虎と僕

碧島 唯

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 夏海と肝試し――4

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「冬樹、これ何?
 何だか……力が湧いて来るような……、それに……ぼんやりだけど、階段の上に黒い影が見えるよ?」
「え?」
 確かに階段の上には、僕らを待ち受けてるような悪意の塊のような気配の奴が居た。
「秋姉、視えるの?
 今まで視えた事もないのに」
 何で今?
 何で急に視えるようになって──数珠……の力なのか?
 秋音が数珠を持った途端だし、数珠が視えるようにしているのか?
「多分、その数珠のせいだと思う、持ってたら助けになるって言われたし」
 にやり、とちょっと悪い顔で秋音が笑ったと思ったら、階段を一気に駆け上がって、秋音の言う黒い影に蹴りつけていた。
「あ……」
「シューットッ!
 どこにあるか分かればこっちのもんだもんねー」
 ……秋音……悪意の幽霊をボール扱いか……?
 シュートはやめようよ、シュートは。
 まがりなりにも、元は人間なんだし。
 ──多分。
「秋姉―!
 あんまり荒立てるのは……」
 さっさと探して、さっさと帰ろうよ、僕らが侵入者で、静かに暮らしてた彼らにとっては迷惑なんだから。
 まぁ、襲って来られたら反撃するか、逃げるしかないんだけど。
 しかも今回は四人を探して連れ帰るって仕事があるから、実は二択じゃなくて一択しかないんだよなぁ。
 怖いものがいるって忠告されたんだから、きっと蹴り飛ばされた奴とは別格のが居るはず、と用心しながら二階に着く。
「えーと、ナースステーションは、と……」
 懐中電灯で照らすと、それらしいカウンターが見えて、カウンターから中を照らすと転がってる足が見えた。
「居た!
 秋姉、皆居たよ、手伝って……って何やって……」
 いやに静かだと思いきや、秋音が、多分怖い奴という幽霊と格闘していた。
「今っ、取り込み中―っ」
 上段に蹴りを放ちつつ、秋音がこっちを見ずに言い、僕はがっくりと肩を落とした。
 いや、まぁ……確かに、そいつは凶悪な幽霊で、僕らに害をなそうとしてたんだろうって分かる顔をしてるけど、何で幽霊と格闘なんてハメに……。
 僕が四人を見つけるほんの少しの間に、いったい何が……。
 秋音に比べ、はっきりと見える僕には、まるで【刃物を持った凶悪犯と戦う少女の図】といったものが視えていて、秋音はぼんやりとした影に見えていいよな、なんて思っていた。
 ふう、とため息を着いて、とりあえずカウンターを乗り越えると一番近い足首を掴んで引っ張り出すことにした。
 とりあえず、と四人を順番に通路に出していくのだが、流石にスカートを履いた女性の場合は上半身を起こして、起きないか試してみる。
 女性を足から引きずったら、後で絶対何か言われる。
 四人を通路に引っ張り出して、秋音を見ると、まだ決着が着いてなかった。
「秋姉―、夏姉も待ってるし、もういいんじゃないの?
 四人も見つかったしさぁ……」
 数珠を手にしたまま拳を振るう様は、まるでメリケンサックを付けてるようで、うちの姉はこんなに凶暴だったろうかとか考えて、ため息をついてしまう。
 秋音を見れば、メリケンサックにされた数珠が幽霊に触れる度に光って、幽霊の形を削っているように見える。
 それに、無傷の秋音に比べ、幽霊が随分憔悴しているような──。
 今までは、こんな悪霊って言ってもいいような幽霊と対峙したことはなかったけど、秋音にそこまでの力はなかった──と思っていただけに、あっさりと勝ってしまいそうな雰囲気がとても不思議に思える。
 秋音は秋音で、ここで倒しておかないと、下まで追って来られて、病院から出られないのではとか思ってるのかも知れないと思い当たり、僕一人で、夏海の友達四人を何とかしようと思ったが、取り合えず手近の男に起きてもらおうと揺さぶってみる。
「ねぇ、起きて下さいよ」
 両肩を掴んで大きく揺さぶると、うめき声が漏れて、これなら起きて自分で歩いてもらえるかもと、頬を強めに数回、叩いてみる。
「うっ…………」
 薄目が開いたのに気付いたが、手が途中で止められなくて、強く頬を叩いてしまう。
「うわぁあああっ!
 来るなっ、来るなーっ!」
 目が開いた途端に叫び出す目の前の人に、どうしたら正気に戻るかと一瞬考えて、てっとり早く頬をもう一発、思いっきり引っ叩いた。
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