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第二章 勇者降臨

第三十二話 剣術

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大和皇国。
遥か東方の大陸にて存在する独特な文化や体制で知られている国。

早い話、言い換えれば日本である。
かつて皇族の末裔の一人が、この異世界に召喚されたことが切っ掛けであり、以後幻魔暦の時代を生き延びていた。
ゼブラール帝国と比べてやや大きめな国ではあり、現在では融和的な外交政策によって、相手国を選ばない商売で大儲けしているらしい。

聞き齧った情報から推察する陽菜野は、その地の生まれである、ハーフエルフのミヤビのことを振り返ってみていた。

「なにか御質問がありますか?」

「ああいえ、その、なんというか。なんで私達についてきたのかなーって」

街道のど真ん中。
目的地まであと一時間足らず。
徒歩で進んでいる故の長さに、生まれてくる暇を潰すことも兼ねて陽菜野が問う。
ミヤビは何気無く答えた。

「それはもちろん、件の勇者誘拐事件の被害者とお話がしたかったからです」

「あー、やっぱりですか」

「もうずいぶんマスコミに聞かれましたか?」

「嫌って言うぐらい聞いてきましたから。頭にきて、依頼だったら高値の報酬と引き換えだって、言ったらすぐに無くなりました」

「それはよい手段ですね。奴等はハイエナですから。ともあれ、ご無事でなによりです」

「あははは…………それで、コウサカさんは」

「気軽にミヤビと読んでください。ファミリーネームはあまり馴染みが薄いものでして」

それはすなわち、自分が何らかの養子であることを告白しているようであった。
無論、そうであると決まったわけではないが。
前だけをみてすたすた進むアギトは、陽菜野達の会話を聞きつづける。

「では、ミヤビさんはなにを聞きたいんですか?」

「はい。幾つかあるんですが、まず一つ目。神槍を両断したとされる剣術についてです」

「あ、それからアギトが早いと思うので。アギトー」

呼ばれたので顔を僅かに向ける。

「あれが、なんだって?」

「オルハリコンで構築されているランスを、粗悪な鋼鉄で形だけ真似た太刀で正面から切り落とす。そんなことが、単に剣術だけで成せるのでしょうか? 当時はアサギリさんのバックアップもなかったと報告書で見たことがあります。にも関わらずそれをやってのけたのは、どうして?」

「別に特別なことはしてないが」

「貴方にとってはそうなのかもしれません。しかし私達にとって、そうではないのです。どうか教えていただけませんか?」

深く聞いてくる様子に、アギトはなんとなく嫌な感じがした。
まるで、麻薬でも持ち歩いているのかと、疑われるようなそんな感じだった。
頭を掻きながら、彼は答える。

「…………示現流だ」

「ジゲン、リュウ?」

「俺達の世界にも昔、太刀を使っていた連中がいて、そいつらが編み出した剣術だ。全身全霊の一撃を叩き込む。そんなもんだ」

「…………それだけ?」

「それだけ」

目を丸くするミヤビに、アギトはため息混じりに続けることにした。

「難しいことも、魔法的なこともない。単に、太刀を大上段に構えて、それを一気に袈裟斬りで」

「待ってください。そんな大振りなんてしたら、外した時間違いなく隙だらけになりませんか?」

「そうだけど……それが?」

「え」

「二の太刀要らず」

「…………」

「避けることや次のことを考える暇もなく、一気に叩き込めば勝敗はそれでつく。単純明快で、難しく考えることもない。それだけさ」

「そんな剣術が…………」

「ここにはないのか?」

「…………大和で一番使われているのは御劔流ですね。ただ、そんな初太刀でどうにかするなんてのは聞いてことが」

「俺はそっちの方が知らないな。ま、いいけど」

「なんであれ、クサナギさんはその、ジゲンリュウでランスを切り落とした。そう言うことでよろしいでしょうか?」

「ああ。ちなみに実践とかは、あまりおすすめはしないが」

「いえ、それはこれから見極めさせてもらおうかと」

なるほど。
なにが目的か解らないが、魔獣を倒す姿で真実か否かを確かめるのか。
アギトはそう判断すると、やや暇そうにあくびをしていた陽菜野へと目線が向く。

「ヒナ、一気に魔法で吹き飛ばすのは無しだ。一匹ずつチマチマやるぞ」

「ほーい。でも相手はジャイアントベアだよ?」

ジャイアントベアは巨体が特徴の熊型の魔獣であり、成体となれば5mを超える固体も存在する。
本来は山の奥にひっそりと暮らす魔獣だが、時折幼体が餌を求めては街道に出ることがあった。
まだ子どもと言えど、人間を捻り殺す位は造作もない程の膂力と、名に等しく2m代の全長は脅威である。
さらに、依頼書の内容にはジャイアントベアの幼体が複数体固まって、群れとなっていた情報が記載されていた。
どういう経緯でそうなったかは不明だが、母体が死亡し、生き残った子供達が群れているのだろうか。
なんにせよ、危険度の上昇は無視出来ないものだった。

「問題ない。やるぞ」

「危険になったら」

ちらっと、陽菜野の視線を感じて、ミヤビが頷く。

「もちろん。私が手伝います。こう見えて、一応ランクAなんで」

「Sだろ?」

「それは非公認の奴ですから」

ともあれ、一同は依頼書にあるエリアへと向かった。
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