虎と僕

碧島 唯

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 夏休みは海へ前編――2

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 夕食後のコーヒーを飲んでた時に、昼間、東堂と約束した話を切り出そうとして、姉二人を見た。

 僕の一つ上の高校二年の秋音(あきね)、黙って座ればそこそこ見られるのに、どうにも口より手が早いのが玉に瑕。
 弟から見た感想なので評価は厳しいが、東堂がそこそこ有名人と言うように、僕が思うより美人の類に入るらしい。
 肩口くらいまでの髪は明るいブラウン、運動部系っぽく見えるが意外にも帰宅部だったりするが、体育会なんかではリレーの最終アンカーをしてたり、足は速い。
 運動神経は上の上で、成績は中の中から下という、体育会系美人という奴。
 そんな秋音は胸の無いのがコンプレックスらしい。
 ただし、それは身内の胸に比べて【無い】であり、普通くらいかちょっと無いくらいじゃないかと思われる。

 で、こっちにいる姉の夏海は逆に弟の僕でも恥ずかしくなるくらい胸が大きい。
 普通サイズのワンピースのチャックが胸から上がらないとか、大きいと可愛いブラがないとか、聞いてて恥ずかしくなる事をよく言っている。
 大学生の二年で、母が父の長期出張に付いて行ってる間、家のことはもっぱら夏海がしてくれている。
 両親が留守の間は、大学の単位は一年の間に取れるだけ取って余裕があるのか、家の事をしつつ、自動車免許を取って父が置いて行った車に乗って遠くの会員制スーパーに買い物に行くのが趣味らしい。
 料理の腕はかなり良い。作ってくれるご飯は美味しいし、おやつのお菓子も手作りだったりと、自慢の姉だ。
 綺麗で性格も大人しく、大和撫子ってこんな感じなのかなぁ、と夏海を見て思ったこともある。
 けど、彼氏はいないっぽい。

 僕が冬樹、一つ上が秋音、そして夏海で夏・秋・冬と名前が季節で分かるように、実は一番上にも姉が居る。一番上の姉は春香で、きょうだい揃うと春夏秋冬となる。

 長女の春香は社会人になっていて、会社の受付をしているらしい。
 会社が近いからとオートロックの女性専用マンションに住んでいて、週末に時折帰って来る。
 弟の僕が言うのも何だけど、美人でスタイル良くて、才色兼備とは姉の為にある言葉かってくらい、欠点が見当たらない人だった……対外的には。
 昔からラブレターとかもらっていたけど、今も仕事中に告白とかされたり、断るのに大変らしい。会社絡みとかだと断るのも大変なんだろうな、と愚痴を聞かされるだけの身としては、らしいとしか言えない。
 
 夏海は洗い物を終えてイスに座る所で、秋音はコーヒーのお代わりを作っていた。
「えっとさぁ、夏姉と秋姉は、夏休みに予定とかどう?」
 ここでデートがあって──なんて返事があったら諦めよう、と思ったら、どうやら二人共そういう色気のある話はいつも通り、無いようだった。
「特に決まってないわねぇ……、ちょっとバイトでもしてみようかなとかは思ったけど」
「私もこれっていう予定はないなー」
「あのさ、クラスの奴とかと、海に行かないかって話があって、姉さんたちもぜひって誘われたんだけど──」
「行く!」
「行くわ」
 即答で答えが返ってきた。
 日程も詳細もまだなのに、即答とは……。
「冬樹、私、なんだったら車出すよ、何人で行くの?」
 うちには父さんが乗っていた車が一台ある。
 一人暮らしをする前は春香が乗っていたが、通勤にはちょっと恥ずかしいらしく、休みの日だけの乗車だった。
 夏海も免許を取って、買い物とか乗ってはいるようだが……。
「……うちのあの車に6人乗れたっけ?」
「んー……どうだっかなぁ?
 そうそう、確かシートが3列あったから大丈夫じゃない?」
 何人乗りかは忘れたけど、えらくゴツい感じの車だったはず。
「シートが3列だから荷物もたくさん乗るし、うちの車で行こうよぉ。
 冬樹たちも電車賃無しで楽じゃない?」
 うん、それはそうだ。
 電車賃がいらなくなれば、その分、お土産とか他に回せるし。
「そういやうちの車って、何て名だったっけ?」
「確かー、ランドクルーザーって車に書いてあったよー」
 秋音が確か、と付け加える。
「そうそう、ランドクルーザーなんとかだったかなぁ。
 じゃあね、道とか高速とか、ドライブインとか調べておくから行き先教えてねぇ」
 夏海が楽しそうに目をきらきらさせながら言った。
 会員制スーパーで買い物が好き、という夏海は買い物全般が好きだ。
「じゃあ、夏姉、多分海になると思うから、ビーチボールとかシートとかタオルとか一緒に用意しといてくれる?」
「海いいよねぇ、楽しみっ。
 明日水着買いに行こうよぉ、秋音」
「行く行くっ!
 どんなのがいいかなー、夏海姉さんのファション雑誌見せてよ。
 今年って、どんなのが流行りなんだろう」
 既に水着の話になっていて、二人共僕の事なんか目に入ってないみたいだ。
 よっぽど楽しみなんだろうなとか思いながら、水を飲みに来たうちの猫を見て、はたと思い出す。
「出かける間の虎の事、どうしよう」
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