虎と僕

碧島 唯

文字の大きさ
6 / 39

イケメン女子高生とストーカー

しおりを挟む

 夏休みに一緒に行くことになった紫藤さんとの出会いを思い出してみる。
 あれは、まだ新学期になって、クラスの皆の名前と顔とが一致した頃だった。
 一番仲のよかったのは、最初に話しかけて来た前の席の東堂で、隣の席の委員長とも緊張せずに話せるようになった頃。
 僕は霊感があるだとか、視えるとかそんな話をしたりしてはないのに、なぜか僕の所に相談があると言って来る生徒が何人かいた。──それも大体女生徒が。
 どこからそんな話が回っているのか、何でだろうと思っていたんだけど、身に覚えのない僕にはさっぱり分からなかった。


「城見くん、あの……ちょっと相談が」
 クラスで一番可愛いと噂の委員長が窓側の席に居る僕に話しかけて来た。
 癖なのか少し首を傾げていて、座っている僕が見上げると髪の揺れる胸元に視線がいってしまって、慌ててもう少し上へと顔を上げる。
 長いまっすぐな黒髪が腰の辺りで揺れている姿が可愛くて見惚れそうになる。
 ほんのちょっぴり期待しつつ、不自然になってないか気にしながら笑顔を向ける。
「委員長、何?」
「実は……、その……」
 困ったようにはにかむ委員長の頬が少し赤らんでいて、まさか告白? とか心臓がドキドキと音を立てて鳴り始めた頃に、それはあっさりと裏切られた。
「私の友達なんだけど、写真に霊が写ってるのを見てからいつも誰かに見られてる気がするって言うの。
 一度、話をしてもらえると嬉しいんだけど……だめかな?」
 言いにくい話を出来たとばかりに、ほっとしたように髪をかき上げる仕草に、小さくて可愛い耳がちらりと見えて、話の内容にはがっかりしたけど、ちょっと得した気分になった。
「……委員長、なんでその話を僕に?」
 また霊絡みかと思いながらも、うんざりした顔をしないようにして、委員長を見る。
「あ、東堂くんが、そういう話なら城見くんがいいだろうって」
「──っ」
 思わず、ちっ、と舌打ちをしそうになった。
「……とーどー……」
 低い声でちらりと離れた席の奴と遊んでる東堂実篤を見ると目があって、何の真似だか舌を出して片目を瞑って手をひらひらと振られた。
「てへぺろのつもりかよ……ったく」
 東堂の可愛い子ぶった様子に委員長が横にいるにも関わらず、ついため息をついてしまう。
 可愛い女の子がやるならまだしも、お前がやっても可愛くないし、似合わないからやめろっていつか言ってやろう。

 東堂の奴に、僕が霊関連に強いと知られたのは、僕の一つ年上の姉、秋音のうっかりのせいだった。
 以前、東堂に、秋音が「飛んでっけー♪」と歌いながら霊(視える人には投げられて泣きそうな顔で飛んでく霊が、視えない人には投げてる振りにしか見えない)を空に向かって思いっきりブン投げるのを見られた事があって、あれは何だ、お前の姉さんは何をしてたんだ、などと追求されたのがこの面倒でいて、気の進まない心霊相談室のきっかけだった。
 ――まぁ、受けた以上はちゃんとしてはいるんだけど。相談の大半が気のせい、勘違いで本物なんか一件もないからやってるだけなのかも知れない。
 別に女子にばかり相談されるからやってるってことじゃ……ないと、思いたい。

「あ、ごめん委員長、で……その友達とはいつ会えばいいのかな?」
 とりあえず、委員長と今よりもっと仲良くなれるかもってチャンスだし──いや、委員長の頼みだし、と相談を先に続けてもらうことにした。
「本当っ、良かったぁ。
 じゃあ放課後に──部室に来て……」
 委員長のクラブは、どこだったかな、と思い出そうとして──。
「あ、ううん、やっぱり教室で。
 遅れて来る子とかいたら話しにくいし」と続けられた。
 そうだ、委員長のクラブはテニス部だった。
 あの短いスカートいや、スコートから覗く足が眩しくて、とてもテニスコートの近くになんて行けないし、行けば多分、おそらく、絶対に、痴漢扱いされる女子テニス部だ。
 テニス部は部室=更衣室で、とてもじゃないが、まともな神経ならお邪魔出来ない場所だった。
 委員長とその友達がいたって、他の部員に痴漢扱いされないとは限らない。
 ──というか、絶対疑われる!
 運動部の女子部の部室棟は、ほぼ間違いなく女子更衣室だから、そんな所をうろうろしていたら、痴漢や覗きを疑われても仕方ないだろう。
 そのテニス部の部室にか、と怯えかけた時に訂正されて、密かに残念ながらもほっとする。

 授業終了のチャイムが鳴って、掃除も終り、教室から人気がなくなって僕だけになった。
 ──気が重い。
 本当はこういった話には極力関わりたくないのに、うっかり引き受けた心霊関係の相談。
 今までは本物の心霊相談もなかったのが不幸中の幸いってもんだけど、祓う力もないし、視るしか出来ない僕に相談されても、何の解決にもならないのにと思いながらも、授業の終わった教室で委員長とその友達とを待っている僕。
 ため息が出ては肩を落としてしまう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

処理中です...