侯爵令嬢様、自惚れないで

魔茶来

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侯爵令嬢

セシリア その1

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 仮面を被った人たちが私を凝視する。
「なぜ仮面を被っているの?」
 みんなの顔の表情は分からない、笑っているのか泣いているのか、怒っているのか・・・
 ただ、みんなの目は私をまるで軽蔑するかのように白い目だった。

 さっきみんなは、私が振るう「皇帝真剣」を恐れていた。
 それはまるで私を化け物を見るような目で見ていた。

 何故なの?
 私はみんなと違うの?

「そうだ」
 不意に声が響き言葉を続けた。

「おまえはみんなとは違うんだ、セシリア。

 お前のこと等誰も認めてはいない。
 そして皆がお前を嫌うのだ。
 意味も分からず、みんなに疎まれ、嫌われる運命なのだ。

 早く気付くが良い。

 お前はみんなとは違うのだ。

 さあ、早く我々に頼るが良い。
 力をやろう、それも強大な力をやろう」

 模擬試合後気絶しベッドで寝かされているセシリアは魘されていた。

 これは夢?
 そういえば前にも何度か聞いたことが有るような記憶がよみがえる。

「頼るが良い?」

 頼れば今の自分を変えることが出来るのだろうか?
 儚い希望がそこには有るような気がする。
 だがそれを拒絶する自分の中の何かがあった。

 でも、もうそんなことはどうでも良い。
 私は人から見向きもされない人間。
 そうね、みんなは私が「侯爵令嬢」だから相手にしているのよ。
 もし侯爵令嬢でなければ見向きもされない人間。

 私なんか生きている価値のない人間。
 そうよ生まれて来なければ良かったのよ。

 寒い、寒い・・・

「お父さん、お母さん、お婆さま」

 父や母と一緒に暮らしていた頃が懐かしい・・・
 もう今では、お婆さまだけが味方。
 お婆さまが居てくれるから今日まで生きてこられた。

 さっきの暖かい目のあなたは誰?

 それは何か暖かい気持ちになるもの。
 そして包容力と大きな力・・・

 あなたは「ヒロム」なの?

 私は今日久しぶりに本当に私に心から微笑みかけてくれる人に会いました。

 あなたは味方?あなたは私を裏切ったりしないのですか?
 あなたは信じていい人なの?

 ヒロムごめんなさい、貴方まで疑っている私の中の誰か・・・
 もういや・・・こんな自分が嫌になって来る・・・

 助けて・・・・ヒロム。

 疑っていながら助けを求める矛盾。

 私はおかしい・・・もう、まともな精神状態ではないのだろう。

 どうすれば良いのだれか教えて!!

 魘されるセシリアを見守るクリステア様とヒロム。

「可哀想に、こんなに魘されて。
 でも傷もきれいになっているし痛みももうないはずなのに、どうしたのでしょうね」

 クリステア様の言葉に答えるヒロム。
「悪い夢を見ているのでしょう。
 人々の悪いうわさ話が耳に入らない訳がありません。
 今日の試合の最中もセシリア様に対する人々の視線は正常ではありませんでした」

「そうでしたね・・・
 どうしてなのでしょうか?」

「分かりません」
 ヒロムはそう即答した。
 それは実は何かを知っているからこそ即答できるかのようだった。

「セシリア様には見方が必要なのです。
 クリステア様もいつまでもセシリア様の味方であり続けてください」

「当たり前です、いつまでもセシリアの味方です」
 そうは答えるがクリステア様自身も前回セシリア様を疑っていた。
 もう疑うまいと決意するのだった。

 悪夢にうなされながら、苦しみ涙を流すセシリアを見てヒロムも心に決意するのだった。

(もうすぐセシリアにはさらなる悪夢が始まる。
 それを私が食い止めて見せる。
 そのために私はここにきたのだから)
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