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風枝ちよ

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という夢を見た。
花の蕾に注いだはずの俺の遺伝子たちはやはりパンツの中で彷徨っていた。
俺の遺伝子たちよ。
現実で放ってあげられなくてごめんな。
パンツを干しながらそんなことを思う。
夢の中で無双した分、現実世界はより陰鬱になる。
またゴミに会わなければならないのも苦痛だ。
ゴミが。



「おはよー」

教室に入ると、俺の身体を微妙な空気が包んだ。
何か違和感だ。
ゴミな3人も何か変だ。

「おい、おはよって」
「ああ、おはよ」「おはよう」「……まんじゅぅ」

やっと挨拶を返す。

「ってか、来週どこ行く?」

茶髪が話す。
まるで俺が見えていないみたいな感じで、3人だけで話しているみたいな感じで。

「え、何。どっか行くの?」
「君には話していませんでしたね」
「来週遊びに行くって話」
「まんじゅう……」

茶髪はめんどくさそうに言う。
なにそれ。
初耳なんだけど。

「お前も行きてーの?」
「そりゃ行くだろ」

なんで行かない方向で話が進んでんだ。

「……じゃ、一緒に行ってやるか」

茶髪が嫌そうに言う。
なんで上からなんだよ、と言おうとして、もう揉めたくなくて飲み込む。
無理に笑顔をつくる。

「ありがと」
「おう」
「まんじゅう……まん、じゅ、…ぅ……」
「でさ、何処行く?」

茶髪が3人の輪の中に戻る。
その輪の中に、俺は自然に入っているふりをする。

「博物館とか、どうでしょうか」
「落ち着けメガネ」

茶髪が茶化して言う。
空気が緩む。

「まんじゅう?」
「黙れまんじゅう」

まんじゅう。

「遊園地とかでいいんじゃね?」
「おう」

俺のは軽く流されてしまった。
なんだろうこの違和感。
3人と少しだけ距離があるような、そんな感じ。

「もーちょっとねーかなー」
「美術館、ですか」

遊ぶって意味わかってる? と茶髪が笑う。

「せんべい」
「キャラを保て」

3人はごく自然に溶け合っている。
溶け合っていて、でもそれぞれに自分がちゃんとある。

「水族館は?」
「水族館なー……」

俺は頑張って溶けようとして、自分すらも溶かしているのに。
3人は俺と溶けようとしていないような。

「とりあえず映画行こーぜ」
「映画……いいんじゃないですか」
「せんべ……まままんじゅう。まんじゅうっ!」
「映画いいな」

俺はみんなに合わせてみる。
それで溶け込めているような気がした。
茶髪は俺を一瞥しただけで何も言わない。
何なんだよ。

「何見る?」
「まんじゅうー」
「そうですね……『腐敗的創造(または腐敗神話)とその創造性や将来性に関する一考察(ただし必ずしも現実性を重んじない)』というのは?」

本じゃなくて映画の話だわ、と茶髪が言う。
実写化した映画ですよ、とメガネが無表情で言う。
原作を読みましたが過去の多岐に渡る研究を引き継ぎつつも著者の提示する新たな視点によってこれからの腐敗世界をより多層化させていく、と言う話で、なかなか楽しめましたよ。
なんか複雑だな。

「今あってるラブコメっぽいやつは?」
「それもいいけどな」

アクション系の気分かもなぁ、と茶髪が呟く。

「まんじゅう??」
「映画の話な?」
「来週に公開のやつとか?」

俺はなんとか普通に振る舞おうとする。

「いいんじゃね?」
「私が言ったのも捨てがたいですが……まぁいいでしょう」
「まんじゅう……」

3人も普通に振る舞っている、ように見えた。
でも何故か、距離を感じる。
表面だけで反応してるみたいな。

「じゃー来週、映画な」

もうどうでもいいけど。
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