文芸部の小野塚眞緒は無口

風枝ちよ

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回復魔法のマオは無力

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迷いながらもなんとか建物から出て、宿舎に帰る。
もう慣れたはずの宿舎が、鍵のかからないドアが、冷たくマオを迎える。
硬いベッドが妙に痛く、なかなか寝れない。
この世界の何処かには、ふわふわなベッドで寝ている人もいるのに。
なんでマオはこうも、恵まれていないのだろう。
マオは、暗い思考に沈んでいく。
マオが強い魔力を持っていたら。
そもそもこの世に魔法がなかったら。
モンスターがいなかったら。
マオの人生は、違っていたかもしれない。
いや、もういっそ。
マオが、生まれてこなかったら。
何度も来た、思考の底に辿り着く。
今度のは、前よりも深いかもしれない。
自力では上がれないくらいに。
深く、暗く。
どうしようもなく、重い。
マオはそっと目を閉じる。



と。



窓の外を、絶叫が駆ける。
逃げろ、と誰かの叫び声。
誰かの泣く声。
極東支部部長が指示を出す声。
微かに聞こえるモンスターの咆哮。
それら全てが、何処か遠くの世界のように、現実味がなかった。
まるで夢の中のように。
実感が、ない。
誰かが部屋のドアを叩いていることに、マオはやっと気付く。
鍵のかかっていないドアは薄く開く。
はい、と緊張感のない返事が零れる。ドアの向こうの誰かが、何かを叫んでいる。
助けて。
切実な叫び声がマオの耳に届く。
勇者様もいないのよ、怒ったような悲しいような声。
マオは動かない。
冒険者なんでしょ、悲痛なくらいの叫び声。
窓の外で、何かが燃えている。明るい。
行こう、と思った。行かなきゃ、と思った。
マオは立ち上がる。
微力でも、行かないよりはいい、と思った。
マオは部屋から出て宿舎を出て、歩き出した。
モンスターが暴れていた。
1体や2体ではない。
何十体ものモンスターが群れをなしていた。
なんで、と考える暇もなくモンスターが向かってくる。
戦わねば。武器は。
武器は?
ないのならば魔法を使うしかない。
息を吸い、呪文を唱える。
何万回も練習した、回復魔法を。
呪文は爽やかな緑の光となり、モンスターの眉間に命中する。
モンスターは倒れない。むしろ活性化したような気がしないでもない。
マオが唱えたのは、回復魔法だっけ。
回復?
何か違う気がする。

「マオ!」

極東支部部長に名前を呼ばれる。

「なんで回復させた? 攻撃魔法を使え! せめて防御魔法だ! 使えないのなら帰れ!」

やっぱり来ないほうがよかった、とマオは思う。
弱い回復しか使えないマオは、いないほうがいいのかもしれない。
マオは宿舎に戻ろうと後ろを振り向く。
宿舎は燃えていた。恐らくモンスターの吐く炎によって。
マオは宿舎を諦め、極東支部の建物に向かう。
とぼとぼと、ゆっくりと歩く。
宿舎から逃げて来た人がマオを追い越す。
その人はマオにぶつかり、でも気にも留めずに走っていく。
マオは歩く。

「マオ、後ろ!!」

退却していた極東支部部長が叫ぶ。
その声につられてマオは振り向く。
黒かった。黒だけが目の前にあった。
目線を上げると、2つの目が赤く光っていた。
そのモンスターが右腕を振り上げ。
そこからの映像は、まるでスローモーションのように見えた。
モンスターの目はマオを見たまま、右腕が上がっていく。
頂点につき、右腕が一瞬止まる。
筋肉が隆起し、重力も伴って振り下ろされる。
死ぬときってこんな感じなのかな、と未だ状況が飲み込めてないままぼんやりと思う。
ここで食べられたら悲しんでくれる人はいるのかな、と考える。
いない、と結論が出る。
じゃあ死んでもいいな、と思う。
もしかしたら、誰も気付かないかもしれない。
そのほうがいいのかも、と思う。
誰も悲しまないのが一番いい、と思う。
モンスターの右腕の先端に、鋭い爪が見えた。
紅い炎に照らされてもなお、青白く光っている。
弧を描きながら降りてくる。
残像が見えた気がした。
爪がマオに接するまで、あと2秒。



マオは目を閉じた。
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