境界線

風枝ちよ

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という夢を見た。
世界は相変わらずくるくる回っていた。
軽く回っていた。
軽やかに回転していた。
軽妙に転がっていた。
重さなんてまるでないみたいに。



「おはよー」
「おはよ!」「おはよう」「まんじゅうー……」

教室に入っていつもの3人と挨拶を交わす。
なんてことのない日常。
そんな日常が、なんだかとても貴重なものに思えた。
でもその違和感も、日常の空気に埋もれて消えてしまう。
普通。

「そーいや最近さぁ、強姦あったんだって?」

茶髪が自然に話す。
強姦、という単語に心の奥がちくりと痛んだ。
なんだ、これ。

「電車でしたよね」

メガネも話す。
電車、という言葉も妙に頭に引っかかる。
なんなんだよ。

「まんじゅう」

まんじゅうか。
そうか、そうだな。
まんじゅうだな。

「どうした? お前、顔怖くね?」
「大丈夫ですか?」
「まんじゅ…?」

3人の目が俺を覗く。
なんでもない、と俺は手をひらひら振って笑う。
うまく笑えてんのかな。
3人はそれで落ち着いて会話に戻る。
頭の中がズキズキと痛む。

「けど強姦なー……」
「まんじゅう…」
「人間としてどうなんでしょう」
「それな?」
「強姦はAVの中だけにしてほしいですね」
「まんじゅう!」
「現実と区別つかない奴がやるんだろ」
「区別、ですか」
「境界線くらい自分で引けっての」

3人はいつものように会話している。
其処に違和感はない。
俺も違和感なんて感じないはずなのに。
なんでだ。
何が変なのだろう。
俺だけが違う世界にいるような。
俺だけが周りに馴染めていないような。

「犯人は高校生だったらしいですよ」
「まんじゅう、まんじゅう」

内臓に糸をくくりつけて引かれているような痛みが走る。
どうしようもなくて、もうどうしようもなくて俺は蹲る。
おい、どうしました、まんじゅう、3人の声もどこか遠くに聞こえた。
どうしようもないんだ。
どうにもしようがないんだ。

境界線なんてもとから何処にもないんだ。





という夢を見た。






                   完
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感想 1

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みんなの感想(1件)

貝鳴みづす
2022.02.13 貝鳴みづす

ああ! これはめっちゃ面白いですね!!
まんじゅうまんじゅう
こういう頭がくるくるする作品は大好物です。
また、こういうの書いて下さい~!
まんじゅうまんじゅう

2022.05.13 風枝ちよ

ありがとうございます〜!
楽しんでいただけてよかったです!!
まんじゅうまんじゅう

解除

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