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堕天の聖女

聖女が学校にやって来た

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 正教会でカイザル司教が訝しそうな顔をしてなにやら呟いていた。
「まただな」
 
 それを見ていたフレッドリー司教はカイザル司教の側に寄って見ている資料を覗き込んだ。
「どうかなさいましたかな、カイザル司教」

 カイザル司教はあきれたような顔になり。
「ソルア国の近くにいる”国住みの聖女”が"堕天"したらしい、これで8人目だ」

 そんなことかとフレッドリー司教は思った。
「そのようなことは気にすることでは無いのではありませんか?
 "国住みの聖女"は、元々は聖なる力が弱くFランク以下の聖女ですよ、結局一度も正教会にも招聘されなかった者です
 そのような者が”堕天の聖女”となろうが何を恐れるのですか……
 だいたい、”堕天の聖女”になると正教会から一切の支援が無くなるのです生活にすら困るのは彼女たちの方です」

「そうなのだが、堕天した後の話が問題だ
 堕天後、ソルア国の同じく”堕天の聖女”が作った互助会という名の新たな組織に入ったというのだ
 その組織は、異教徒の聖女をも集めその数を増やしておるようだ」

「わしは恐れているのだよ、やがて奴らは正教会に対峙する勢力になることをね?」

 フレッドリー司教は笑いなら…
「そんな寄せ集めの組織が、数多ある宗教の中で神に認められた結果もっと勢力を誇っている正教会を無きものに出来るものですかな?」

「問題なのは、異教徒の聖女も集めている……、いや集まっているということだ
 彼の組織、宗教とは明言していない慈善事業のように振舞っているようだ……
 だから正教会の聖女も最初は軽い正義感で手伝いから入るようだがやがてその集団に入ってしまうらしい」

「もっと怪しいことがある……
 これは噂だが、主催者の”堕天の聖女”に妙な噂があるのだ
 元はソルア国の”国住みの聖女”が”堕天の聖女”になったようだが……
 実は聖女として相当強力な力を持っており、その腰には聖剣が携えられているとのことだ」

 フレッドリー司教は真剣な顔になり…
「聖剣!!……、ありえない、正教会以外に聖剣など所有が認められていないはずです」

「ソルアには龍王の聖なる槍があるだろう
 あれは特別で王家所有の槍であると歴史的にも認められているから正教会も許可しておる
 だが、それとは別に聖剣も隠しておった可能性もあるからな……」

「もしかしてソルア国の陰謀でしょうか?」

「その可能性もあるからな、調査の必要があるということだ」
「では、手配しておきましょう」

 その翌日、正教会では捕獲し保管されていたゴーストが捕獲器ごと無くなり大騒ぎになっていた。

 フレッドリー司教は大慌てしながら……
「大変です、パラドグリスが消えました」

「それは、大変だなBクラスの悪霊だったかな」

「そうです、悪霊としてはレベルBにあたりますが
 奴は、魔力を食らい大きな災いを起こしますからな
 通常の騎士では刃が立ちますまい、唯一聖剣でなければ倒すことは出来ないのです」

「我が正教会絵は聖剣があるので恐れるに足りませんが…
 もし、他国で暴れるとなると魔力を食らう奴ですからな、その国には甚大な被害が出るでしょう」

 そのとき昨日のことが思い出したフレッドリー司教はカイザル司教の顔を見ながら……
「もしかして、まさかとは思いますがあなたがソルア国に……パラドグリスを………」

 フレッドリー司教はそんなはずは無いと途中で言葉を飲み込んだ。

 カイザル司教は微笑みながら……
「何を詮索しておる、儂は何もしらんぞ」

「そうだな、本当にソルア国に奴が現れたら噂の"堕天の聖女"がどう対処するやら見ものだな」

「奇跡的に"堕天の聖女"が対処できれば、噂は本当と言うことになる
 もちろん、対処できず助けを求めるなら正教会への派遣要請があるだろう
 その場合はソルア国からの寄付もそれなりに頂けると思うがな」

「派遣要請が遅れれば遅れるほど犠牲者は多数出ますが、よろしいのでしょうか?」

 カイザル司教は少し声が大きくなり手を広げながら……
「かの国は隠し事が多すぎるのだよ、少々の犠牲も仕方があるまい自業自得だ」

「本当にソルア国に現れるかどうかは別として
 聖女の派遣があると聞くが、例の調査も行るよう手配しておけ」

 フレッドリー司教はパラドグリスの話を聞きながら少し怖気づいていた。
 だが聖女の派遣の話になると気を取り直し。
「授業への支援には寄付も多額を頂いておりますからな
 今回はソルア国には適任者を行かせます、御存じでしょうか聖女クリエナです
 友人が堕天の聖女になったと言うことで”互助会”とやらを恨んでいると思われます」

「聖女にはあるまじき悪い感情だな……だが適任者と言えば適任者だな……」

「なお、後は王立スクールの学習支援なので生徒に合わせ同い年の聖女を数名派遣いたします」

「パラドグリスの件はお前自ら指揮し調査を続行しておけ」

「ソルア国の秘密の一部が明るみに出れば、また寄付が増えるな」
 カイザル司教は笑っていた……

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 王立スクールでは、この年度最後の剣技の授業である「聖女との連携」という剣技の授業が始まった。

 回復したばかりのラングが皆に説明していた。
「今年度最後の授業は霊との戦闘訓練である
 皆も知っての通り、霊との戦闘は通常の魔力での殲滅は難しい
 殲滅するには聖女様の”聖なる力”が必要になる」

 そう説明すると横に居る大人の聖女に一歩前出てもらう。
「今回引率してこられた聖女クリエナ様です」

「今回ラング先生と一緒に皆さまに授業をさせていただくクリエナです
 こちらに並んでいる3人の聖女が皆様と一緒に訓練を致します」

 そう言うと3人の聖女に自己紹介するように促した。

 3人は緊張しているのか判で押したような挨拶をした。

 最初は赤い髪が印象的な元気な子
「聖女サミエルです、よろしくお願い申し上げます」

 次は青い髪のメガネっ子
「聖女リリカです、よろしくお願い申し上げます」

 最後は聡明そうな大人しい子
「聖女シリオンです、よろしくお願い申し上げます」

 シェリルは聖女達の顔を見ながらニコニコしていた。
 クリシェ、サリアと共に授業の後に聖女様をお迎えする、お茶会の開催を準備していたからだ。

「では、聖女様の聖なる力と共闘するための方法と実践方法の説明から始める」
 聖女達の紹介が終わるとラング先生が説明を始め聖女との共同戦闘の授業が始まった。
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