踏切。

第２章

犬の物語

少し進んだとき。

ワンッ！

犬が吠えた。
犬？
食肉目イヌ科の哺乳類？
なんで？
ここ異世界だろ？
犬とかいるのか普通？

ワンワンッ！

犬は吠える。
吼える。
咆える。
吠え続ける。
ずっと見ていると、何か違和感がある。
どこかが違う。
なんだろう。
こういうとき普通は

   たたかう   にげる   あいてむ

みたいなのが出るんじゃ？
いやちょっと待てよ“あいてむ”？
おじいさんに何かもらったような。
ポケットの中を漁る。

むにっ

何か柔らかい丸いものを取り出す。
……団子？
うんまぁあれだ。
白玉粉を水に溶かして固めたようなやつだ。
お月様にお供えするやつだ。
多分。
これどうするんだ？

「その吉備団子をくれたら仲間になってあげてもいいのですけれど？」

犬が喋ったあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！
今喋ったよな？
犬が日本語話したよな？
俺の妄想とか幻覚とか空耳とか夢オチとかそういうのじゃないよな？
確かに喋ったよな？
絶対喋ったよな？
俺ははっきり聞こえたぞ？
鼓膜が震えたぞ？
でも今なんて言った？
衝撃が強すぎて忘れてしまうという事故。

「早く吉備団子を寄越しなさい」

上から目線で犬が喋る。
吉備団子を出す。
消える。
……ん？
犬を見ると、もぐもぐと口が動いている。
速っ！
今の速すぎだろ見えなかったぞ？

「仕方ありませんね。そこまで言うのでしたら仲間になってあげましょうもぐもぐごくん」

そこまで言ってないけどな。



テッテレー
犬   が   なかま   に   なった   ！



「それにしても暇人ですね」

なにがだよ。

「こんなところに来るなんてよっぽどの暇人か封印されし闇ですよ」

なんだ封印されし闇って。

「又の名を自宅警備員と言います」

ニートかい！

「ニートじゃないんですか？」
「ニートじゃねえわ！」
「そうなんですか？意外ですね」

なんだ意外って。
どんな風に見えてるんだ俺は。

「じゃあ最近流行っているリア充でしょうどうせ？イチャイチャしに来たんでしょうどうせ。彼女さんとかいらっしゃるんでしょうどうせっ！！」

何キレてんだよ。

「俺は今彼女いねーよ」

そして絶賛片恋中だ。
叶わない恋を、している。

「彼女いない歴が百億年くらいでしょうね。貴方だったら！」

なんでいきなり上からくるんだよ。
お前の性格まぢで読めねー。
ってか宇宙ができる前から彼女いないのか俺は！
すげえな俺！
……言ってて悲しくなってくる。

「ちなみに私は72秒ですけどね！」

今さっき別れたのかよ。
犬の表情筋で無理してドヤ顔すな。



俺は進む。
犬とどーでもいいことをどーでもよく話しながら。
終わりは見えてこない。