虎と僕

碧島 唯

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 夏海と肝試し――3

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 暗闇に目が慣れて来て、懐中電灯の範囲以外も薄っすらと見えるようになった辺りで、周りの空気も少しずつ変わって来る。
 ゆらりと、秋音の方に白すぎる腕が天井から長く伸びて来ているのが目に入り、秋音に伝える。
「一歩下がって上!」
 僕の指示通り、一歩下がって上に手を伸ばした秋音が空を掴んで──僕には白い腕を掴んでるのが視えているが──思いっきりぶん投げる。
 ぶん投げた先で、何やら壊れた音がガチャンガチャンと派手な音がする。
 へぇ、何かに当たって壊した音がするってことは……ひょっとして痛かったりするのかな?
「どう冬樹、いける?」
「うん、大丈夫そう」
「なら、心配ないねーっ」
 ははっと笑って、秋音が腕をブンブンと準備運動のように振り回す。
「多分、返事もないし、この音でも気付かないってことはさ、大谷さんたち気絶してるのかなぁ……、秋音は何人運べる?
 あ、引きずってでも一度に運ぶ方がいいよね、きっと」
 こんな瓦礫とかガラスとかあるのに引きずっては、ちょっと酷いかな……でもやっぱり一度に運ぶほうがいいと思うんだ。
 とりあえずさっきの秋音のぶん投げたので、周りに視えてる幽霊たちは戸惑ってるのか、近寄って来る様子はない。
 まぁ、本来なら静かに暮らしてる? 所を邪魔されてるんだし、ある意味彼らの方が被害者なんだろうけど、僕らは彼らにとっての侵入者を外に出す為に来てるんだから、あまり邪魔はしないで欲しいんだよね。
「うーん……、やっぱり闇雲に探すってのもあれだよねぇ……」
 外から見た感じ、5階建てくらいの建物に見えた。
 正直、あてどなく探して回るのは辛い。
「えっと……」
 見渡すと、比較的穏やかな、というか怯えた顔をしている幽霊が、おずおずとこちらを見ているのが視えた。
「こほん、えー、僕らは君たちに危害を加えたりするつもりはなくて、たださっき入った四人を探してるだけなんだ。
 どっちに居るか教えてくれたら、その四人を連れて出て行く。
 そしたらまた元通り静かな君たちの暮らしに戻れるから、早く出て行く為にも出来れば協力して欲しい」
 ああ、何だか彼らがどうしよう、どうする? なんて相談し始めたのが分かる。
 侵入者はとっとと出て行けって意見に纏まって、四人の居る場所を教えてくれたりするといいなぁ……と思ってたら、さっきのおずおずとした幽霊が指を二階に向けて差していた。
『上……二階……ナー……ス……ステー……ション』
 弱弱しい声が、二階のナースステーションに四人が居ると教えてくれた。
『でも……上……キケン……』
「ありがとう!
 四人を見つけたらすぐ出ていくからね」
 夏海に上だと合図して、階段を上り始める。
 階段の踊り場で、振り返ったら、幽霊たちは視えなくなっていた、きっとどこかに隠れたんだろう。
「秋姉、二階にはちょっとヤバいのが居るらしいから気をつけて」
 踊り場から一段上に足を掛けた時に言うと、秋音が何やら僕の胸元をじっと見ているのに気付いた。
「秋姉?」
「冬樹、ポケット……。
 ポケットが光ってる」
 ポケットと言われて、ミナミの母様からの数珠を入れていたのを思い出して、ポケットから袋を取り出すと、白い袋がぼんやりと光っていた。
「……なんで光り出したんだろう」
 袋から数珠を取り出すと、光は数珠本体から出ていて、青く光っていた。
「きれーい……何それ、何で光ってるの?」
 秋音が興味津々で数珠に手を伸ばして触れようとして、珠の一つに指が触れた瞬間、パアッと青い光が白く輝いた。
「うわっ……眩し……」
 秋音が数珠に触れていると、青ではなく、白い光を放っていて、ちょっと神々しく見えた。
 まぁ、お稲荷様からもらったものだから神々しいって言っちゃあ、そうなのかも知れないけど。
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