虎と僕

碧島 唯

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 夏海と肝試し――2

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 廃病院に行く道は、運よく渋滞もなく、山に入る道までは何もなく走れていたが、山に入る道に入った途端、道路の照明が少なくなって、いかにも普段人通りがありません、といった雰囲気をかもし出していた。
 山道に入ってから、数分で、廃病院の側まで来て、車の明りが見えた。
「秋姉、あの車じゃないか?」
「多分、そうだと思う、他に車もないみたいだし……」
 車の側でバイクを止めると、車の中から夏海が出て来た。
「秋音、冬樹―っ!
 皆、まだ出て来なくって。
 それに、携帯も出てくれないのぉ……」
 泣きそうな夏海が、携帯を握り締めながら僕と秋音に抱きついて来る。
 よっぽど不安だったんだろう、泣いた痕が頬にあった。
 夏海を秋音に任せて、一応男の僕が中の様子を見て来ようか……、でも何か居たら嫌だな……というか、僕では対処出来ないんじゃあ……とか、考えていると、秋音が口を開いた。
「夏姉さんはとりあえず、車の中に居て。
 私と冬樹でこんなとこで肝試ししようなんて、そのバカな友達を引っ張って来るから」
「懐中電灯はとりあえず家で一番大きいのを二つ持って来たよ」
 電池は確認してあるし、と一つを秋音に渡す。
 こういう時、行動力とか肝っ玉とか、秋音には敵わないなと思う。
 僕より男らしいよね、秋音って。
「じゃあ……二人とも気をつけて……」
 夏海に安心させるように笑って手を振って、廃病院に向かう。
「……ねぇ、冬樹、何か見えたら教えてよね」
「うん……けど、何も居ないといいなとか思ってるんだけどね……」
 でも、そうすると何で夏海の友達が連絡も取れなくて出て来ないのかが分からない。
 怪我でもしたんならさっさと出て来るだろうし、本当に何をしてるんだろう。
「確か四人だっけ……さっさと探して連れて帰ろう」
 もし錯乱でもしてたら、その時は秋音が黙らせるだろう、腕付くで。
 その代わり、気絶したら運ぶの大変だろうな、なんて考えていたら、廃病院の玄関ホールに着いた。

 玄関ホールの中で周りを見渡す。
 真っ暗な中で、懐中電灯の明りで見える範囲には四人の姿は見当たらない。
「おーい、誰か居ますかー?」
 一応、大きな声で呼んでみるが、言い方を間違えたかも知れない。
 誰か、じゃマズいんじゃあ……なんて思ってると、元は受付だった所から手の影が見えてしまった。
「あー……と、違った、やり直し。
 確か……大谷さーん、とそのお友達の方―!」
 夏海の友達の一人は、確か大谷さんという名前だったなと言い直す。
 そう、他の誰かなんてのは呼ぶ必要もないし、呼びたくない。
 けど、ちょっと遅かったかも知れない。
「秋姉、ごめん。
 ちょっと違うの呼んじゃったかも」
「うーん、仕方ないなぁ。
 何とかなる……といいんだけどねぇ」
 何も怖くないぞ、みたいな感じで飄々と指をパキペキと鳴らしながら口にする秋音。
 視えないっていいなぁ。
「んじゃ、誘導よろしく」
「イエス、マムっ」
 ちょっとでも場を明るくしようと敬礼しつつ言うと、秋音に殴られた。

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