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夏海と肝試し――7
しおりを挟むバイクで帰宅すると、先に帰宅していた夏海が出迎えてくれて、なぜかリビングで薫さんがお茶を飲んでいた。
「帰ってきたら家の前で秋音を待ってるって言うし、外も暑いしって入ってもらったのぉ。
秋音のお友達でしょ?」
「お邪魔してます」
秋音はびっくりした顔のまま、薫さんにバイクのキーとヘルメットを手渡していた。
「ずいぶん長い間、家の前で待ってたんじゃない?」
「いやぁ、明日の朝バイクを使うのを忘れててね、じゃあこのまま戻って来るのを待ってようかってことにしたんだよ」
薫さんは見かけの割りにはオネエ言葉とかじゃなく、中身は普通の男の人のようだった。
服もよくよく見たら、ライダースーツとかじゃなくって、ただの黒シャツと黒いジーンズで、女の人に見えたのは、背中まである髪の長さと、ハンサムというよりは線の細い美人といった方がいい、そんな顔立ちのせいだった。
立っていると、秋音より背は高いが、秋音より華奢そうに見えたのが、勘違いの原因かも知れない。
虎はと言えば、無関心を装いながらもリビングに居て、時々薫さんを眺めていた。
薫さんはお茶を飲み終えると、夏海の焼きたてクッキーを手土産に、バイクに乗って颯爽と帰っていった。
「夜も遅いし夕食でも、とは言ってみたんだけどね。
帰っちゃったわねぇ」
夏海が残念そうに言っている。
基本的にお客とか人をもてなすのとか、好きなんだろうなぁ。
ともかく、これで問題解決とばかりに、行儀悪く床でコーヒーを飲んでいると、虎が近寄ってきた。
『冬樹、ミナミに聞いたが大変だったようだな』
「あー……うん、ちょっと大変だったかも。
ミナミのこれがなかったら、もっと大変だったかも知れない」
『話には聞いていたが、ちょっと見せてみろ』
虎とこそこそと会話していると、数珠を見せろと言われてポケットから取り出す。
色は相変わらず、青か緑が移り変わるような、何ともいえない色ではあったけど、少しも光ることはなかった。
『……多分、だが──増幅器みたいな物かも知れないな。
ミナミから聞いたところによるとそいつは"御力宝珠"というらしい』
「へ……みじからほうじゅ?」
『おんちからのたからのたま、と書く』
「それで力の増幅って?」
『まぁ、ミナミにもよくはわかってないらしいから、確かな事は言えんが。
……使ったんだろう、どうだった?』
「光ったのを持ってたら、秋音がぼんやりだけど、視えるようになって、僕の場合は追い払うというか……、あっ、そうだ僕に襲い掛かってきた長い爪の先は消えて無くなってた。
今は元通り光らなくなってるけど」
『やはり、な。
冬樹、それは大事に扱った方がいいぞ』
「うん……。
ところでミナミは?」
『お前の部屋にいる。
知らない人がいて怖いから行かないと言っててな。
部屋で大人しく横になっていた』
「あはは、知らない人って言ったって、お客さんは一人だけなのにね」
『まぁ、お前たちが皆、無事でよかった』
「うん……ありがとう、虎」
虎が心配してくれてたのが胸に沁みる。
『ところで、冬樹』
「うん、なぁに虎」
何だか心がほっこりして、機嫌よく返事をする。
『そろそろ腹が空いて仕方がないんだが、飯はまだか?』
うう、今までのほわんとかしてた気分が台無しな感じだ。
「今用意する……」
『そうそう、ミナミはお腹が空いて動けませんって言ってたから、持ってってやってくれ』
ああ……、ミナミは人見知りだけじゃなく空腹で動けなかったのか……。
虎に缶詰を開けてから、ミナミに夏海の焼きたてクッキーを何枚か持って行き、それからしばらくして夕食が出来たと言われて、食事になった。
それにしても、今日は大事に至らなくて良かった。
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