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イケメン女子高生とストーカー
しおりを挟む夏休みに一緒に行くことになった紫藤さんとの出会いを思い出してみる。
あれは、まだ新学期になって、クラスの皆の名前と顔とが一致した頃だった。
一番仲のよかったのは、最初に話しかけて来た前の席の東堂で、隣の席の委員長とも緊張せずに話せるようになった頃。
僕は霊感があるだとか、視えるとかそんな話をしたりしてはないのに、なぜか僕の所に相談があると言って来る生徒が何人かいた。──それも大体女生徒が。
どこからそんな話が回っているのか、何でだろうと思っていたんだけど、身に覚えのない僕にはさっぱり分からなかった。
「城見くん、あの……ちょっと相談が」
クラスで一番可愛いと噂の委員長が窓側の席に居る僕に話しかけて来た。
癖なのか少し首を傾げていて、座っている僕が見上げると髪の揺れる胸元に視線がいってしまって、慌ててもう少し上へと顔を上げる。
長いまっすぐな黒髪が腰の辺りで揺れている姿が可愛くて見惚れそうになる。
ほんのちょっぴり期待しつつ、不自然になってないか気にしながら笑顔を向ける。
「委員長、何?」
「実は……、その……」
困ったようにはにかむ委員長の頬が少し赤らんでいて、まさか告白? とか心臓がドキドキと音を立てて鳴り始めた頃に、それはあっさりと裏切られた。
「私の友達なんだけど、写真に霊が写ってるのを見てからいつも誰かに見られてる気がするって言うの。
一度、話をしてもらえると嬉しいんだけど……だめかな?」
言いにくい話を出来たとばかりに、ほっとしたように髪をかき上げる仕草に、小さくて可愛い耳がちらりと見えて、話の内容にはがっかりしたけど、ちょっと得した気分になった。
「……委員長、なんでその話を僕に?」
また霊絡みかと思いながらも、うんざりした顔をしないようにして、委員長を見る。
「あ、東堂くんが、そういう話なら城見くんがいいだろうって」
「──っ」
思わず、ちっ、と舌打ちをしそうになった。
「……とーどー……」
低い声でちらりと離れた席の奴と遊んでる東堂実篤を見ると目があって、何の真似だか舌を出して片目を瞑って手をひらひらと振られた。
「てへぺろのつもりかよ……ったく」
東堂の可愛い子ぶった様子に委員長が横にいるにも関わらず、ついため息をついてしまう。
可愛い女の子がやるならまだしも、お前がやっても可愛くないし、似合わないからやめろっていつか言ってやろう。
東堂の奴に、僕が霊関連に強いと知られたのは、僕の一つ年上の姉、秋音のうっかりのせいだった。
以前、東堂に、秋音が「飛んでっけー♪」と歌いながら霊(視える人には投げられて泣きそうな顔で飛んでく霊が、視えない人には投げてる振りにしか見えない)を空に向かって思いっきりブン投げるのを見られた事があって、あれは何だ、お前の姉さんは何をしてたんだ、などと追求されたのがこの面倒でいて、気の進まない心霊相談室のきっかけだった。
――まぁ、受けた以上はちゃんとしてはいるんだけど。相談の大半が気のせい、勘違いで本物なんか一件もないからやってるだけなのかも知れない。
別に女子にばかり相談されるからやってるってことじゃ……ないと、思いたい。
「あ、ごめん委員長、で……その友達とはいつ会えばいいのかな?」
とりあえず、委員長と今よりもっと仲良くなれるかもってチャンスだし──いや、委員長の頼みだし、と相談を先に続けてもらうことにした。
「本当っ、良かったぁ。
じゃあ放課後に──部室に来て……」
委員長のクラブは、どこだったかな、と思い出そうとして──。
「あ、ううん、やっぱり教室で。
遅れて来る子とかいたら話しにくいし」と続けられた。
そうだ、委員長のクラブはテニス部だった。
あの短いスカートいや、スコートから覗く足が眩しくて、とてもテニスコートの近くになんて行けないし、行けば多分、おそらく、絶対に、痴漢扱いされる女子テニス部だ。
テニス部は部室=更衣室で、とてもじゃないが、まともな神経ならお邪魔出来ない場所だった。
委員長とその友達がいたって、他の部員に痴漢扱いされないとは限らない。
──というか、絶対疑われる!
運動部の女子部の部室棟は、ほぼ間違いなく女子更衣室だから、そんな所をうろうろしていたら、痴漢や覗きを疑われても仕方ないだろう。
そのテニス部の部室にか、と怯えかけた時に訂正されて、密かに残念ながらもほっとする。
授業終了のチャイムが鳴って、掃除も終り、教室から人気がなくなって僕だけになった。
──気が重い。
本当はこういった話には極力関わりたくないのに、うっかり引き受けた心霊関係の相談。
今までは本物の心霊相談もなかったのが不幸中の幸いってもんだけど、祓う力もないし、視るしか出来ない僕に相談されても、何の解決にもならないのにと思いながらも、授業の終わった教室で委員長とその友達とを待っている僕。
ため息が出ては肩を落としてしまう。
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