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第一章 勇者追放
第十八話 帰路
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一晩、関門の宿でこし、デリアドへの帰路についたアギトと陽菜野はポポノ村まで戻っていた。
夕暮れ時となり、ここから更に戻れば途中で夜間になる。
夜間といえば、あのまま出発したホルッテスとトランストは大丈夫だろうか?
そんな疑問を二人は抱かなかった。
彼の能力と経験は、百人中一人の割合しか到達できないランクが証明している。
それが大丈夫だと判断したのなら、心配無用だろう。
宿で村名物のビーフシチューを食べながら、そんなことを語り合っていた。
そして、朝になってからすぐに出発した。
お弁当を購入して、さながらピクニックにでも行くような気分であるが、最低限の魔獣の警戒はしている。
空模様も快晴そのものだと眺めながら街道を進んでいくと、すれ違う三名の一団の先頭を歩く人物と目があった。
なんとなく会釈する陽菜野に、相手も頭を軽く傾けた。
一団も同じ冒険者らしく、全員同じ年頃の少女であった。
先頭の人物は動きやすそうな和服に、大きめな栗毛のポニーテールで、親しみのある顔立ちが印象強かった。
腰の見える位置に二振りの短刀と、札帳のようなものが吊るしている。
それに続く人物はぼーっと空を眺めている、明るめな短い茶髪に無邪気な子供っぽい顔立ちの少女。
背丈も陽菜野と同じくらいであるが、それよりも特徴敵なのが犬耳と尻尾を生やしている部分だった。
ヒュードッグの身体特徴に合わせたチャイナ服に見える半袖と、半ズボンに濃い緑のマフラーの服装、そして背中には鉄で補強された棒を背負っていた。
最後尾の少女はロングストレートの黒髪で、凛々しい印象があった。
他の二人とは違い西洋風な服飾で、武器もレイピアである。
体振る舞いの所作から、それなりの高名な家柄の娘だと解るがゼブラール帝国貴族とは違う雰囲気を漂わせていた。
言い換えるなら、軍人のような、ピリピリとした空気というのだろうか。
陽菜野は口にしこそしなかったが、少しだけ視線で追っていた。
それに相手は気がついた。
歩みを止めて、視線を合わせた陽菜野に振り向く。
「なにか御用ですか?」
「あっ、すみません。なんでもありません」
「そうでしたか。では」
規則正しい美声で言うと、凛々しい貴族の娘は、足を止めていた仲間の元に戻って進み出す。
そのあとを軽く追って、同じく待っているアギトに謝って歩きだした。
「なんか、トランストさんとは比べ物にならないくらい、こう凛々しい貴族さんだったね」
「貴族なのか?」
「解んないけど、そんな感じだった」
「…………まあ、俺は二人目の犬耳が気になったけど」
「…………え?」
「体幹の動かし方が他二人と明らかに違った。あれは相当な鍛練を積んでいるな」
「あー、そうなんだ。そうだったね」
「なんだよ」
「別にー」
そんな雑談や休憩を挟みつつ進む二人は、弁当に舌鼓をうち、行きとは遥かに違う気持ちで都市への道を歩き続けた。
都市が見えたのは夕暮れ時。
ちょうどいい時間帯につけたものだと、言葉を交わしあっている最中であった。
街道のど真ん中、明らかに待ち伏せをしていた形で三人の見覚えがある女達が、二人の前に現れた。
聖職者カリン、女騎士エレーミア、魔法士リーデシア。
歓迎的な雰囲気ではなく、明らかな敵意がそこにあった。
「待っていたわ。アサギリに、薄汚い荷物持ち」
「…………リーデシア? なにか用?」
陽菜野は顔色を変えず、探知魔法をうつ。
どうやらドラニコスはいないようだ。
登録してある魔力波形に、該当するものは存在しない。
「そんなに陰険な表情を向けないでくれる。ブスが映るの」
言葉を選んでいないところからも、三名だけというのうは、確実とみるべきか。
状況を冷静に判断する陽菜野の思考は、続いて相手の意図を探ることに当てられた。
「ブスっていうほうがブスなんだけど。喧嘩をする気?」
「まさか。いくらチビブスといえども、その魔力は侮れない。正面からこうして戦うなんてする筈がないわ」
「じゃあなに。私達忙しいから。用がないならとっとと退いてくれないかな。あなたみたいな化粧臭い女の臭いが移るから」
「ふん、言ってくれるわね。まあいいわ。ここでこれ以上、角を付き合わせるつもりもないし。本題よ。今すぐ私達のパーティに戻りなさい」
「断るよ」
「…………その荷物持ちと一緒に行動していたら、どうなるか解っているでしょう。魔力がなく、野蛮な冒険者の一味として、憐れにもその程度で終わることになるわよ」
「そう。ご忠告どうも。さようなら」
道を外れて避けるように進み出す陽菜野とアギトだが、リーデシアたちはまだ行く手を遮る。
「なに?」
「あなたの存在がドラニコスには必要なのよ」
「別にいいでしょ。私、チビブスだし。それにあなたたちがいるじゃない」
「…………あなたを希望しているのよ、ドラニコスは」
「関係無い」
「別に戻らなくてもいいわ。ただ、一度、もう一度だけ話をしてほしいの。それで彼を諦めさせればいいのよ」
「なんで私がそんなことしなくちゃいけないの」
「私達が何度言っても聞いてくれないから」
「…………へぇ、それは大変だね。だとしても関係無いから」
「報酬は払うわ」
「お金の問題じゃないから。早く退いて」
「必要ならなんでもする」
「そういうことでもない。私達はもう勇者パーティと関わりたくないの」
断言する陽菜野だが、リーデシアはそれでも続けた。
膝を折り、地面に手をついて、額を下げる。
土下座の作法がゼブラールにも存在している。
かつて、高名な勇者が残した伝統的な作法として。
最高位の願い事や、謝罪時に使うものだった。
夕暮れ時となり、ここから更に戻れば途中で夜間になる。
夜間といえば、あのまま出発したホルッテスとトランストは大丈夫だろうか?
そんな疑問を二人は抱かなかった。
彼の能力と経験は、百人中一人の割合しか到達できないランクが証明している。
それが大丈夫だと判断したのなら、心配無用だろう。
宿で村名物のビーフシチューを食べながら、そんなことを語り合っていた。
そして、朝になってからすぐに出発した。
お弁当を購入して、さながらピクニックにでも行くような気分であるが、最低限の魔獣の警戒はしている。
空模様も快晴そのものだと眺めながら街道を進んでいくと、すれ違う三名の一団の先頭を歩く人物と目があった。
なんとなく会釈する陽菜野に、相手も頭を軽く傾けた。
一団も同じ冒険者らしく、全員同じ年頃の少女であった。
先頭の人物は動きやすそうな和服に、大きめな栗毛のポニーテールで、親しみのある顔立ちが印象強かった。
腰の見える位置に二振りの短刀と、札帳のようなものが吊るしている。
それに続く人物はぼーっと空を眺めている、明るめな短い茶髪に無邪気な子供っぽい顔立ちの少女。
背丈も陽菜野と同じくらいであるが、それよりも特徴敵なのが犬耳と尻尾を生やしている部分だった。
ヒュードッグの身体特徴に合わせたチャイナ服に見える半袖と、半ズボンに濃い緑のマフラーの服装、そして背中には鉄で補強された棒を背負っていた。
最後尾の少女はロングストレートの黒髪で、凛々しい印象があった。
他の二人とは違い西洋風な服飾で、武器もレイピアである。
体振る舞いの所作から、それなりの高名な家柄の娘だと解るがゼブラール帝国貴族とは違う雰囲気を漂わせていた。
言い換えるなら、軍人のような、ピリピリとした空気というのだろうか。
陽菜野は口にしこそしなかったが、少しだけ視線で追っていた。
それに相手は気がついた。
歩みを止めて、視線を合わせた陽菜野に振り向く。
「なにか御用ですか?」
「あっ、すみません。なんでもありません」
「そうでしたか。では」
規則正しい美声で言うと、凛々しい貴族の娘は、足を止めていた仲間の元に戻って進み出す。
そのあとを軽く追って、同じく待っているアギトに謝って歩きだした。
「なんか、トランストさんとは比べ物にならないくらい、こう凛々しい貴族さんだったね」
「貴族なのか?」
「解んないけど、そんな感じだった」
「…………まあ、俺は二人目の犬耳が気になったけど」
「…………え?」
「体幹の動かし方が他二人と明らかに違った。あれは相当な鍛練を積んでいるな」
「あー、そうなんだ。そうだったね」
「なんだよ」
「別にー」
そんな雑談や休憩を挟みつつ進む二人は、弁当に舌鼓をうち、行きとは遥かに違う気持ちで都市への道を歩き続けた。
都市が見えたのは夕暮れ時。
ちょうどいい時間帯につけたものだと、言葉を交わしあっている最中であった。
街道のど真ん中、明らかに待ち伏せをしていた形で三人の見覚えがある女達が、二人の前に現れた。
聖職者カリン、女騎士エレーミア、魔法士リーデシア。
歓迎的な雰囲気ではなく、明らかな敵意がそこにあった。
「待っていたわ。アサギリに、薄汚い荷物持ち」
「…………リーデシア? なにか用?」
陽菜野は顔色を変えず、探知魔法をうつ。
どうやらドラニコスはいないようだ。
登録してある魔力波形に、該当するものは存在しない。
「そんなに陰険な表情を向けないでくれる。ブスが映るの」
言葉を選んでいないところからも、三名だけというのうは、確実とみるべきか。
状況を冷静に判断する陽菜野の思考は、続いて相手の意図を探ることに当てられた。
「ブスっていうほうがブスなんだけど。喧嘩をする気?」
「まさか。いくらチビブスといえども、その魔力は侮れない。正面からこうして戦うなんてする筈がないわ」
「じゃあなに。私達忙しいから。用がないならとっとと退いてくれないかな。あなたみたいな化粧臭い女の臭いが移るから」
「ふん、言ってくれるわね。まあいいわ。ここでこれ以上、角を付き合わせるつもりもないし。本題よ。今すぐ私達のパーティに戻りなさい」
「断るよ」
「…………その荷物持ちと一緒に行動していたら、どうなるか解っているでしょう。魔力がなく、野蛮な冒険者の一味として、憐れにもその程度で終わることになるわよ」
「そう。ご忠告どうも。さようなら」
道を外れて避けるように進み出す陽菜野とアギトだが、リーデシアたちはまだ行く手を遮る。
「なに?」
「あなたの存在がドラニコスには必要なのよ」
「別にいいでしょ。私、チビブスだし。それにあなたたちがいるじゃない」
「…………あなたを希望しているのよ、ドラニコスは」
「関係無い」
「別に戻らなくてもいいわ。ただ、一度、もう一度だけ話をしてほしいの。それで彼を諦めさせればいいのよ」
「なんで私がそんなことしなくちゃいけないの」
「私達が何度言っても聞いてくれないから」
「…………へぇ、それは大変だね。だとしても関係無いから」
「報酬は払うわ」
「お金の問題じゃないから。早く退いて」
「必要ならなんでもする」
「そういうことでもない。私達はもう勇者パーティと関わりたくないの」
断言する陽菜野だが、リーデシアはそれでも続けた。
膝を折り、地面に手をついて、額を下げる。
土下座の作法がゼブラールにも存在している。
かつて、高名な勇者が残した伝統的な作法として。
最高位の願い事や、謝罪時に使うものだった。
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