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3.完全な窮地
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3日目、白昼。
避けられない、と思ったのが一瞬。
まともに腹に1発叩き込まれた。地面に叩きつけられ、意識が飛んだ。
気がつくと地面に這いつくばっていた。
砂に手をつき身を起こす。吐き気と、ひどく刺す痛みが一気に襲ってきた。
「ゲホッ」
口の中に入り込んだ砂に、血が混じる。さっきの拍子に切ったらしい。
突然グイと後頭部を引っ張られ、クンッと顔が上に向く。さっき腹を殴ったゴツイ手が、今度は俺の束ねた髪を引っ張っていた。
「……ッ」
「どうしたよぅ? 最初の意気はよ? もう降参か?」
挑発に思わず拳を振り上げると、背後の1人の手がそれを掴む。
「ヒヒ、やめてやんなよ。オンナノコにしちゃあ、頑張ったほうだぜ」
「……誰が……っ」
再び振り上げた拳が掴まれる。力が……入らない。
「おおっと。あぶないあぶない。もうちょっとで吹っ飛ぶとこだったぁ」
「……ッ」
「よくみりゃほんとに女みたいだなコイツ。髪なげーし、細せーし、ちっけぇし」
「………」
気持ち悪い笑みで見下ろすヤツらを、目で数える。
全部で5人。
暗い路地裏にいるのは、俺とその5人だけだった。
無論、いつも一緒にいるはずの仲間の姿もない。
携えていた剣も、今や鞘ごと5人目の手の中にある。
すでに満身創痍で立つのもやっと。完璧な窮地だ。
「ちゃんと、ついてんだろうな?」
「確かめてみればぁ?」
さっきのヤツがこちらに腕を伸ばす。
「ん? えらいしおらしいな」
「観念したんじゃね」
合いの手を入れてるヤツか後ろから両手を掴んできて、ゴツイヤツが正面に立ってベルトに手を伸ばす。
触れるか否かのタイミングで、先程まで集中していた分の力を解き放った。
「触んじゃねぇ!」
ブワリと腕から火が噴き出す。後ろに居たヤツが血相を変えて手を離す。
正面のヤツもピタリと手を止め、じりじりと後ずさる。
「近づいてみろ、燃やすからな」
両腕に火を纏わせたまま、5人を見回す。幻影の炎で暗い路地が赤黒く照らされる。
刹那、背後の気配を感じて腕を振り上げる。
「ぎゃああっ!?」
まさに飛び掛ろうとした瞬間、男は火達磨になり、地面をゴロゴロと転がる。
「コイツ……!」
「ただの向こう見ずじゃ無かったか」
包囲の輪が広がっていく。
炎の効力もあまり長くはないだろう。折を見て駆け出そうとした矢先だった。
「………っ……!?」
ピン、と糸の張る音を聞いた気がした。それきり指先1つ、ピクリとも動かせなくなった。
視界に糸はない。
まして、糸でこれほど強固に身動きが取れなくなるはずなかった。
場で、ただ1人だけが落ち着いていた。動揺する4人の奥で、俺の剣を手にした男と目が合う。
「奇術師……なんて呼べもしない。てんで素人だ」
彼は音もなく歩みよると、ニコリと微笑んでみせる。
「だけど、子供騙しとはいえ面白い術だな。初めて見るよぉ」
「……っっ……」
コイツは、本物の魔術師らしかった。大地においては希有の存在。ほいほい道端で会えはしないはずなのに。
ただ、この術を見ていないのなら、正統に魔法都市で訓練を受けたわけではないんだろう。
「……組合の、人間か?」
ようやく口だけが動いた。
「そういうツテがあるってだけだよ」
余裕の笑みで魔術師は答える。
「ひゅー、ビビらせるぜ」
「どうやら万策尽きたと見える。これ以上術を行使する必要もないだろうさ」
体中の抵抗が一気に無くなり、俺はその場に崩れ落ちる。言う通り、策は尽きていた。最後の切り札だった魔術も、維持するには気力の限界だった。起き上がれるかも怪しい。
実力にそぐわない術行使のツケが一気に回ってくる。平衡感覚が狂い、意識が遠くなっていく。起き上がろうと指先で砂を掻いたけれど、無駄だった。
周囲の音が遠くなっていく。
駄目だ……本気でまずい。
「どうするよ、コイツ……」
「ひょっとしたら金になるぜ……それに……」
そのまま、意識は闇に溶けていった。
避けられない、と思ったのが一瞬。
まともに腹に1発叩き込まれた。地面に叩きつけられ、意識が飛んだ。
気がつくと地面に這いつくばっていた。
砂に手をつき身を起こす。吐き気と、ひどく刺す痛みが一気に襲ってきた。
「ゲホッ」
口の中に入り込んだ砂に、血が混じる。さっきの拍子に切ったらしい。
突然グイと後頭部を引っ張られ、クンッと顔が上に向く。さっき腹を殴ったゴツイ手が、今度は俺の束ねた髪を引っ張っていた。
「……ッ」
「どうしたよぅ? 最初の意気はよ? もう降参か?」
挑発に思わず拳を振り上げると、背後の1人の手がそれを掴む。
「ヒヒ、やめてやんなよ。オンナノコにしちゃあ、頑張ったほうだぜ」
「……誰が……っ」
再び振り上げた拳が掴まれる。力が……入らない。
「おおっと。あぶないあぶない。もうちょっとで吹っ飛ぶとこだったぁ」
「……ッ」
「よくみりゃほんとに女みたいだなコイツ。髪なげーし、細せーし、ちっけぇし」
「………」
気持ち悪い笑みで見下ろすヤツらを、目で数える。
全部で5人。
暗い路地裏にいるのは、俺とその5人だけだった。
無論、いつも一緒にいるはずの仲間の姿もない。
携えていた剣も、今や鞘ごと5人目の手の中にある。
すでに満身創痍で立つのもやっと。完璧な窮地だ。
「ちゃんと、ついてんだろうな?」
「確かめてみればぁ?」
さっきのヤツがこちらに腕を伸ばす。
「ん? えらいしおらしいな」
「観念したんじゃね」
合いの手を入れてるヤツか後ろから両手を掴んできて、ゴツイヤツが正面に立ってベルトに手を伸ばす。
触れるか否かのタイミングで、先程まで集中していた分の力を解き放った。
「触んじゃねぇ!」
ブワリと腕から火が噴き出す。後ろに居たヤツが血相を変えて手を離す。
正面のヤツもピタリと手を止め、じりじりと後ずさる。
「近づいてみろ、燃やすからな」
両腕に火を纏わせたまま、5人を見回す。幻影の炎で暗い路地が赤黒く照らされる。
刹那、背後の気配を感じて腕を振り上げる。
「ぎゃああっ!?」
まさに飛び掛ろうとした瞬間、男は火達磨になり、地面をゴロゴロと転がる。
「コイツ……!」
「ただの向こう見ずじゃ無かったか」
包囲の輪が広がっていく。
炎の効力もあまり長くはないだろう。折を見て駆け出そうとした矢先だった。
「………っ……!?」
ピン、と糸の張る音を聞いた気がした。それきり指先1つ、ピクリとも動かせなくなった。
視界に糸はない。
まして、糸でこれほど強固に身動きが取れなくなるはずなかった。
場で、ただ1人だけが落ち着いていた。動揺する4人の奥で、俺の剣を手にした男と目が合う。
「奇術師……なんて呼べもしない。てんで素人だ」
彼は音もなく歩みよると、ニコリと微笑んでみせる。
「だけど、子供騙しとはいえ面白い術だな。初めて見るよぉ」
「……っっ……」
コイツは、本物の魔術師らしかった。大地においては希有の存在。ほいほい道端で会えはしないはずなのに。
ただ、この術を見ていないのなら、正統に魔法都市で訓練を受けたわけではないんだろう。
「……組合の、人間か?」
ようやく口だけが動いた。
「そういうツテがあるってだけだよ」
余裕の笑みで魔術師は答える。
「ひゅー、ビビらせるぜ」
「どうやら万策尽きたと見える。これ以上術を行使する必要もないだろうさ」
体中の抵抗が一気に無くなり、俺はその場に崩れ落ちる。言う通り、策は尽きていた。最後の切り札だった魔術も、維持するには気力の限界だった。起き上がれるかも怪しい。
実力にそぐわない術行使のツケが一気に回ってくる。平衡感覚が狂い、意識が遠くなっていく。起き上がろうと指先で砂を掻いたけれど、無駄だった。
周囲の音が遠くなっていく。
駄目だ……本気でまずい。
「どうするよ、コイツ……」
「ひょっとしたら金になるぜ……それに……」
そのまま、意識は闇に溶けていった。
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