追放された荷物持ち~魔法は使えないけど、最強剣術で冒険者SSSランク!?完全回復魔法が使える幼馴染は一緒についてきてくれるそうです~

柳原猫乃助

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第一章 勇者追放

第二十話 夢

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~~~~~~

真っ赤に燃える炎の中。

熱くてどうしようもないそこで、彼がいた。

私を守ってくれている。

いつでも、どこでも。

昔交わした約束を、今になっても平然と守ろうとしてくれている。

きっと馬鹿なんだろうな。

きっと正直なんだろうな。

きっと優しいんだろうな。



だから私みたいな卑劣な存在に利用されている。



色々と考えが廻るなかで、それでも彼は対峙する数々の悪意と戦う姿をみてこう思った。

神様、どうかアギトを勝たせてください。

神様、どうかアギトを救ってください。



神様、どうか卑怯で愚かな私を罰してください。



私は、本当はアギトに助けてもらえる資格なんてない。

そんなに立派な女の子じゃない。

似合わないよ。

お姫様なんて。

~~~~~~


独立してから初めての依頼をこなして、およそ一週間が過ぎた。
その間に三つほど依頼を達成した二人は、リーデシアから送られてきた招待状を手に、指定のホテルへと向かっていた。
いつぞやの、別れた際に泊まっていたホテルとは別物であり、ランクは下がったように見えるがそれでも自分達が利用している宿より高額なのだと想像していた。

「ヒナ、なにかあったら言えよ」

「…………うん。大丈夫」

そういう陽菜野は元気がなかった。
誰の目から見ても明らかで、しかも朝から変わらずという状態。

「本当に大丈夫か? どうせ、無視しても問題はないと思うが」

「ううん。ちゃんと決着をつけないと。アギトにも迷惑かけちゃうから」

「別に気にするなよ」

「それにね、私昨日寝るときね、夢を見たんだ」

「夢?」

「うん。夢、忘れられないあのときの」

「あー」

「きっと頑張んなきゃって意味なんだと思うんだ。私なんて本当はそんな大層な人間じゃなくて、もっと浅ましくて、卑劣で」

「…………」

「…………だからねアギト、私ね、やっぱり」

「…………おら」

するとアギトは陽菜野の頬を突然引っ張った。

「ふわぁ!?」

「おー餅肌。伸びるな」

「ふぁにふるのぉー!」

腕をぶんぶん振って抵抗する彼女に、彼はすぐさま手を離す。
軽く赤くなった頬を擦りながら、じっとりとした目つきで睨んだ。

「もぉー」

「ん。まあそんぐらいのほうがいいだろう」

「なにがー?」

「お前の顔つき。しんみり考えているなんて似合わない」

「…………うん」

「きっぱり断るだけ。ただそれだけだよ。気にすんな。夢なんていくらでも見るんだから」

「…………あはは、そうだね」

納得行くように、笑みを見せる陽菜野。
それがまだ完全でないことを、アギトは良く解っていた。

黒い雨雲が空を覆う天候。
されど、晴れ間はいずれ来るだろう。
ラジオの天気予報では、午後辺りから明るくなるらしいのだ。

エントランスの受付に招待状を渡すと、二人はそのままエレベーターで16階まで上がり、そこのVIPルームへと案内される。
勇者召喚で呼ばれたものの技術によって構築されたここは、しかし内装はゼブラール帝国様式で、中世ヨーロッパを思わせる豪華な仕上がり。

機能と美術を融合させた部屋に、陽菜野がまず行ったのは、探知魔法だった。
部屋内部に怪しい反応はなく、トラップの可能性もない。

「大丈夫……かな」

「…………相も変わらず、貴族ってのは高値の部屋に住みたがるんだな」

「しょうがないもん。それが家名の力の証明に繋がるから」

「そういうものか」

高名な画家や彫刻家が産み出した、数々の品々が囲み、その間にある花瓶には青い花が生けられている。
床は高級感溢れるカーペットで、家具も逸品。
ソファの座り心地は、凄まじいといっても過言ではなかった。

二人はしばらく部屋を調べたが、この部屋が豪華絢爛に作られている以上には解らなかった。

「怪しいところはない。本当に決着をつけるだけなのかな」

「油断はしなくていいだろう。警戒しつつこのまま____」

と、アギトはいいかけた時。
陽菜野がふらついて、転びそうになってしまう。
思わずの状況だが、咄嗟に激突を防ぐ。

「おいヒナ! どうしたんだ!?」

「あ、あれ? なんか、あたまが、ぼーっとしへぇ…………」

目が虚ろとなって、焦点があっていない。
呂律が痺れたように回らず、それ以降黙ってしまう。

「ヒナ!! ヒナ!! くそ、なにが、ぁ____」

それは、前触れもなくやってきた。
平衡感覚が吹き飛び、まるで体幹が引っこ抜かれたように倒れてしまう。
辛うじて陽菜野だけは守るが、脚に力が入らない。
抵抗する余力は使えず、意識が薄れかける。

誰かが、部屋に入ってきたのがみえた。

「本当に馬鹿ね。私達が対策をしないと思ったのかしら」

「このまま殺すわリーデシア。止めないで」

「ええ、存分にやりなさいカリン」

また、別の誰かが入室する。
音だけで判別するアギトだが、最早なにがなんだか解らなかった。
思考は停止し、目蓋が鉛のように重たい。

「よくやったよみんな」

「ドラニコス様!! こ、これはその」

「ああ、心配するなカリン。俺は怒ってない。寧ろ誉めているんだよ。これで、屑の荷物持ちに思い知らせてやることができるし、アサギリを教育できるからね」

必死に掴んでいた意識は、そこで途切れた。





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