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堕天の聖女

マグバリアン(3)『聖女救出②』

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「最初は大袈裟に、それがクリシェ流!!」
 そう言うとクリシェは気を溜め始め、気を溜め終わると一気に放出する。

「抜刀!!」

 気の斬撃は何時もより威力があり、小屋の戸を破壊するどころか小屋の前方に大穴を開けた。

 その後で大きな声で威嚇するクリシェ
「誘拐犯達、もう直ぐ王城から近衛兵が来ます
 すでに貴方達が悪魔の薬を作ろうとしていることもお見通しよ
 覚悟を決めて、大人しく縛に就きなさい」

 例の大男がやって来て古代宝剣を抜いてクリシェ達に迫ってきた。
「ほう、此処を見つけたのか凄いじゃないかお嬢ちゃんたち
 でも嘘はいけないな、近衛なんか何処にも居ないじゃないか……」

「まっ、薬のことを知られたんならしょうがないな
 お前達も薬の効果を確かめるための実験台にしてやろう光栄に思え
 さてと、結局大人しく捕まるのはそっちだよ」

 サリアがクリシェの先程と同じようにサポートに入ろうとしていたが、横から男が4人現れ、その内2人が魔法攻撃をして来た。

 ドドドドーン、ドドドドーン

 クリシェが叫ぶ。
「サリア全部で5人なのよ、ちゃんと警戒して動いて」

「5人掛かりに勝てるつもりなのか?」

 サリアに向けて剣を構えた男が襲い掛かる。

 カキーン、カン、カン、カキーン

 剣が交差しサリアに身体強化した大人が振る剣の重みが圧し掛かってくる。
「う~~~ん、やっぱり重いわね……」
 サリアは魔力を蓄え一気に爆発させるように魔法を発動する。
「身体強化」
 そう叫ぶとサリアの体は一気に1.5倍近くまで高速化した。

 高速化で1.5倍速と言うのは大人でも少ない。
 実はサリアは姫に勝ちたい一心から密かに練習をしていた。
 ところがシェリル姫はその上を簡単に越していった。
 だがサリア自体もシェリルと比例して増速効果が向上しており最近ついに1.5倍まで達していた。

 男はそこまでの速度を上げることが出来なかったためサリア攻撃に防戦一方となった。

 一方クリシェを相手にしている大男は剣をクリシェに向け対峙していた。

 カキーン

 古代宝剣と刀が交わり音を立てる。
「避けるのがうまいね、まともにこの剣を食らえばそんな鈍ら剣は切り落とされるよ」

「鈍ら刀ではありせん、その程度の宝剣であれば何のことはありません」

「試してやるよ……」
 そう言うと男は高速移動で剣を向けてきた。

 カキーン

 カン

 カキーン

 何度も剣と刀が合わさる音がするがどちらの武器も無傷だった。
 だが通常の剣で古代宝剣を躱すという意味ではクリシェの剣の腕の方が上であった。

 サリアの方は決着が着きかけていた。
 サリアは一気に止めを差そうと考えていた。
 しかし、そこへもう一人の剣を持つ男が駆けつけて来た。

 その男は呪文を叫ぶ。
「爆炎乱舞」
 その叫び声と同時に火のカーテンがまるで生き物のように走って来た。

 火には水である。
「爆水斬」、「爆水斬」、「爆水斬」
 ”爆水斬”の連続攻撃を掛けるサリア。

 そこへ3人の聖女達が走って来た。
 しかも、まるで電車遊びでもしているように3人が隙間なく列に並んでやって来た??

 声を掛ける
「行くよ!!、みんな!!」

「「おう!!」」

 男は3人を見ると驚いていた。
「お前たちいつの間に逃げた!!」

 だが男は馬鹿にしていた。
 なぜなら彼女たちが持っているのは、大きなヘラや匙であり武器では無いからである。
「これは可愛い戦士達、あんまり勇ましいとケガをするよ
 身体強化された大人にそんなものが効くと思っているのか!!」

 そう言うと、余裕があるかのように手を広げいつでも来いと手招きした。

 列の先頭であるシリオンが叫んだ。
「先鋒シリオン行きます!!
 "下段の構え昇竜斬”」

 その瞬間男の身体強化は下方向から魔力が一部無効化された。
 そのまま男の強化魔法の一部分は相殺され無効化した。

「なに!!」
 驚く男、だが聖女達の連続攻撃は止まらない。

「次鋒サミエル行きます!!
 ”上段の構え天雷斬”」

 その斬撃は先程の攻撃で残った男の魔力の残りを相殺し男の身体強化魔法は完全に失われた。

「お覚悟!!、リリカ決着を着けます!!
 ”八相の構え天地斬”」

 身体強化の防御は先の二人で破られ生身の体なった男に、リリカの鉄の棒が思いっきり叩きつけられた。

「うっ!!」

 その上、リリカの鉄の棒には”止めを差す”と言う意味で3人で入念に聖なる光が纏わせてあった。

 何重にも纏わされた聖なる光はまるでミルフィーユのような層になっていた。
 それは男の魔力と数層相殺をしても十分に残っていた。

 それを思いっきり叩きつけられたのだ、雷に撃たれた痛みと火で焼かれる熱さが一度に襲い掛かり、魔力もこの時失われた。
 男は動くことすらできない状態で倒れた。

 助けに来た男が倒されたので、結局サリアに対峙していた男はサリアの「爆水斬」により倒された。

「姫を守るために、姫に追い付かなければならなかった、その修練が役に立たわ……」

 そして聖女達を褒めるのだった。
「貴方達も良くやったわ、でも無理はしないでね……」

「あれま、聖女様にあっさりと、やられるなんてな……」
 そう言うと残りの2人も出て来た。

「おれはそうは簡単にはやられないぜ」
 そう言うと高速で動き出した。

 もう一人は丸い筒を投げて、呪文を叫んだ。
「アドアレスク、餌だぞ出てこい……」

 その筒からは煙が出てきたかと思うと2mはあるかという大きな魔獣が出現した。

 その姿を見たクリシェはサリアに叫んだ。
「アドアレスクだ、そのトカゲは古代魔獣ラプターだから毒を持つ、危ない聖女達を避難させるんだ」

 だが、サリアは高速で動き回る男の相手で手いっぱいだった。
「爆水斬」と何度も”爆水斬”を撃つサリア。
 だが爆水斬は当たるとカウンター魔法ではじかれサリアへの攻撃となって返って来ていた。

 迫る魔獣アドアレスク……

「ダメだわ、これではやられる……」
 サリアに絶望感が大きくなって来た……

 そのときなぜか、森が膨らみこちらに迫って来るような感じがした。
 そしてその迫って来るものの全身が視界に入るとサリアは驚きで声も出なかった。
 それはゆうに4メートルを超えている獣だった。

「グヮ~ォオ~ン」

 その獣はアドアレスクを睨むと大きく威嚇の声を上げた。
 威嚇の声は天地を咲くような叫び声であった。

 次の瞬間、大きな顎がアドアレスクに噛みついた。
 噛みついた獣はアドアレスクを何度も左右に振り地面に打ち付け、アドアレスクを食いちぎった。

「迂闊だった」
 そんな言葉が漏れるサリア。
 獣に注意を取られていたため高速で動く男の攻撃を認識できていなかった。

「短針雨」
 そう男が叫ぶと数百の短い針がサリアに向かって来る。

「しまった!!」
 そう叫んだ時には遅かった。

 絶体絶命のサリアの前に、いつもの影が出てきて全ての針を叩き落した。

「大丈夫だった!!、遅くなったわ!!
 ごめんなさい」

 そう声を掛けたのは、白金の槍を持ったシェリルだった。

「安心して、もうすぐモーゲンとアリエス兄様が近衛兵を連れて来るわ!!」

「さあ!!、いくわよ!!」
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