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夏休みは海へ前編――3
しおりを挟むうちの七番目の家族の虎、子供の頃からだから、猫としてはもう結構いい年になっているはずだ。身体の模様がシマシマのトラなので虎、と名付けられた。
そして、虎と僕の間の秘密が一つあった。
実は僕にはちょっとした霊感があって、なぜかしゃべるようになった虎と話が出来るようになっていた。
僕の霊感だってちょっとした、でたいした事はない。ちょっと視えるだけの能力で何の役にも立たない。これはまぁ、小さい頃からで家族は既に知ってる事だ。
けど、虎と話せることは誰にも言ってない。虎がそのほうがいいって言ったからだ。
『ん、冬樹、旅行にでも行くのか?』
「うん、夏休みに友達と遊びに行こうって、多分海かな。
で、うちの姉たちも一緒にって誘われててさ……」
『なるほどな。
別に、食事と水さえ用意しておいてくれれば、留守番でも一行に構わんぞ』
さらりと言いおいて、涼しい場所を探しに行く虎を見送る。
虎はそう言ってくれるけど、やっぱりなぁ。
……ペットホテルか、いっそ連れて行くか……。
それとも、猫でも人間ドックみたいな泊まりの健康診断とかあるだろうか?
明日、東堂に猫を連れて行っていいか聞いてみよう。
犬を海に連れていく人もいるんだし、猫を連れて行ってはいけないってこともないだろう。
まぁ、宿泊する場所がペット可だったら、の話なんだけど。
翌日、教室に入るといつもは始業ギリギリで来る東堂が珍しく居た。
「おはよう」
声をかけると、僕に気付いた東堂がひらひらと手を振ってくる。
「あのさ、海の話なんだけど──」
「それは、また後で。
他のヤツラに聞かれるとちょっとマズい」
口元でひとさし指を立てる東堂。
クラスの皆には秘密の企画だったらしい。
それもそうか、【クラス一可愛い委員長参加の旅行】なんて、知られたら参加者が続出するか、僕らは袋叩きになりそうだし。
「分かった、昼休みに屋上で──いいよな?」
「了解っ」
東堂の、敬礼めかした右手の動きに笑いそうになってしまう。
が、ここで笑い出すと目立つので──耐えた。
授業の間、ふと思い出しては笑いそうになって、いい加減耐えるのも限界じゃないだろうかという頃に昼休みのチャイムが鳴った。
夏海特製弁当を持って、東堂に先に行くとジェスチャーしてから教室を出て階段に向かう。
久しぶりに来る屋上は、空に雲が適度にあり、影が広がっていて、それなりに過ごしやすくなっていた。
「おー、風もあって気持ちいいかも」
屋上にあるベンチに座っていると、風が当たって気持ちいい。
東堂が遅れてやってきて、ふと誰も居ない屋上で男二人のランチって、ちょっと寒い図だなと思ったが、それは仕方ないかと諦めて二人でベンチに座って昼食を取る。
卵焼きをひとつ取られてしまったが、それは虎の事を話すのに我慢することにした。
「あのさ、東堂。
今度行く海の……コテージだっけ?
あれってさ、ペット連れてくのってありかなぁ」
「ペット? んー、ちょっと待って」
東堂がスマホを出して何やら読んでいる。
「あー、大丈夫かも。
ただし、犬はコテージ内には入れない事って書いてある」
「……猫は?」
東堂が更に携帯に目を向ける。
「猫は……と、トイレを管理事務所で借りて──、後始末をちゃんとしたらOKみたい」
東堂がコテージの規約をスマホで読んで教えてくれるには、どうやらペット可らしい。
これであとは、虎を連れて行っていいかを聞くだけだ、虎一人……いや、一匹を留守番には、なるべくならしたくない。
「で、どうして犬猫可かどうかを気にするんだ?」
来た、これで切り出さないと話が進まない。
「あのさ、東堂。
実は──姉二人共参加OKなんだけどさ、そうなるとうちの猫の世話をする人が居なくなるんだ。
うちは今、僕と姉二人で暮らしてるわけだから──」
「ああ、そっか。
お前の家って、親父さんたち海外だっけ?」
「うん……それでうちの猫、連れてっても構わないか聞きたくてさ……。
で、どうかな……うちの猫、聞き分けはいいし、大人しいんだけど」
僕が言った途端に東堂が吹き出した。
「聞き分けいいって、なんだよそれ、犬みたいだな」
う……、まぁそうだよなぁ……。
普通は猫に聞き分けがいいとかって言わないだろうし。
「いいんじゃないか?
委員長と紫藤さんが猫嫌いとかアレルギーとかないか聞いてみるよ。
俺は、猫好きだよー、ふかふかして柔らかいし」
いや、うちの虎は、男はどうでもいいらしいから、東堂に懐いてってのはまずないだろうと思う。
けど、それは別に今言わないでもいいよな、うん。
「助かるよ、東堂」
礼を言っていると、まだ残っていた弁当のから揚げを取られてしまった。
代わりに東堂の弁当から何か取ってやろうかと思ったが、男二人で弁当のおかずの取り合いとか……やっぱりちょっと寒い図なのでやめた。
予鈴が鳴って、そろそろ午後の授業が始まるというので弁当を片付けて、教室に戻る準備をしていると、女の子が二人、僕らの方をちらちらと見ながら気まずそうに、そそくさとドアから出て行った。
ひょっとしたら、誰も居ないと思ってたのに、先客が居たんだろうか、そして、おかずの取り合いを見られてた?
何だかなぁ、ともやもやした気持ちのままため息をついて、知らない女生徒だし、まぁいいかと思うことにした。
あ、忘れないうちにこれも言っておかないと。
「そうそう、東堂。
夏姉がさ、車出してくれるって。
行き先の住所とか地図とかあったら早めにくれると助かるよ」
「まじ?
ラッキー!
電車で行かないで済むなら、こっちこそ助かる!
でも、いいのか?」
「うん、夏姉から言い出した事だし。
ただ──車は派手だから、覚悟しといてくれ。
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「へぇ、それは便利だなぁ……。
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