4 / 39
夏休みは海へ前編――4
しおりを挟む放課後、委員長が僕の机に来て、ぽんぽんと肩を叩く。
途端に周りの男共の視線が一斉に向いて、注目を浴びる。
「何、委員長?」
「あのね、城見くん。
帰りにちょっと付き合ってもらっていい?」
「えっ?
う、うん、いいけど、何?」
「あ、付き合ってじゃなくて、お家にお邪魔してもいい?」
「へ?」
委員長の言葉に、いやに間抜けな声が出てしまった。
「お姉さんにお礼を渡してもらいたいし、その……猫ちゃんに会わせて欲しいなって」
ああ、車の件と、猫か。
びっくりした、寿命が縮まったかと思った。
それにしても、猫に合わせてって言う委員長の、少し赤くなった頬が照れているようで可愛い。
「ああ、それなら大丈夫、夏姉も今日は午前中で帰って来てるはずだし」
「よかった。
じゃあ、途中でお土産買うから寄り道してね」
ぽんっと両手を叩く仕草に見惚れそうになり、くるりと背中を向ける委員長のスカートの裾がひらりと翻って、胸がどきりとする。
話が終わると教室がざわざわしていて、気のせいか、やけに背中が痛かった。
僕が委員長と一緒に帰るのに気付いた奴らの視線が、突き刺さって、何であんな奴と、とか言う声まで聞こえる。
いや、別に僕目当てってわけじゃないし!
委員長は家の猫と姉に会いたいだけで──。
でも、誤解を解く為に何故かっていうのを言えば、更なる嫉妬を産みそうだし──。
とりあえず、自然に、あくまで自然に、たまたまだという感じで振舞おう。
教室から出るまで視線が痛かったが、さすがに廊下を曲がるとそれも無くなった。
家は学校から近いのだが、委員長の言われるまま遠回りの道を二人で歩いて、つかず離れずの距離が妙に緊張する。
「あ、城見くん、あの店。
あの店のチーズケーキが美味しいのよ」
何やら可愛らしい外観の店に、僕の返事も待たずに委員長は入って行き、ぼんやりと待っていると、楽しげにケーキの箱を持って出て来た。
「城見くんのお姉さん、チーズケーキ好きかなぁ?」
「うん、好きだな。
というか、嫌いなケーキがあるって聞いた事が無いよ」
姉だけでなく、僕も虎もチーズケーキは好きです。
──聞かれてないけど。
校門を出てから、遠回りのケーキ屋を経由して、家に着いた。
委員長を伴ってドアを開けると、珍しく虎が向かえに来ていた。
「きゃあ、可愛いっ!」
中に入った途端に目に入った虎に、委員長が喜んで手を伸ばす。
その手に、躊躇なく擦り寄る虎。
相変わらず、女の子が好きだよなぁ……。
「わぁ、綺麗な目……黄色……ううん、金色?」
擦り寄る虎に気をよくした委員長が、虎を抱き上げている。
「おかえり……って、お客さん?」
玄関に出て来た夏海が、虎を抱いている委員長を見て驚いた声を出す。
「ただいま、夏姉。
今度の夏に、一緒に海に行くメンバーの一人の委員長。
委員長、うちの姉の夏海」
とりあえず紹介をする。
「こんにちは、初めまして。
クラスで一緒の相澤真奈美です。
夏の旅行では、運転もしていただけるということで、お礼とご挨拶に来ました」
よくよく考えたら、そういうのは企画の東堂がするべき挨拶じゃないんだろうか。
さすが委員長というか、なんというか。
「相澤さん、よろしくね。
ここじゃ何だから、奥にどうぞ」
委員長に客用のピンクに花柄のスリッパを用意して、上がってもらう。
委員長は片手に鞄とケーキの箱、片手に虎を抱いている。
『冬樹、彼女か?』
虎が委員長の腕の中から振り返ってにやりと笑うのに、首を横に振る。
リビングの横を通ると、既に和気藹々と二人が話していて、僕が居なくてもいいんじゃないかという雰囲気をかもし出している。
まぁ、もともと委員長は僕の客として来たというよりは、姉と虎の客だから別にいいか、とそのまま部屋に行くことにして階段を上る。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる