない。
でもまだ奥義は水のエレメントだけ・・・
いいえ、出来るわ、私には出来るのよ」
そういうとセシリア令嬢は現在研鑽中の技を使おうとする。
「炎の渦」
ヒロムは驚き止めようとする。
「いけない、まだ魔力が練れてい状態で使っては・・・」
だが剣に炎が巻き付き始め大きな渦となって行く。
やがてセシリア令嬢を囲むような渦になるとだんだんその渦は太く大きくなっていく。
大きくなっていく渦は観客を巻き込むのではないかと思われ逃げだす観客も出始めた。
ヒロムは皇帝真剣を呼んだ。
「剣よ来い」
ヒロムの元に皇帝真剣が到着すると剣を水平にして直ぐに魔法を発動した。
「沈黙」
全ての魔法は解除され、その場にセシリア令嬢が倒れていた。
クリステア様はその場を駆け出しセシリア令嬢の元に駆け寄ってくる。
ヒロムは倒れているセシリア令嬢を抱き上げ回復魔法を掛けていた。
傷は深くセシリア令嬢は防御魔法を掛けていたがそれでも火傷を負っていた。
「まあ、なんてことをこんな酷い火傷が、可愛そうなセシリア、火傷の痕が残ってしまうでしょう」
「いえ、大丈夫です」
ヒロムは落ち着いて皇帝真剣を振り下ろすと最大の力でセシリア令嬢に回復魔法を掛けた。
「火傷が・・・」
クリステア様の言葉と共にセシリア令嬢の火傷は全て消えていった。
「良かった」
ヒロムの口から声が漏れた。
目を開けたセシリア令嬢。
目の前には抱き上げてくれていたヒロムの顔が近くにあった。
セシリア令嬢は弱々しい口調で呟くように囁いた。
「私の負けのようですね」
少し照れ笑いのように微笑むセシリア令嬢。
「今回は私が勝たせてもらいましたね。
お疲れ様です、セシリア様。
少しお休みになると良いです」
「ええ、ありがとうヒロム様」
セシリア令嬢は抱き上げられた腕に大きな安心感を感じながら眠りについた。
御婆様、本当にお久しぶりです。
「切望していた。会いたかった」
馬車から何方かをお連れになって私の元に近づいて来る。
その顔は優しい微笑みを湛えていた。
人の笑顔を見るのが久しぶりだった。
なぜかしら、御婆様の顔がちゃんと見えない。
そう、今にも声を出して泣き出しそうだった。
「セシリア、久しぶりね。元気そうで何よりです」
「はい、御婆様。本当に、本当にお会いしたく思っておりました」
「そうそう、こちらがヒロム・サキュレス様。貴方の模擬試合の相手をされる方です」
私は傍らに居たヒロムという少年に目を向けた。
「初めまして、ヒロム・サキュレスと申します」
彼はにこやかに私を見て微笑んだ。
「セシリア・アリストファと申します。
ヒロム様は『皇帝真剣』の使い手とのことお聞きしております。
明日の試合を楽しみにしております」
私に向かって本当に微笑む少年。
そのような人は御婆様以外見たことが無かった。
御婆様の護衛のカルセすら、なにか含みがあるように私に作り笑いで微笑んでいる。
明日の試合が楽しみだった。
◆ ◆
その夜、御婆様と歓談した。
「御婆様見てください、孤児院の子供たちが作ってくれましたのよ」
私は子供たちが作ってくれた金の王冠を御婆様に見せた。
「まあ、王冠なのね」
その王冠は銀色の紙にオレンジの色を塗って金色に見せたものだった。
それを見た瞬間にクリステアの目に涙が溢れた。
「私は何と言うことを・・・」
「どうしたのですか御婆様」
「ヒロムの言うとおりだわ。人の噂なんて当てにならないものね」
「ヒロム様が何か?」
「いえ、なんでもありません。
ヒロムは貴女のファンなのだそうよ。
昔どこかで会ったことがあるのだとか」
私は少し頬が赤くなり暖かくなるのを感じた。
「ファン??なんか恥ずかしいですね。
でも会った記憶がありません。なんか申し訳ないですね」
「でも、良かったわ。貴女が昔のままの貴女なので安心しました」
「私は、私です。変わりませんよ」
「そうよね、私たらなんか変なのよ」
「そんなことはありません。御婆様はお変りになっていませんよ」
「ありがとう、セシリア」
私は本当に安心した、私を人として扱ってくれる御婆様。
あなただけが私の心の支えです。
そして、御婆様が連れて来てくれたヒロム様も私の心の支えとなるでしょう。
◆ ◆
クリステアはその夜カルセと話をしていた。
「やはり金の塊など嘘でした。本当になぜ私はそんなことを信じてしまったのでしょうか?」
「申し訳ありません、クリステア様。私があのような話をしなければ、そのように思うことも無かったでしょう」
「何も詫びる必要はありません疑ったのは私です。セシリアを信じること、それが一番大事なことです」
「はい、その通りですね」
カルセはやはりセシリアを完全に信じることが出来なかった。
それほどの多くの噂がセシリアにはあり、そのすべてを嘘だとは否定できなかったからだった。
(クリステア様を悲しませてしまった。本当のこと・・・それはどうすれば分かるのだ・・・)
◆ ◆
ヒロムは模擬試合場の下見に来ていた。
「何もかもが懐かしい。
しかし本当に酷いものだな。
あの時は気が付かなかったが、こんなにも罠が仕掛けられている。
セシリア本当に可哀想な子
おっと、気づかれないようにしなければ・・・」
◆ ◆
翌日模擬試合が開始される。
「では、始め!!」
ヒロムは威力が強力にならないようにミスリルの剣を使っていた。
セシリア令嬢が打ち込んでいく。
(最初は少し手加減して、それでも速度は最大ではいかがでしょうかヒロム様)
「エイッ!!」
その剣の速度は速く通常であれば受けることも出来ずに剣が弾き飛ばされるだろう。
それを受け流すヒロム。
(いい打ち込みだ。
免許皆伝の腕前と言うことろか。
ジャミーの訓練の賜物だな)
見ていたカルセは驚いていた。
「信じられない、今の速い打ち込みを受けましたね。
ヒロムの剣筋は前回も見ましたが、あの二人は最初からとんでもないことになっていますね」
もちろんセシリア令嬢は驚いてた。
(本当に凄い、この剣を受けるなんて。
それも全く怯んでなかった。
少なくとも免許皆伝は間違いないわね。
でもあの年で免許皆伝はありえないはず?
私はジャミーが居て初めて免許皆伝と言うのに、どうやってその力を手に入れたの?)
「それなら防御力強化」
そう叫ぶともう一度打ち込んで行く。
カキーン・・
「次、身体倍強化」
カキーン・・
「次身体倍高速化」
カキーン・・
セシリアは次々と魔法強化を施して行く。
皇帝真剣の王家師範が驚き、震えていた。
「どちらも凄いです。
本来の免許皆伝の強化技のすべてが解放されている。
あの年で免許皆伝の腕前と言うのは本当のようですね。
それよりこんなに長時間解放できるものなのでしょうか?
何と言う魔力量だ」
「ヒロム様、やはり凄い。
それでは私の最高の技をお見せいたします」
セシリア令嬢は構えを変えた。
剣を水平にすると詠唱を始める。
「奥義の発動だ。
そうか水のエレメントだな、そう言えば最初は水のエレメントだったな。
では火のエレメントで対抗しよう」
ヒロムも剣を水平にした。
だが詠唱はしない。
セシリア令嬢が攻撃してくるまで待っていた。
地下から水が吹き上がりセシリア令嬢の剣に従う。
「水の槍」
その攻撃は水の槍が数百本一気に襲ってくるものだった。
そしてその攻撃は一度ではない、何度も何ども水が枯渇するまで攻撃は繰り返される。
観客の間からはヒソヒソを声が漏れてくる。
「何て残酷な攻撃だ、やはりセシリア令嬢は悪魔だ・・・」
幸いなことにセシリア令嬢は必死に技を使うため聞こえていないだろう。
「レベルエスパニーラ火の盾」
その呪文は炎の盾を作り出し全ての水の槍の攻撃を防いだ。
「魔法でエレメントを纏う・・・ヒロムは奥義まで達しているの?」
セシリア令嬢は少し焦り始めていた。
「御婆様の前で無様な真似は出来ない。
でもまだ奥義は水のエレメントだけ・・・
いいえ、出来るわ、私には出来るのよ」
そういうとセシリア令嬢は現在研鑽中の技を使おうとする。
「炎の渦」
ヒロムは驚き止めようとする。
「いけない、まだ魔力が練れてい状態で使っては・・・」
だが剣に炎が巻き付き始め大きな渦となって行く。
やがてセシリア令嬢を囲むような渦になるとだんだんその渦は太く大きくなっていく。
大きくなっていく渦は観客を巻き込むのではないかと思われ逃げだす観客も出始めた。
ヒロムは皇帝真剣を呼んだ。
「剣よ来い」
ヒロムの元に皇帝真剣が到着すると剣を水平にして直ぐに魔法を発動した。
「沈黙」
全ての魔法は解除され、その場にセシリア令嬢が倒れていた。
クリステア様はその場を駆け出しセシリア令嬢の元に駆け寄ってくる。
ヒロムは倒れているセシリア令嬢を抱き上げ回復魔法を掛けていた。
傷は深くセシリア令嬢は防御魔法を掛けていたがそれでも火傷を負っていた。
「まあ、なんてことをこんな酷い火傷が、可愛そうなセシリア、火傷の痕が残ってしまうでしょう」
「いえ、大丈夫です」
ヒロムは落ち着いて皇帝真剣を振り下ろすと最大の力でセシリア令嬢に回復魔法を掛けた。
「火傷が・・・」
クリステア様の言葉と共にセシリア令嬢の火傷は全て消えていった。
「良かった」
ヒロムの口から声が漏れた。
目を開けたセシリア令嬢。
目の前には抱き上げてくれていたヒロムの顔が近くにあった。
セシリア令嬢は弱々しい口調で呟くように囁いた。
「私の負けのようですね」
少し照れ笑いのように微笑むセシリア令嬢。
「今回は私が勝たせてもらいましたね。
お疲れ様です、セシリア様。
少しお休みになると良いです」
「ええ、ありがとうヒロム様」
セシリア令嬢は抱き上げられた腕に大きな安心感を感じながら眠りについた。
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