追放された荷物持ち~魔法は使えないけど、最強剣術で冒険者SSSランク!?完全回復魔法が使える幼馴染は一緒についてきてくれるそうです~

柳原猫乃助

文字の大きさ
47 / 85
第二章 勇者降臨

第四十二話 商人

しおりを挟む
バザールも半分は見終えると、適当な屋台で買った軽食を食べて、残りの半分へと進む。
ゼブラール帝国の特産品だけでも多種多様なものがあり、見飽きることがない。

「き、君たちは!?」

と、しばらく見ていると二人は声をかけられて、振り向くと懐かしい顔に目があった。

「あんたは確か……」

「トランストさん?」

トランスト・フォン・ハルコヴィル
アギト達がセシルパーティーから独立した際に、初めて受けた依頼の依頼者である。
あれから2、3ヶ月程時間が開いたが、中年腹と顔立ち以外はほとんど別人になっていた。
全体的に清潔感が叩き込まれ、異国の衣装は立派な商人の卵な雰囲気を纏っている。

「いやはやまさかこうして出会えるとは……最初に出会った頃はなんと言うかその……私は子供っぽくて、すでに忘れられていたと思っていた」

「あんたを忘れるにはもうしばらくかかりそうだった」

脇腹を肘でつかれるアギト。

「トランストさんはあれから商人として修行を?」

「そうなんだよ。いやぁ、兄上から色々と叩き込まれて…………うん。まあそこは語らなくてもよいか」

よっぽど思い出したくない経験をしたのだろう。
そうでなければ僅かな期間で人間がこうも変化するなどあり得ないからだ。

「とりあえず隣国のアメリア合衆国にいって、そこで商才のなんたるかを教えて貰った。そのあとは南の大陸から来たという行商団に混じって、オルフェリア王国にいって……うん、まあ、品々を見て貰えれば解るだろう」

彼が開いている露店には、アメリア合衆国とオルフェリア王国の特産品がずらりとならんでいた。
そして、トランストが属している行商団の生地である、南の大陸の国々からきた果物や物品も備わっている。

「なにか気に入ったものがあれば是非とも。割引はするよ」

「それじゃあ」

陽菜野が選んだのはスパイスや香辛料の数々。
地方都市のデリアドでは、専門店にすら並ばないものばかりである。
それらを特別価格で購入した。
ついでにアギトも選んだ。
アメリア合衆国で一番ウケているという、ポテトチップスだ。

「まさかこの世界でポテチがあるなんてね」

「ああ、しかも見ろ。のり塩味だ」

二人がなにをそんなにめずらしがっているのか、トランストには理解できなかったが、喜んで貰っているのはなによりだと考える。

「それはね、異世界から来たって言われている職人が作ったものらしいんだ。あまりの美味しさに、誰もが病み付きになるらしいよ」

「へぇ」

「でも食べ過ぎは注意が必要だ。なにせ、あんまり食べた感じがしないくせに、四袋ぐらい食べた頃にはビックリするぐらい太っているらしいからね」

この世界でも、ポテチはメタボを量産しているらしい。
そんなどうでもいいことを知れた二人だが、あとは幾つかの工芸品を何気なく見たり買ったりする。

そうして気が付いた頃には夕暮れに差し掛かっていた。
トランストから商人修行の旅路を軽く聞いていただけであるが、彼もそれなりに厳しく、そして刺激たっぷりの道なりは二人の好奇心を満たすことに十分すぎた。

「と、すこし話しすぎたようだね。ごめんよ」

「いえ、トランストさんが元気にやっているそうで何よりです」

「…………はは、君らには実のところ、感謝をしているんだ」

「私たちに、ですか?」

「ああ。君らが依頼を受けてくれなければ、私はずっと、家のなかで引きこもっていただけの男になっていた。貴族として家名をたてるわけでもなく、ただひたすら無駄に時間を浪費して…………依頼中も君らには迷惑を沢山かけたなぁ」

そう言って、彼は恥ずかしそうに頭をかいた。

「いえいえそんな」「ああ、非常に面倒な」

肘鉄で、アギトを黙らせると、陽菜野は返す。

「トランストさんが立ち上がるきっかけになれたかは解りませんが、そう思っていただいただけでも嬉しいです。これからも商人としての成功を祈っています」

「ああ。私も、君らが冒険者として名を馳せることを期待してるよ」

商人トランストは笑うと、陽菜野もつられて微笑んだ。

「ではこれで」

「じゃあな」

時間帯的にもそろそろな頃合い。
二人は立ち去ろうと踵を返そうとすると、トランストが思い出して呼び止めた。

「一つ、君らに渡すものがあった」

彼が駐留している馬車から取り出したもの。
それは、陽菜野が抱えられそうなほどの、大きな卵である。
しかし見た目は卵と大きくかけ離れており、薄い青色のクリスタルの塊にも見えなくはない。
むしろ、一目見て卵だと解るものもいないだろう。

「これは…………」

「確かアサギリさんは動物が好きなんだよね。これはドラゴンの卵なんだ」

「ええ!?」

「ははははっ、ていうらしいけど、本当かどうかよく解らないんだ。商人修行の途中で貰ったものなんだけど、よかったら記念に持っていってくれないか」

「い、いいんですか? どう見てもクリスタルの塊にしか」

「いいんだ。もし本当にドラゴンの卵なら、孵ったときに私では対応しきれないからね。私を助けると思って貰ってくれ」

悩む陽菜野の目を向けられ、アギトは仕方なさそうに、それを受け取った。

「後で金請求するなよ」

「いいさ。将来君らが大成したときに、私の顧客になってくれればね」

微笑むトランストに、陽菜野は再度深々とお礼をして、二人の冒険者は去っていく。
その背中を見送った彼に、ちょうど仕事を終えた人物が報告してくる。
アギト達の背中は人混みに紛れてもうみえない。

「オッサン、最後の荷物は運んでおいたぜ」

「おお、ありがとう。君らにも苦労をかけたね」

トランストから仕事、すなわち依頼をうけた人物は二人組だった。
一人はマッチョマンというようながたいの少年。
もう一人は犬耳と尻尾を生やしている少女。

「いいってことさ。これも報酬金の内ってわけよ」

少年が楽しげに言うと、少女も続く。

「これにて依頼内容の完遂とする。良い仕事だった。また機会があれば依頼してくれ」

「その時は、またよろしく頼むね。ジークブラッドさんに、シバさん」

そうして背伸びするジークブラッドは、早速露店側から客側へと進んだ。

「んじゃオッサン、とりあえずポテチ一つな」

「ああ、一つ170ゼニスだ」

「へへ、のり塩味は元の世界と変わらないほど、味が深いぜ」

金銭を払い、その場で豪快に食べる相棒に、シバはあきれ果てていた。

「…………子供だ……どうかしたか、トランストさん」

「いやなに。デリアドでの恩人たちと似たような反応をするなぁと」

「…………ここにもそんな子供が他にもいるのか。面倒だな」

うっすらとした視線を突き刺されながらも、筋肉少年冒険者は気にせず、犬耳少女冒険者にポテチを手渡した。
彼女は、仕方なく数枚のチップスを小気味良く食した。

確かに、のり塩味は深かった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...