追放された荷物持ち~魔法は使えないけど、最強剣術で冒険者SSSランク!?完全回復魔法が使える幼馴染は一緒についてきてくれるそうです~

柳原猫乃助

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第一章 勇者追放

第十九話 土下座

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元の世界、元いた国の謝り方であったそれを見るのは、陽菜野にとって初めてのことで、驚愕に値することだった。
なによりも、プライドが高いリーデシアが、地面に額を擦り付けるようなことをするとは思えなかったのだ。

彼女だけではない。
パーティにいた頃からあれこれ敵愾心を向けていたカリンとエレーミアも、同じように土下座をしている。
特にエレーミアはゼブラール貴族だ。
勇者召喚で呼ばれたとはいえ、身分に差がある相手にこうすることは、意外すぎた。

「お願いアサギリ。あなたじゃないと駄目なの。あなたがもう一度彼の好意を断ってくれないと、ドラニコスは踏ん切りがつかないわ」

「ちょっと、やめてよ……」

街道から外れているとはいえ、通行人の視線が刺さる。
夕暮れ故か、それはより鋭く感じられた。
こうなると無理矢理通ることの方が恥知らずに見られかねない。
そう考えた陽菜野は、アギトと目を合わせる。
彼は荷物持ち呼ばわりしてきた連中を見下ろしていた。

「…………あなたからもお願いクサナギ。今までのことは全部謝罪する。お金も払うわ。それでも気が済まないなら、私を一晩好きにしてもいいわ」

その言葉は明らかな必死さがあった。
どうしても陽菜野をドラニコスともう一度対話させて、そして諦めさせたい。
そのためならば如何なる対価も払うつもりであること。
アギトは頭をかいて、応えた。

「要らねぇよ気持ち悪い。だがヒナ、勇者のやつにきちんと諦めさせておいた方がいいかもしれないな」

「でも…………」

「それにこいつら、きっと日が暮れるまでやるつもりだぞ。依頼の報告とあるし、不安なら俺も一緒にいくから」

その言葉に、リーデシアは微笑んだ。
顔は見られていない。
その為に、こんなことをしているのだから。

「お願いアサギリ。どうか、どうか…………」

押しの一言だったのかもしれない。
悩む陽菜野はそれを聞いて、仕方なさそうに、ため息をついた。

「…………はぁ、解った。もう一度話すよ。でも結果は変わらないから」

「それでいい。本当にありがとう」

「もういくね。日程とか場所とか、決まったら教えて」

そうして、二人は土下座する三人を尻目に、都市へと戻っていった。

暫くして、完全に二人の姿が見えなくなったのを確認すると、リーデシアは立ち上がった。

「クソチビブスが、調子に乗っていたわね。なにが結果は変わらないだって? あの恥知らずのメスガキが。どれだけあいつは、私達のドラニコスを見下して、雑に扱うのかしら! たくさん恩寵を受けたくせに!!」

怒りに震える拳は、血が滲んでいた。
策とはいえ、あんな女へ、頭を地面に擦り付けたのだから。
吐きたくなるような気持ちだった。
リーデシアがそうだったのかだから、他の二人……特にカリンの嫌悪感はすさまじかった。
ようやく乗りきったと言わんばかりに、その場で吐き散らかした。

「おえっ、おええ!!」

「ちょ、カリン!!」

「ゲホゲホ! くそ、くそぉ!! あのチビブスぅう!! 絶対ぶっ殺してやる! ぶっ殺してやる!!」

「ええ、絶対に殺しましょう。殺す時には、たくさん苦しみを与えましょう。だから今は落ち着いて」

エレーミアも頭を上げた。
その目元は涙で赤くなっていた。

「うぅ、屈辱だ……家名に泥を塗ってしまったぁ!」

「エレーミアも落ち着いて。いい? ここまでしたにはあの間抜けなチビブスと、役に立たない荷物持ちを誘導するため。問題ないわ、きっと払った代償の結果は手に入る」

涙をハンカチで拭き取ってやり、リーデシアは貴族の仲間に肩を貸した。
立ち上がる長年の友人は、決意に漲っている。
口元を拭う聖職者も殺意が迸っている。
魔法士はそれらを確認して、道具袋から次に使う物を取り出した。

「異世界から来たドラニコスをたぶらかすブタどもに、身の程を教えてやりましょう」


@@@@@@


アギトと陽菜野はその後、ギルドへと向かっていた。
受付嬢ティーシャから報酬金を受け取ると、一仕事を終えていたセシル達と合流する。

「どうだった、貴族様の依頼は?」

「もう色々と大変だったよー。でも、なんとかやり遂げたから、これからも頑張るぞー!」

乾杯の音頭から二杯目のビールを煽るセシルに、陽菜野はそう応えた。
見てくれでは気合い十分といった様子だが、アギトから見ればそれが、空元気だというのは見抜けていた。

勿論、セシルも陽菜野がなにかあったことは解っていた。
しかし必要以上に介入することは、彼女の自由意思を無視することになる。
冒険者からすると、それは下道だ。
陽菜野が話したくなったら話してくれるだろう。
そう結論付けて、兎に角今は祝うことにした。
セシルパーティの面々も大体同じ考えで、あるいは酒の席を暗くさせたくないからか、賑やかに振る舞った。

宴は続くが、二人は先に宿へと戻る。
色々な疲れが全身に満載したところで、食う飲むをしたからか、深目の睡魔がやってきていた。
鍵を開けるのも精一杯というような有り様で、限界は近い。

「シャワー、浴びなきゃ…………」

「ああ…………」

「先、いい?」

「どうぞ…………」

「わーい…………ふぁ」

 あくびをしながら、部屋のシャワールームに入る陽菜野。
その間アギトはふらふらと部屋着へと着替える。
装備を専用のハンガーにかけて、ドレッサーの中に仕舞い、太刀も置き場へとたてかけた。
道具袋の中身を取り出し、数量のチェック。
確認がとれたら元に戻して、夜のラジオ番組を流し始めた。

『はぁーい♪ 今晩はっ、リクシィです♪ 国連制定時間21:00になりました♪ 今夜も面白おかしいお話に、どうか付き合ってください♪ それではタイトルコール! ”ザ・ミドルナイトタイム”』

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