上 下
4 / 118
聖女なの?聖女じゃないの?

湯沸かし姫

しおりを挟む
 翌日は『6歳の聖女確認の儀』の調査がある。

 シェリルとオレアナ王妃は明日のことを話し合っていた。
 シェリルは不安そうな顔をしながら
「大丈夫かな、大丈夫かな……」とそわそわ
「サリアとクリシェは魔法が芽生えているので調査は無くなったと言うことだったわ、うらやましぃ~」

 そう言いながらもオレアナ王妃に質問する。
「うそをつくのは悪いことではないのかな、なんかドキドキするよ」

 オレアナは落ち着いたように説明し始める。
「大丈夫よ、嘘をつくんじゃないの、少しの間隠しておくだけよ」

「よく覚えておいてね、貴方は特別な力を持っているのよ
 その力は本当に必要なことにだけ使わなければならない
 貴方が自分で力を使う時を見極められるまで隠しておかなければならないのよ」

「良く分からないけど、明日は頑張ってみるわ」

 オレアナ王妃も本心は心配に満ちていた。

 翌日、正教会からカリマとサムルという2人の調査員が王城へやって来た。
「カリマ、今回は期待してもらっていいぞ王女は魔法の芽生えすらないようだ
 たぶん間違いなく聖女候補だ」

「本当か、王家の者は魔力が強いからなかなか聖女は生まれないというのが定説だろう……」

「王女が聖女なら寄付もがっぽりだからな、頑張って聖女になってもらおう」

「いやいや、サムル、聖女をでっち上げはダメだろう……」

そんなこんなで調査が始まる。

「王妃様、シェリル姫様も6歳になられましたが魔法の芽生えすら未だであると伺っております
 聖女の可能性がありますので、調査させていただきます」

 王妃は自然を振る舞い気丈に答えていた。
「分かりました、シェリルこちらに来て手の甲を見て頂きなさい」

 シェリルは恐る恐る調査員に近寄り手を見せた。
「こちらが利き腕で間違いないですか?」
 
「はい、間違いございません」
 そう答えるシェリル、心臓の鼓動は早鐘のようであった。

「ちょっと見でも、全く聖痕が見当たりませんね」

 そう言うとサムルは手を離したと同時にペンを落とした。

 そのペンをシェリルが右手で拾った。
(う~ん、間違いなく利き腕は右のようだな……)

「カリマ、アゼラマップを持って来てくれ」
 カリマは特殊な魔法陣が記載された魔法紙を持って来た。

「このアゼラマップは最近開発されたもので、皮膚の下の聖痕を検知し、この印刷された魔法陣と照合させ結果表示できる試験用魔法紙です
 これにより現在は表面に顕現していない聖痕も見つけることが出来ます。」

 説明を聞いて、少し動揺する王妃と王女……

 アゼラマップをシェリル右手の甲に当てると、マップは印刷された魔法陣の一部が反応し少し色が変わった。

 カリマはその反応を見るとガッカリしたように説明した。
「魔力反応ですかね?マップ全体に反応しませんね、たぶん聖痕は無いですね」

 その説明を聞いて、少し王妃と王女が安心したような顔をするのを見たサムルは思いついたようにカリマに言う。

「使っている利き腕は右だが、生まれつきの利き腕が実は左と言うこともある
 試しに左にアゼラマップを当ててくれ」

 その言葉に王妃と王女は動揺した。
 もちろん王妃は顔には出さないように気丈に振る舞ったのだが・・・王女は顔に現れた……

「どうかしたんですが、王女様?」

「王女は先ほどの調査で終わったと思ったんで、ちょっと驚いただけです緊張しているんです」

 それを聞くとアゼラマップを左手の甲に当てた。
 その瞬間マップは全体的に印刷された部分が大きく色が変わった。

 それを見たときカリマは驚き……
「これは、この反応は……凄い、魔法陣全体が反応している……」

「しかしこの反応は……この色は……赤じゃない緑!?
 明らかに聖女の聖痕反応ではありません……これは精霊痕反応でしょうか?」

 サムルは首を横に振り……
「精霊痕なんて異教徒の精霊教会が作ったものだ、そんなものは存在しないよ」

 これで調査は終わったらしく、王妃へ報告をする調査員
「王妃様、現在顕現していない聖痕すら無いとの判断ですが、魔法が使えないのが気になります」

 サムルはさっきの王妃の動揺が気にかかるらしく王妃の不自然な態度から何かを感じ取っていた…… 
「もし何時迄も全く魔法の芽生えが無いようであれば、聖女であると決定できるまで毎年調査することになると思います」

 サムルは最後にシェリルに質問した。
「シェリル様、なにか魔法が使える予兆みたいなものはありませんか?」

 シェリルは咄嗟に
「そう、そうだ、そう言えば、あります……、そうだあるんです……あるんですよ!!」

 王妃はその言葉に驚いたが、シェリルは侍女にポットに水を入れるように指示した。

 シェリルは気づかれないように薄く聖なる力をポットに当てた。
 光ることも無く、聖なる光は、少しするとポットの水をお湯に変えた。

 シェリルは胸を張って魔法が使えると宣言するかのように
「どうやったらそうなるのか分からないし、不安定なのですが
 今初めてやったのですが、お湯が沸かせました
 たぶん火魔法でしょうか?」

 流石にサムルも目の前でお湯が沸いたのを見たため諦めたようだった。
「分かりました、王女様は魔法を使えるため残念ながら聖女ではありませんでした」

 調査員達が帰った後王妃はシェリルを抱きしめた。
「ごめんなさいね、貴方にも苦労を掛けることになってしまって……」

 シェリルは震えていたが抱きしめてくれた王妃もまた震えていた。

 こうして『3歳の聖女確認の儀』は終了したが、直ぐに次の関門が待っていた。

 それはその夜、王が帰って来たときにシェリルに説明された。

 王は申し訳なさそうにシェリルに話始めた。
「シェリル、申し訳ないのだが……、王立スクールへの入学はあきらめて欲しい」

 シェリルは大きな声で理由を聞く
「なぜですか、私だけではなく、サリアもクリシェも楽しみにしているのに……」

「学校は魔法を教える所でもある、だから魔法が使えないと学校を続けることは出来ないだろう……
 もちろん学校に行かなくとも王城の中で一流の講師は付けよう、いくらでも勉強を出来るようにしよう
 シェリル本当に申し訳ない、これだけは魔法が使えなければどうにもならないのだ……」

 王妃も申し訳なさそうな顔をして説明する。
「実は王と私は聖痕が現れてから別の学校も含め入学できるところが無いか探したわ
 そして入学させてもらうように画策したのよ
 でもね、分かったのは結局どの学校も魔力が全くない者が入学出来たとしても学校を続けることは難しいのよ」

 それを聞いたシェリルは泣きながら……
「私は魔法は使えませんが、今日でも魔法を使うようにお湯なら沸かせました
 私は出来るところまで頑張りたい、頑張らせてください、お父様、母上様……」

 そういうとシェリルは泣きながら入学を切望した。

 王も、王妃も声が出なかった、シェリルが入学すれば辛い目に遭うのは分かっていたからだ……

「あれあれ誰かが泣いているな……
 シェリルだな、魔法は未だ芽生えてないもんね」

 声の主は姉のサミュカ姫様だった。
 実は家族にも聖痕の話は説明されていなかった、今の会話も単純に魔法が使えないシェリルに入学を残念させようとしていると映ったのだろう。

「私はシェリルに賛成よ、学校に行くべきよ、そしていろいろな人に会ってきなさい」

 涙で顔がぐちゃぐちゃのシェリル……
「お姉さま、ありがとうございます」

「もう直ぐ婚姻の儀なので母上様と色々お話ししようと思って来たんだけどね
 もっと大事な問題が話されていたわ、人と知り合うには学校が一番
 今後の人生にも大事な経験になるわ、学校へ行きなさい!!」

 この言葉が後押しになったのか、王は決心したのだろう、シェリルに確認の質問をした。
「シェリル、それが最も辛い道であると分かっていてもその道を行くというのだな」

「はい、私は自分の出来ることが知りたい、そして出来ることを増やしたいのです学校へ行かせてください。」

「分かったよシェリル、頑張りなさい」

 シェリルは涙でぐちゃぐちゃになった顔で、姉姫に何度も礼を言った。
「ありがとう、お姉さま、ありがとうございます……ありがとうございます」


 結果シェリルは王立スクールに入学することになった。
 魔法が使えない生徒が魔法学校に入るという前代未聞のことが起こったのだが、学校関係者は誰も知らなかった。

 入学調査の日、仲良し3人娘は並んで試験の順番を待っていた。 

 審査官の説明が始まる。
「まだ3歳になったばかりなので皆さんは魔法が十分に使えない人も居ると思いますが魔法のテストを致します」

「魔法属性を知っておくことは大事なことです。
 万物は火・水・木・金・土の5種類の素からなり、魔法もこの5つの素からなる8つの属性が元となります
 今回はこの8つの属性のチェックを致します」

 順番に入学者はみんな魔法を使っていく、ほとんどの子供は6歳になったばかりだから皆そんなに強い魔法では無いのだが色々な属性の魔法を使った。

 さて、仲良し3人も魔法を見せる時が来た。
 サリアは水を操る魔法を見せた。

 クリシェは風を操る魔法を見せた。

 シェリルの番が来たが、言うまでもなく、もちろん使えない。
 横の先生が何らかの魔法で支援しているようだが何も起こらない……

 先生は支援しているが空振りなので、疑問に感じて……
「信じられない魔法力が全く増えないというか魔法力を感じません……」

 シェリルはたった一つ出来ることをするため、先生にお願いをした。
「コップに水を入れて持って来てください!!」
 そう言うと水の入ったコップを貰い左手で持って、誰にも光を気づかれないように聖気光を出した。
 驚いたことに瞬時にお湯が沸いた。

「お、おおっ、コップの水がお湯になったぞ!!
 これは火属性の魔法だ、しか火魔法でこんなに瞬時にお湯を沸かせる者はいません
 流石、王女様だ!!」

 しかしその時、否定する声がした。
「違いますわ!!」
 声を上げたのはクリシェ。

 審査者は驚き聞き返す。
「何が違うのですか?」

「それは火魔法ではありません
 サリアは魔法を見た時に嫌気を感じた?」

「いいえ、別に何も感じなかったわ」

「ほら、水属性のサリアが嫌気を感じないのは属性が火じゃ無いのよきっと
 今見ていると火が全く見えないしお湯が沸くのも早かったわ
 想像だけど波の力ね」

 サリアが驚く……
「波?、波ってあの波?」

「そうよ、私の国では光も波と言う説があるの、だから波もしくは光属性で素は天として金ね」

「間違いないわ私達二人と親和する力ね、共同した作戦と戦闘が出来るのよ……」

 サリアはこの言葉を聞いて分かった……
(流石、策士クリシェ、いつも3人が一緒に居られるようにそう来たか!!)

 この意見は納得したのか審査官はそのまま受け取ったようだった。
「シェリル王女、光(天)属性、素は金である」

 確かに聖なる光なので光属性は正しいかもしれなかった。
しおりを挟む

処理中です...