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第二章 勇者降臨

第五十一話 雑談

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夜になり、宿に戻ったアギトと陽菜野。
なんだか大変なことが起きた。
という空気だけは解った二人だが、知的に理解している陽菜野の方はやや深刻そうな表情だった。

「はぁ、これから大変になるんだろうなー」

「そうなのか」

「そうだよ、少しは解ってる?」

「解っているつもり」

「本当かなぁ……」

懐疑的な彼女に、アギトは気にせず部屋の扉の鍵をあけて入る。
すぐ見える位置に置かれてある卵に変化はない。

「数日経ったがまだ産まれないか。本当にあれでいいのか?」

「いいんだよあれで。とりあえずシャワー先に入るからねー」

そういってシャワールームへと入る陽菜野を見送り、キラキラした宝石と見紛うほどの卵をすこしだけ観察し、すぐさま興味をラジオ番組に移した。
スイッチを入れて、チャンネルを合わせる。
対応した魔導音波を受信し、ポップなオープニングBGMにあわせて、メインキャストが語り始めた。

『はぁーい♪ 今晩はっ、リクシィです♪ 国連制定時間21:00になりました♪ 今夜も面白おかしいお話に、どうか付き合ってください♪ それではタイトルコール! ”ザ・ミドルナイトタイム”』

と同時に、玄関の扉がノックされる。
椅子に座りかけていたアギトだが、とりあえず応対する為向かい、開く。
そこにいたのはブリッツとシバだった。
学友の方は片手に菓子と飲み物が入っている袋を差し出しながら、スナイパー冒険者の方は付き合わされている感を醸し出している。

「よっ、暇だから来たぜ」

「…………シバ、嫌なら付き合わなくてもいいんだからな」

ガチムチをスルーしつつ、相対的にこじんまりとしている犬耳娘は首を横にふった。

「いえ、迷惑ではありませんので」

「そうか」

なんとなく似ているような、似ていないような二人だが、対応の扱いになれているブリッツはそのまま部屋の奥へと進んでいく。
部屋主の許可位取らないのか?
そう言いたげなシバ。
それにアギトは視線で応えた。
いつものことだ。

「おおっ、ドラゴンの卵よ。今日も大して変わらんなぁ」

呑気な台詞を聞いて、アギトは頭をかきながらシバも向かいいれる。
部屋の中央にテーブルをもってきて、押し入れからは折り畳み式の椅子を二つ用意された。
それに座るシバとブリッツ。
早速筋肉冒険者が袋の菓子を広げつつ、皆で遊べるボードゲームを道具袋から取り出した。
その間にも番組は流れる。

『____ではここでラジオネーム、貴公子のポエニストさんからのコメントです♪ こんにちわリクシィ様、”ザ・ミドルナイトタイム”いつも楽しく拝聴しています。こちらこそ、いつもご丁寧な挨拶、ありがとうございます♪ 最近仕事を変えたのですが、そこで一緒になった同僚が背中から胸に手を伸ばして____』

「んー、”ザ・ミドルナイトタイム”のリクシィの声はまるで天使だぜ…………荒んだ異世界では唯一無二のオアシスボイスだな」

「なにを言っているのかさっぱりですが、クサナギさんもこのような女性の声が好きなんですか?」

そう問われながら座るアギト。
即答する。

「別に。ただこの時間帯に定期的にやっている番組がこれだけなんだ。あとは音楽番組かニュースばかりで、正直退屈なんだよ」

「なるほど。どうやらクサナギさんは、この筋肉達磨よりは信頼できそうな人なんだと、再認識しました」

と言われると、ブリッツは訴える。

「シバぁ! お前は男のなんたるかを知るべき必要がある! 娼館に言っただけで簡単に女の敵認定してくるなんて、酷すぎると! 女の声を褒め称えただけで、変態扱いされるとか最悪だと!」

「…………初めて得た報酬金で、安い娼婦を買いに行ったなんて、最悪以下です。クサナギさんはそのような場所に行きませんよね?」

なんともタイムリーな話題だった。
すでに過ぎ去って数日とは言え、娼館に行った事実を思い出す。
何一つ楽しくなかったことは間違いないし、娼婦を買いたいとも積極的には思わなかった。
であるならば、無論、答えは決まっている。
事実はどうであれ、乗りきれるほど自然な心意気で。

「行かな」

「行ったよねー。アギトもー。えっちなお店にー」

背後から死刑宣告のノリで、陽菜野がそう言った。
その瞬間の悪寒は、アギトが生涯一度も感じなかったほど寒かったという。
相反して、燃え盛るように勢いを増した奴が立ち上がった。
無論、ブリッツである。

「おおっ!! アギト行ったのかぁ!!」

「あ、いや、それは」

誤魔化そうと立ち上がるが、陽菜野の勢いはそれを許さない。

「おまけに、二階に上がって、女の人と素敵なことをしたんでしょ?」

「な、なんだってぇ!!?」

悪友の本気で驚いている姿を久方ぶりに見たと思いつつ、冷ややかな笑みと失望の眼差しを向けられていることに、アギトは弁明を試みた。

「違う、これには深いわけが、その……確かに行ったは行った。だが別に俺は行きたかったわけじゃない。仕方なかったんだ」

されど、それは逆風となって、シバのアギト評価を下げるだけだった。
陽菜野と二人で寄り添い、こそこそと喋り始める。

「…………やっぱりクサナギさんも男なんですね…………不潔です、最低です…………」

「…………そうなんだよ。アギトは悪い事をするとすぐバレる嘘ばっかり…………」

最早どうにもならない、しばらく陽菜野の攻勢に耐えるしかなかった。
唯一の救いは、あの時とは違い、同情と尊敬の意をもつ奴が隣にいるのとだけである。

「解るぜアギト……お前、大人になりたかったんだよな。オレもそうなんだぜ?」

「……………………」

同情するな、気持ち悪い。
と言わなかったのは、彼が精神的な意味合いで大人だったからかもしれない。

しばらく三人はアギトを弄り倒して、とりあえずの釈明を陽菜野からいれてやり、なんとなく空気を入れ換えた。

「それにしても、お二人は幼馴染だと聞きましたが」

アギトと陽菜野が頷き、シバは周囲を改めて見回し、続けた。

「…………同棲しているんですね」

「まあ」「そうだね」

互いに顔を合わせて応えると、シバの表情は素朴な疑問を浮かべた。

「お付き合いされている?」

「違う」「付き合ってないよ」

「はあ…………」

その言葉に、ブリッツはニヤニヤと笑った。
初対面の時にも、自分も同じようなことを考えていたからだ。
筋肉の笑みに嫌悪感を示しつつ、更に続けた。

「では、その、性的な経験は?」

「「あるわけないでしょ」」

ほぼ二人同時の回答であることと、その内容にシバの思考は大いに狂った。

「そんな、お二人ほどのお年頃ならすでにここは、愛の巣と言っても過言ではないかと」

「シバちゃん。それ以上は止めようか?」

「あ、はい。すみません、踏み込みすぎました」
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